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第1章 婚約破棄に至るまで
46.儚くも消えゆく灯
しおりを挟む月に導かれるように歩き出したリシュベルの下から、何かが『かつん』と音を立てて転がり落ちていった。
「え?」
音がした辺りに目をやると、床には月の光とはまた違った、青白く光る何かを見つけた。それは、今も部屋を照らし続ける月の光とは全く対照的で、とても小さな、ともすれば見落としてしまいそうなまでの小さな小さな輝きだった。
「⋯⋯?」
怪訝な表情をしながらもリシュベルがそれに近づいていくと、その光はまるで、自分はここだと主張するかのようにさらに輝きを増した。
だが、それもほんの一瞬のことだった。
リシュベルがその傍近くまで来ると、その光はまた元の弱々しい光へと姿を戻していった。
そこに転がっているものがなにかを認識した途端、リシュベルの身体に震えが走った。
「⋯⋯う、そ。どうして」
そこに在ったものとは——。
それは最早、原型を留めないまでに砕かれてしまった小さな石の破片であった。リシュベルがその存在を知らなければ、それが元は青い石の一部だったことにすら気付かなかっだろう。
リシュベルは慌ててその小さな破片を手に取ると、くしゃりと顔を歪め、痛ましい表情でそれを見つめた。
リシュベルの手で守られるように包まれたその小さな欠片は、光っては消え、光っては消えを繰り返し、まるでその命の灯火は今にも消えてしまいそうだった。
「どうしてっ。どうして、こんなっ⋯⋯!」
ーーこんな酷い有様になっているのか。
リシュベルが見つけた命の欠片。
それはアレクから渡された守護石の一部だった。
もはや、『石』と表現してしまうのも憚られるほど無残な姿になってしまったそれを握り締めると、リシュベルはそれを大切そうに胸に抱き、何度も何度もそれに詫びると嗚咽をもらし始めた。
「ごめんなさい。ごめんなさいっ。ごめんなさいっ⋯⋯!」
どうしてかは分からなかったが、リシュベルはそうしなければならないと感じた。
「⋯⋯⋯⋯ごめ、なさっ。ごめ⋯⋯っ」
その欠片を抱きしめ、謝罪の言葉を繰り返すしかなかったリシュベルの嘆きはやがて激しい慟哭へと変わっていった。
そうして、どれほどの時が経ったのか。
リシュベルの手の中で、今にも消えてしまいそうな光りを放っていた小さな欠片は、まるで生気を取り戻したかのように見事なまでにその青の色彩を取り戻した。
「⋯⋯!」
それに気付いたリシュベルは、握り締めていた手を慌てて開こうとした、その刹那——。
一気にその輝きを増幅させた守護石は、月光を遥かに凌ぐ強い力で辺り一帯を飲み込んでいった。
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