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第十八話(レオナルド視点)
しおりを挟む「お帰りなさい、レオナルド様」
帰宅して真っ先にカティアの部屋を訪れたレオナルドに対してどこか困ったように眉を下げるカティア。前髪の隙間から覗く盛り上がった傷跡を見るたびに自分の罪を突きつけられる。
それでも、レオナルドはカティアからの「お帰りなさい」がとても嬉しい。カトリーナのはつらつとした声とは違う、彼女の柔らかな声が心地いいのだ。
カティアの怪我から二か月が経った。
カティアは気にしないでといったが、カティアの傷は紛れもなくレオナルドのせいで。
彼女の優しさに触れるたび、レオナルドは果て無き後悔と自分への怒りに押しつぶされそうだった。
そうしてこの二か月間カティアと過ごす中で、彼女がどれほど優しく、思いやりがあり、そして自分のキズに無頓着であるかを知った。傷つき、諦め、自分の気持ちを押し殺すことが当たり前になった彼女の微笑みが心に突き刺さる。
そして困ったように微笑まれるたび、自分と彼女の間に横たわる深い溝に絶望する。
彼女からの信頼を得られないのは自分のせいなのに。それなのに、屈託なくセバスやマリアと笑い合う彼女の姿を見るたびに、あったかもしれない日々を夢想して傷つくのだ――そんな資格などないにもかかわらず。
カトリーナのことが好きだった。彼女以外に愛せる人はいないと思っていた。彼女を守ることが当たり前だと思っていた。
それがニセモノだなんて考えてもみなかった。
事実を知った時、涙は出なかった。ただただ虚しかった。
事態は動いた。
レオナルドも、彼らも。
事実を知った今、無かったことにはできない。
レオナルド達の罪は、欠片の疑問も抱かなかったこと。傲慢だったこと。自分たちが正義だと思っていたこと。
カトリーナの罪は、自分本位だったこと。
週に一度のあのお茶会がまやかしだったなんて。彼女に対する情熱が麻薬による偽物だったなんて。何年もの間騙され続けたレオナルド達はまるでピエロだ。
カティアの怪我のおかげで、あのお茶会に参加しなくなったことで麻薬の効果が切れるなんて――皮肉だ。
心のどこかで周囲の人間を蔑んでいた。媚を売るしかない人間だと軽蔑していた。それなのに、自分のことは特別だと思っていた。自分が間違うことなどあるはずがないと思っていたのだ。
その矛盾に気づいた時、4人はただ乾いた笑いを漏らすしかなかった。
彼女は秘密裏に処刑される。公にしたら国が傾く。
この間違いを噛みしめ、もう二度と過ちを犯さないように4人は何事もなかったかのように生きていくしかない。
自分の間違いも、罪も、懺悔も。全てを一人抱えて生きていくのと公の場で裁かれるのとでは、一体どちらの方が辛いのか。
少なくとも、全てを明らかにしてカティアに謝罪できないことは、今のレオナルドにとって一番の罰に違いない。
この先永久に、彼女からの信頼は勝ちえないだろう。
ましてや、愛されることなどない――永遠に。
彼女が朗らかに笑うたび、その笑顔が自分には向けられることのない事実に胸がじくじくと痛む資格は――レオナルドにはないのだから。
だから今日もすべてを飲み込み、彼女のもとを訪ねる。
願わくば、彼女が怒れますように。
泣くことも、怒ることもせずすべてを許した彼女が自分の本心に気づけますように。
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