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異母兄の来日

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 ロースモリア城にまたもや大きなイベントがやってきた。

 ルディアーナは例の如く、貴重な労働力として動き回っていた。



 今回は王妃様の誕生日パーティーである。毎年隣国のソールフレント国王であり、兄でもあるフランツから贈り物が届くのだが、今回は四十五歳の誕生日を一緒に祝うためにパーティーに出席することになったので城内は大忙しだ。しかも第三王子ルーブスと第二王女リリーも来るらしい。貴族だけでなく、隣国の王族も出席するとなると気を付けなければならないことが山ほど増える。



 いつもよりも入念に準備を進めなければならない。



 五日後にパーティーの日は迫っていた。



 そして忙しなく城内を動き回るルディアーナに迷惑な知らせが届く。



「ルディア、ねぇ聞いて!」



 何だかとっても嬉しそうなニアが乾燥して美しく畳まれたシーツを抱えるルディアを捕まえる。



「どうしたの?」

「ソールフレント国のルーブス様が一足早く到着なさったそうなの!」



 興奮気味に話す二アにルディアーナは眉根を寄せる。



「何故? 来日は三日後のはずでしょ?」



 フランツ国王とリリー王女の三人で同時入場のはずだ。



「さ、さぁ? もしかしたら会いたい人でもいるのかも……ね?」



 それがシェリルではないことを願う。



 前回のパーティーでルーブスはシェリルを舐めるように見ていたのをルディアーナは目撃している。何せ顔が良いもので、他の令嬢達に囲まれていたが本当であればシェリルをダンスに誘ったり、口説いていたに違いない。



 絶対にシェリルには近づいて欲しくない。



「そう言えば、ニア。例の彼とはどうなったの?」

「えへへっ。もうすぐ会えるの。実は仕事で遠くへ行ってたんだけど、また戻って来たの!」

「そうなの。忙しい人なのね?」

「そうなの。でも会うと必ずお土産や贈り物をくれるのよ」

「素敵じゃない。大事にされてるのね」



 幸せそうに笑うニアを見るとルディアーナも嬉しくなる。



「そう言えば、ルディアも最近凄く綺麗になったじゃない。もしかして……」

「は? 綺麗? そんなわけないじゃない」



 ニアの言わんとしていることを察し、すぐさまルディアーナは否定する。



「いいや、絶対に綺麗になった! 間違いないわ! そもそも元が良いんだから、もう少しおしゃれすれば良いのよ」

「私はこれで良いのよ」



 ルディアーナは逃げるように歩き出す。



「じゃあ、また後でね」



 それだけ言い残してルディアーナは早足でその場を離れる。



 綺麗になった……? 



 恋をすると女性は綺麗になる、とはよく聞く話だ。

 ニアはそれを言いたかったのだろうと思う。



 恋……? 私が? 誰に?



 ルディアーナの脳裏に意地悪そうに笑うレイドが浮かび上がる。

 嫌味っぽくて、ちょくちょくルディアーナの癇に障るのだがその表情は酷く色っぽいことが多いのだ。



 意地悪な顔で目を細め、艶のある声で囁かれ、悪戯な手で身体に触れられればたちまち身体が熱くなる。



 思い出しただけで顔が紅潮してしまい、ルディアーナは脳裏に浮かぶレイドを掻き消す。



 恋じゃないわ。あれは『特訓』なんだもの。



 男性に耐性をつけるために必要なことをレイドから教えてもらっているだけだ。



 でも、もしかしてレイドじゃなくても大丈夫なのではないかしら?

 レイドに慣れたのなら他の男性が相手でも平気なのでは?



 ルディアーナは思考する。



「誰か、別の人に試してみようかしら?」



 流石に服は脱ぎたくないし、身体に触れられたくはないが手を繋いだりする程度なら大丈夫そうだ。



 でも誰に頼もう?



 そんな事を考えながら廊下を歩いていると誰かが言い争うような声がする。



 この声はシェリル様?



 聞き覚えのある声を頼りに廊下を進む。調度曲がり角に薔薇を生けた花瓶がある。花瓶の滑らかな面に反射して人の姿が霞んで映っていた。忍び足で角から覗き込む。

そこには部屋の扉の前で男に腕を掴まれているシェリルの姿があった。



「何をしてるんですかっ! 止めて下さい!」

「ルディアっ」



 無理やり部屋に連れ込まれそうになっているシェリルと男の間に割って入る。



 シェリルが震える声にルディアーナは自分の行動に間違いはなかったと思えた。

 そして目の前にいる男にも驚いた。



「誰だ貴様は。そこを退け。俺はこちらの令嬢に用がある」



 忌々しいったらない。



 もしかしてこれが目的で来日を早めたのかと疑念を抱く。



「この方がどのような立場のお方だ知っていてそのような振る舞いをなさるのですか? ルーブス王子」



 シェリルの腕を掴んで乱暴しようとしていたのはルディアーナの腹違いの兄、ルーブス・ソールフレントだった。



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