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第十四話

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 その日の夕食は賑やかだった。


 嫁いできてからも、実家でも、ずっと一人で食事をしていたカティアは、誰かと一緒に食べることの心地よさを実感する。

「仕事はちゃんとやってるか?」

「カティアさんとは仲良くやってるの?」

「大丈夫ですよ、父上、母上。仕事は問題ありませんし、カティアとも上手くやってます」

「ほんとう? 何か不満はないかしら、カティアさん」

 ミンティアの問いに首を振るカティア。

「不満なんてありません。良くしてもらっています、ミンティア様」


 基本的にレオナルドと彼の両親がしゃべり、カティアは時々相槌を打ったり聞かれたことに答えるだけで、食事は終始和やかだった。

 レオナルドも表面上はカティアを嫌うそぶりを見せず、両親と笑い合っていて。

 三人の姿を眺め、家族ってこんな感じなのだろうかと思うカティア。



 酷く自然で、完璧で、理想的で。


 楽しい食事会のはずなのに。
 久々に誰かと一緒に食事ができて嬉しいはずなのに。



 カティアは自分が場違いで邪魔者のような気がして心が沈んだ。



 それでもそんな心情など欠片も表さず微笑み続けたカティア。

 そんなカティアの微笑む姿を見てミンティアが懐かしそうに口を開いた。


「微笑む顔があなたのお母さんにそっくりだわ。覚えているかしら、リーシャさんのことを」


――リーシャ

 それはカティアの母親の名前だ。


「私とあなたのお母さん、リーシャさんは仲が良くてね。爵位は違うけれど姉妹のように過ごしていたわ。結婚の時期も一緒で、その時約束したの。将来子供ができてその子が男の子と女の子だったら、私たちの子供を結婚させましょうって。口約束だったし、リーシャさんはあなたを産んですぐに亡くなってしまったけれど……。でもいつまでたっても結婚しないレオナルドの妻になるのはカティアさんしかいないって思ったの」


 ずっと不思議だったのだ。
 なぜ公爵家の長男が爵位の劣る、持参金もないカティアに結婚を申し込んだのか。

 だが、今分かった。

――お母様のおかげだったのね。

  その口約束がなければ、カティアはきっと今もあの家にいるか、誰かの後妻として嫁いでいただろう。

――義母と義姉が私を幸せにするはずがないもの。


 リーシャとミンティアの約束があったから今がある。




――お母様、ありがとうございます。



 カティアは天国の母に深く感謝した。







*~*~*~*~*~*~*~*~






 レオナルドとカティアの様子を見ることが目的だったのだろう。

 一泊した彼らは翌日には帰って行った。




 そしてカティアの部屋はまた元の場所に戻り、二人の関係も改善されないまま二か月が過ぎたある日。



 王家主催の夜会の招待状がレオナルドとカティアのもとへと届き。




 一年ぶりに二人そろって夜会に出席することとなった。


 一年前のあの時のカティアはまだマリアやセバスと打ち解けられておらず一人ぼっちだった。

 一人置き去りにされ、義母と義姉の標的となったあの夜会はカティアのトラウマとなっている。



 でも、今のカティアは一人ではない。

 レオナルドに顧みられないことに変わりはないが、それでも。

 一年前の自分より強くなれたと思う。
 
 全てを完璧にしないとという強迫感はもうない。


 きっとダンスは踊らないし、また一人置き去りにされるのだろう。

 それでも、そのことに心は痛まない。
 不思議なほど晴れ晴れとした気分だ。


――私は今幸せ。レオナルド様もカトリーナ様と上手くいってほしいわ。





 期待しなければ、こんなにも心は自由だ。



 ただ一つ残念なのは、あの時あった温もりが今は側にないこと。

 一年前カティアを勇気づけてくれたルーダは今はいない。



 そのことだけが、カティアの心に小さな影を落とした。






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