15 / 30
第十四話
しおりを挟むその日の夕食は賑やかだった。
嫁いできてからも、実家でも、ずっと一人で食事をしていたカティアは、誰かと一緒に食べることの心地よさを実感する。
「仕事はちゃんとやってるか?」
「カティアさんとは仲良くやってるの?」
「大丈夫ですよ、父上、母上。仕事は問題ありませんし、カティアとも上手くやってます」
「ほんとう? 何か不満はないかしら、カティアさん」
ミンティアの問いに首を振るカティア。
「不満なんてありません。良くしてもらっています、ミンティア様」
基本的にレオナルドと彼の両親がしゃべり、カティアは時々相槌を打ったり聞かれたことに答えるだけで、食事は終始和やかだった。
レオナルドも表面上はカティアを嫌うそぶりを見せず、両親と笑い合っていて。
三人の姿を眺め、家族ってこんな感じなのだろうかと思うカティア。
酷く自然で、完璧で、理想的で。
楽しい食事会のはずなのに。
久々に誰かと一緒に食事ができて嬉しいはずなのに。
カティアは自分が場違いで邪魔者のような気がして心が沈んだ。
それでもそんな心情など欠片も表さず微笑み続けたカティア。
そんなカティアの微笑む姿を見てミンティアが懐かしそうに口を開いた。
「微笑む顔があなたのお母さんにそっくりだわ。覚えているかしら、リーシャさんのことを」
――リーシャ
それはカティアの母親の名前だ。
「私とあなたのお母さん、リーシャさんは仲が良くてね。爵位は違うけれど姉妹のように過ごしていたわ。結婚の時期も一緒で、その時約束したの。将来子供ができてその子が男の子と女の子だったら、私たちの子供を結婚させましょうって。口約束だったし、リーシャさんはあなたを産んですぐに亡くなってしまったけれど……。でもいつまでたっても結婚しないレオナルドの妻になるのはカティアさんしかいないって思ったの」
ずっと不思議だったのだ。
なぜ公爵家の長男が爵位の劣る、持参金もないカティアに結婚を申し込んだのか。
だが、今分かった。
――お母様のおかげだったのね。
その口約束がなければ、カティアはきっと今もあの家にいるか、誰かの後妻として嫁いでいただろう。
――義母と義姉が私を幸せにするはずがないもの。
リーシャとミンティアの約束があったから今がある。
――お母様、ありがとうございます。
カティアは天国の母に深く感謝した。
*~*~*~*~*~*~*~*~
レオナルドとカティアの様子を見ることが目的だったのだろう。
一泊した彼らは翌日には帰って行った。
そしてカティアの部屋はまた元の場所に戻り、二人の関係も改善されないまま二か月が過ぎたある日。
王家主催の夜会の招待状がレオナルドとカティアのもとへと届き。
一年ぶりに二人そろって夜会に出席することとなった。
一年前のあの時のカティアはまだマリアやセバスと打ち解けられておらず一人ぼっちだった。
一人置き去りにされ、義母と義姉の標的となったあの夜会はカティアのトラウマとなっている。
でも、今のカティアは一人ではない。
レオナルドに顧みられないことに変わりはないが、それでも。
一年前の自分より強くなれたと思う。
全てを完璧にしないとという強迫感はもうない。
きっとダンスは踊らないし、また一人置き去りにされるのだろう。
それでも、そのことに心は痛まない。
不思議なほど晴れ晴れとした気分だ。
――私は今幸せ。レオナルド様もカトリーナ様と上手くいってほしいわ。
期待しなければ、こんなにも心は自由だ。
ただ一つ残念なのは、あの時あった温もりが今は側にないこと。
一年前カティアを勇気づけてくれたルーダは今はいない。
そのことだけが、カティアの心に小さな影を落とした。
21
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
婚約破棄で絶望しましたが、私は愛し愛される人に出会えて幸せです
腹鳴ちゃん
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄されたフロリアーヌ。愛されていると思っていたお父様と信頼していた婚約者に裏切られ、絶望する。
しかし、精霊様の力を借りて記憶を消し、新たな世界へ!そこでは今までの生活とは全然違う!真に愛する人も見つかって、フロリアーヌは幸せになります。
元『気持ちの切り替えだけは得意です。』連載版に合わせて変えました。
死を表現するところがあるため、保険でR15にしておきます。
当方、処女作のため温かい目で見てくださると助かります。
お話書くのってむずかしい
※なろう様にも掲載しております。
お気に入り・しおり登録ありがとうございます!
婚約者を親友に寝取られた王太子殿下〜洗脳された婚約者は浮気相手の子供を妊娠したので一緒に育てようと言ってきたので捨てました
window
恋愛
王太子オリバー・ロビンソンは最愛の婚約者のアイラ・ハンプシャー公爵令嬢との
結婚生活に胸を弾ませていた。
だがオリバー殿下は絶望のどん底に突き落とされる。
あなたを愛する心は珠の中
れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。
母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。
アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。
傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。
ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。
記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。
アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。
アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。
*なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております
浮気した婚約者を振ったが彼が毎日私に復縁を迫り愛の告白をしてくる〜人妻と不倫して妊娠がわかり彼を捨てた〜彼は結婚して借金地獄で人妻を虐待する
window
恋愛
婚約していたシャーロットとマックス。
彼のマックスの浮気が原因で二人は別れた。
しかし毎日のように復縁を迫り褒めて求愛する彼。
シャーロットも徐々に気持ちが変わっていくが、ある日彼の裏の顔を知ってしまった。
人妻と不倫していたのだ。しかも人妻は妊娠。シャーロットは呆れて彼に愛想を尽かす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる