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同級生

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「ルディア」



 はっと聞き覚えのある声に振り向くとそこにはライムグリーンのドレスを着こなしたシェリルの姿がある。



 あれ?



 さっき奥の部屋に入って行ったのを見た気がしたが、気のせいだっただろうか。でも物置に通じる通路はもう一つあるので別の通路から変態伯爵に鉢合わせずに会場に戻ることは可能だ。



 しかし不可解なのは彼女の髪だ。



 先ほど見たシェリルの髪は完全に解けていたのに、こうして見ても乱れた様子はなく、美しく結い上げられ、髪飾りがキラキラと輝いている。乱れた髪をこの短い時間でセットし直すのは難しいのでルディアは誰かをシェリルと見間違ったと気付く。



 シェリルの横にはメイド長とニアの姿もあり、肩を上下させているのを見ると急いで駆けつけてくれたのだと分かる。



「あぁ、無事で良かったわ、ルディア」



 心配そうな表情でルディアを抱き締めたシェリルはすぐに、腕を解くとこの場を離れるように促す。



「もう! だから絡まれないように気を付けなさいと言ったでしょう」

「す、すみません……」



 ルディアがここで変態伯爵に襲われそうになっていたのを知って駆けつけてくれた様だ。



 一体誰が?



 誰がルディアの身が危険に晒されているとみんなに教えてくれたのだろうか?



「あの、どうして私がくそや……いえ、人に絡まれていると?」

「それは後。とりあえず、ここから離れましょう」



 シェリルは移動を促す。



「あの、あちらに」



 ルディアは変態伯爵とルディアを助けた人物がいる部屋に視線をむける。



「大丈夫よ、あの子なら心配ないわ」

「参りましょう」



 緊張が解けて足元がふらつく。



 ニアとメイド長に支えられながら、ルディア達はその場をあとにする。



 あぁ、本当に散々だわ。



 ルディアが助けたつもりだった人物はシェリルではなかったが、結果として誰も下衆な男の毒牙にかからなかったことは喜ばしいと言えるが。



 変態男に襲われそうになったのもそうだが、もう一つ大きな問題がある。



 ルディアを助けた金髪の男性、レイド・フォンスティカ。



 シェリルの双子の弟で次期侯爵でもある。



煌めく金色の髪とエメラスドの瞳を持ち、眉目秀麗、才色兼備、文武両道は彼のためにある言葉なのかと思うほど非の打ち所がない男性だ。





そしてルディアが苦手な同級生である。

  













 ルディア国中の貴族が集まるアカデミーに入学し、十六歳から十八歳までをアカデミーで過ごした。



 ここでも苦い経験を多くした。

 その一つがシェリルの弟、レイド・フォンスティカとの出会いである。



 自分を田舎貴族と馬鹿にするそこらのぼんくら貴族よりもよほど成績が良かったルディアはテストでも常に上位だった。



 しかし、常にルディアの上にいたのがレイドである。

 シェリルはルディアと一歳上の先輩だ。双子のレイドもそのはずなのだが、彼はアカデミーに入学する前の一年間、隣国に留学していたため、シェリルよりも一年遅れての入学となり、ルディアと同級生となった。



 侯爵令息のことは噂では知っていたが、あまり興味はなかった。



 見目麗しく、成績も優秀で剣技も誰にも負けない、侯爵家の跡取りともなれば男女問わずに注目が集まる。誰にでも愛想よく接し、人当りも良く、下級貴族であろうが分け隔てなく優しい彼に憧れる女子生徒は多かった。多いどころか、ほぼ全員がレイドに好意を持っていただろう。



 自分とは住む世界が違うし、紳士淑女の嗜みと結婚相手の物色、貴族の見栄で学校に通っている彼らとルディアでは志が違ったのだ。



 異性に色めき立っている暇はない。



 自分はここでしっかりと学び、卒業後はすぐに働かなくてはならなかった。どこで働くにしても成績が良い方が、雇われやすい。高い給料を求めるならなおさらだ。



元々、本を読んで知識を身に着けることは好きだったルディアはテストでも好成績を収めた。



 だが、侯爵令息は只者ではなかった。常に学年一位をキープし、誰にもその座を奪わせない。ルディアの負けず嫌いな性格に火がつき、更に勉強へ打ち込んだが一位奪取は叶わなかった。



ある日、図書館で勉強していた時のことである。静かな図書館に突如現れて彼はこう言った。



『そんなに勉強して意味ある? どうせ結婚して子供産むだけなのに、必死になって知識を得る必要あるの?』



 本当に腹が立つ。



 必死になって何が悪いの?

 私は他の女子とは違って働かなくちゃならない。

 男になめられないように知識も技術も経験も必要なの。

 結婚すれば良いって?



 あんた達みたいに女を道具としか思っていないような馬鹿な奴らに媚びへつらって生きていくなんて絶対に嫌。



 女は道具じゃない。力では男には敵わないけど、知識もそれを使う技術も身に着ければ男になんて負けない。



 頭に血が昇っていたと思う。

 腸が煮えるように熱くなって、目の前が見えていなかったのだ。



 眼前に立つのが侯爵家の令息だということを完全に失念して、怒りのまま思いの丈をぶつけてしまった。



 それが卒業直前の出来事である。



 卒業パーティーでは口を利く事もなく、何より人だかりを連れて歩いているような状態だったため、近づく気も失せた。



 誰にでも愛想よく神対応だと思っていたがあの言葉からルディアはレイドが実は腹黒嫌味男だと確信している。



 あの笑顔の裏で、まとわりつく令嬢達をハエのように思っているに違いない。



 そのまま会うともないと思っていたが、最近になって彼の姿を見る機会が増えている。

 シェリルが皇太子殿下の侍女をしているということと、皇太子殿下とは幼馴という間柄であることは有名な話だ。



 度々、この城を訪れるレイドだが、鉢合わせることはなかった。上級貴族の接待は上級使用人が行うのでルディアが遭遇することはない。



 故に、レイドには卒業直前の図書館で会ったのが最後だ。

 あの件は出来れば忘れていてもらいたい。







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