異世界の花婿になりまして

コスモス

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第2章

本当の過去

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   次の日俺は朝起きると何故か、全裸でレオさんの隣で寝ていた。
そして俺はつい驚きのあまり朝から大きな声で叫んでしまった。

  「ギャー!?何で俺ここにいるの?なんで裸?」

  「はぁー・・・朝からうるせぇぞぉー」

  「いやだって、これ・・・どういうことですか?」

  「何って、お前が酒に酔って俺から全く離れようとしなかったから適当に風呂に入れて一緒に寝た。それだけだ・・・あ~もしかして期待したのか?」

  「ち、違いますよ!」

   俺は全く意図していなかったのに、レオさんにからかわれ恥ずかしくなり、顔を赤くしながら近くにあった枕でレオさんをたたき、必死に照れ隠しをした。

するとレオさんは「何すんだコイツ!」と楽しそうに言いながら、初夏に使うような厚さの大きな布団で、ガバッと上から包み込んできた。
 
 「ふぎゅ!お、重い」
 
 「おっと、悪い悪い。大丈夫か?」
 
 「はい、大丈夫です」
 
   そう俺が笑顔で言うと、レオさんは優しくフッと笑うと、右手で俺の目元をこすり「早く顔洗ってこい。俺はすぐに出る」と言われた。
俺はかなり驚き惚けていると、レオさんに早くしろと促され、俺は急いで洗面台に向かった。

俺は顔を洗い自分の部屋に戻り、着替えてから食堂に向かうと、マルクがニコニコとなにやらうれしそうに俺に話しかけてきた。

   「昴様おはようございます。今朝は楽しそうでしたね!」

「え、聞こえてた?」
 
「はい、私達共は久し振りにあんな大きな声で笑うレオ様の声を聞きました」
 
「そうなんだ」
 
本当はその理由を聞きたいと思ったが、ただのお尋ね者である俺が理由を聞くのは失礼かと思い、聞きたい気持ちをぐっとこらえた。
 
 
 
    そして朝食を食べ終わり紅茶でホット一息つくと、マルクに今日は天気がとても良いから庭に出ると良いと言われたので、俺はとりあえず昨日から気になっていた、おじいさんから貰った本を屋敷の庭で読む事にした。

俺はその庭の真ん中にある白色のパラソルがついた、ガーデンテーブルの椅子に腰掛け、大きく息を吸いリラックスしていると、周りの花々と木々からとてもいい匂いと心地よいそよ風が俺を包んだ。

そして早速本の1ページを開くと、本の中身はまっさらの白紙だった。
俺は思わず驚いて、え?と声に出して言ってしまった。
俺はあそこの本棚にあるものだからてっきりこの国についての事や、物語などが書いてあるものだと想像していたので、少しがっかりした気持ちになった。

そして俺は本を閉じ、その本の表紙や裏表紙や背表紙の縁にある美しい刺繍をなぞりじっくりと観察した。
すると突然その本の表紙が眩しく光った。
そして光が収まってから表紙を見ると、表紙の中央よりも少し上の所に金色の刺繍で、

      ────真実よ、今ここに ────

と、書いてあった。
俺が驚き「え!?」と言っていると、本がバラバラっと開き勝手にちょうど真ん中のページのところが開いた。

そして俺はゴクリと喉を鳴らし、その本にまるですい込まれるかのように、まっさらな白紙のページに触れた。



  俺は目を開けると、あの白い本を片手にさっきまでいた庭とは全く別の世界にいた。
その世界は王様の話していた昔話に出てきた世界に似た、色とりどりの美しい花畑が広がる今までに見たことも無い世界だった。

そして辺りを見回すと、俺よりも少し若い男性が木の幹に寄りかかって気持ちよさそうに寝ていた。
俺はその人を見てこんなところで寝ていたら風邪を引くと思い、その人を起こそうと触れようとすると、何故か俺の指が男性の体を通り抜けてしまった。
驚いた俺はよく俺の体を見て見ると、どうやら俺の体が透けているようだった。
 
そして俺が驚き混乱していると、その人はいつの間にか目を覚まし起き上がると、当たりを不思議そうに見渡していた。

するとどこからともなく美しい白い鹿が現れ、その人と話をしていた。
その話の内容を聞くと、王様が言っていたこととほぼ同じだったので、俺はとても驚いた。

そして俺は王様が言っていた昔話を直接この目で見ているのではないかと2人の話を聞いていてほぼほぼ確信していた。
確信したからといって、元の世界に帰ることができるはずもなく、俺はここにいても仕方が無いと思い、とりあえず2人後についていき様子を見てみる事にした。

最初はぎこちなく時々男性の方から鹿に話しかけ、鹿はそうか、とか時折男性の顔を見るくらいだった。
しかし、しばらくすると鹿は男性に気を許したのか、お互いに少しずつ会話すくらいになっていった。

そしてお互いに存在を意識し合い楽しそうに話したり、寄り添ったりし始めた頃に、鹿が男性に子共を作ることを提案してきた。
子供を作れば寂しくはないだろうと、鹿は男性の寂しさを紛らわせるためにと言ってはいたが、本当は鹿が男性との間に形として何か残し、愛を育みたかったかのように俺は見えた。

すると男性は男同士なのに子供ができるはずがないと言うと、鹿は私ならできると言ってその場にスっと立つと、突然鹿から人間へと足の先から変化していった。
その鹿は当然何も衣服を着てはいなかったが、思わず見入ってしまうほどの筋肉の締まった美しい肉体だった。
そして鹿の部分は耳と角と尻尾がそのまま残っており、人間離れした美しい白い肌と長い白い髪が風でなびいていた。

すると男性は驚き思わず後ずさりをした。
しかし鹿はそんな様子を気にすること無く、無表情で男性に近づき抱きつくと、頬を優しく撫で、愛おしそうにその人を見つめていた。
その様子を見た俺は、鹿は男性に恋をしている事に確信を持った。

そしてその人は少し動揺しながらも鹿の気持ちを受け入れたのか、2人はいつも男性が寝ているテントの中に入るとしばらく出てこなかった。
というのも、だいたいこの後の展開が読めていたので、俺は他人の営みを覗き見する趣味はないので、さっさとその場から退散した。

そして2日たったある日、やっとテントから出てきたなと思ったら、鹿は元の姿に戻っており、男性はとても充たされ幸福そうな表情をして、愛おしそうに優しくお腹をさすっていた。
あの表情はまさに母親が身ごもった大切な我が子に向けた慈愛の眼差しだった。

   そしてしばらくすると、男性のお腹が次第に大きくなり、鹿は不安そうにする男性から決して離れること無く寄り添っていた。

そして6ヶ月がたとうとした時に、男性が苦しそうに蹲りうずくま、鹿に産まれると訴えかけた。
すると鹿はまた人間の姿になると、男性を抱えテントの中に入っていった。

しばらく俺はテントの外で待っていると、赤ちゃんの元気な産声と男性と鹿の嬉しそうな笑い声が聞こえた。
俺は無事に出産が出来て心から安心し、うれしく思った。

そして3週間を過ぎたあたりから、男性と子供が外に出て子供を散歩に連れて行ったり、人間の姿のままの鹿と楽しそうに話をしたりと、平和な日常が過ぎていった。

   そして俺はいつになったらこの物語から出られるのだろうかと思っていると、突然またあの本が手から突然離れ目の前に現れて、本のページがまた勝手にバラバラっと右から左へと進んだ。

そして俺は何が起きたのか分からず、え?え?と驚き前を見ると、突然世界がゆがみ眩しく光を放った。
そして思わず瞑ってしまった目を開けると、彼らがさっきまで住んでいたテントから立派な木の家へと変化していたので、俺はだいぶ月日がたったことに気がついた。

すると家のドアが勢いよく開くと5人の子供達が、元気よく飛び出してきた。

そしてその5人を追いかけるように、痩せて弱々しくなったあの男性と、それを後ろから支える相変わらず美しい鹿が現れた。

男性の姿は医療に全く詳しくない俺でもわかるほどに弱っていて、いつ死んでもおかしくないような顔色をしていたが。
元気な子供達の相手をできる限りしているようだった。

   そしてまた本のページがバラバラと進むと、男性は苦しそうな表情で、椅子に座っているのがやっとのようだった。
子供達は男性の様子を常に伺い心配そうに見つめ、そばを離れようとはしなかった。

すると夜子供達が寝静まった頃に鹿は辛く重苦しそうな顔で、男性に元の世界に戻るように言った。
当然男性は拒んだが、鹿はお前をここで死なせる訳にはいかないと言って、子供達を無理矢理起こし、男性の後ろに現れた真っ暗な穴に子供達と男性を突き落とした。

そして鹿は一滴の涙をツッーと流すと、魂が抜けたように無表情になり、鹿の姿に戻ると、森の奥に行ってしまった。

 そしてまた本のページがバラバラと進むと今度は別の世界に飛ばされてしまったようだった。
するとその世界には森の奥に集落があり、そこの中心の広場にはあの男性が年をとった姿でおり、そしてその周りに多くの子供達と、人間と動物が集まって楽しく話をしているようだった。

その男性は鹿が願った通り長生きをし、孫やひ孫に囲まれて楽しそうだったが、子供達に隠れて時折寂しそうな顔をしていた。

 そしてまた本のページがバラバラと進むと時が進んだらしく、そこは大きな国となり人間と獣人が入り交じった状態でお互いに楽しそうに暮らしていた。

 すると本はバラバラとまた進み大きな戦争や、新たな王様の誕生日、新しい国ができる様子など、この世界の大きな出来事を次々に見て回った。
そしてそれと同時に、人間の人口も徐々に減っていっていた。

   そして本の最後のページには、男性から鹿へのメッセージが書かれていた。

  「愛するひとよ、私の愛は今も心の中に生きています」

   それを読み上げると白いカーネーションを押し花にしたしおりが上から振ってきて、本の間に挟まった。

   そしてそれを手に取ると、突然本がまたバラバラと一番始めのページまで戻ると同時に、俺の意識も遠のいて行った。
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