月の光

ましゅまろん

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「フェーイヒ・カイト」

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「皆さん、おはようございます。今日から新しい兄弟が仲間入りしますよ。……簡単な自己紹介だけしてもらえますか?」
「……おはようございます。………リヒト、です。今日からお世話になります。」


僕は三十ほどの瞳に見つめられながら、ミス・エルターンの横から歩き出した。

(僕の記憶…………ちょっとしたことも思い出せない。多分、記憶喪失なんだろう。……ただ一つだけ、思い出せるのは………)

大きなテーブルの一番奥に足された椅子に座る。

(今日の、夢の記憶…………?)




******




僕は真っ暗な空間の中に、たった一人で存在していた。
周りには何の気配もなく、静か。
なのに、僕の体内はガンガンするくらいの音で溢れていた。
よく聞くと、放たれている言葉は二つだけ。

「護りきれなくてごめんなさい」
「「私」のせいで」


(誰が、誰のために謝ってるんだろう)


そこに、フードで顔を隠した女性が現れる。
僕の後ろに立つその人が僕の方に触れた瞬間、身体の中の声が止んだ。

そして言った。


「月の光に選ばれし者、立ち向かわなば、死に絶えん」

「紅緋の炎に焼かれん」

「翡翠の雨に打たれん」

支子くちなしの渇きに襲われん」

「珊瑚の美酒に酔わん」

「紺碧の宵に眠らん」

「月白の嘘に惑わされん」

「濡羽の真を隠さん」


「天色の泉のみ、夜の月影を映さん」


男とも女とも言えないような声。
最後の言葉は確か、こう。


「闇夜に目覚めよ、フライヤの器」








「───ヒト、リヒト!」
「ハッ!…………ごめんなさい、何でしょうか?」
「おいおい、ボケっとしすぎでしょ。大丈夫?朝ごはんだよ?」
「あぁ、すいません。失礼しました。」
「………んん?…………もしかしたらなんだけどさ、」
「はい?」
「君、僕のこと覚えてないの?」
「えぇ………と?」
「ええええぇぇぇ…………」

(何で?あの後何があったの?この子は何者なの?少なくとも、もう二回記憶喪失を起こしてる。でもエルターンの記憶操作は「私」が護るから効かないはず……)

「ごめんなさい、知り合いだったんですか……_?」
「えっ、あっ、まぁうん、そうだね。君の名前は知らなかったけど。」
「ええと、リヒトです。よろしくお願いしますね」
「……うん、僕はレーゼン。よろしくね。」



(あれれ………心が読めないよ……?)


(あの人、知り合いだったのか………。何も思い出せないのはやっぱり人為的なものか……?あの夢にしろ、この事実にしろ、なんかおかしい。あと…………随分綺麗な目だったな……)



    
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