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番外編
Kissing Under Mistletoe - 4 ☆
しおりを挟む愛の行為が終わったあと。
暖炉で揺れる炎と、誰もいなくなってぽつんと寝室の隅に置かれている浴槽から上がる薄い湯気をぼんやりと見つめながら、大胆なことをしてしまったかもしれない……と、オフェーリアは思っていた。
久しぶりにゴードンを受け入れた体の芯が、いまだに切なく震えている。
与えられた快感の余韻はさざ波となってオフェーリアの全身を覆い、いつまでも離れなかった。
白濁を放ったあとのゴードンは、息を荒げながら、ぎゅっとオフェーリアを抱きしめていた……が、しばらくすると、横にごろりと半回転して、オフェーリアの裸体にシーツを掛けた。
「乱暴にしすぎてしまったかな……大丈夫かい、オフェーリア?」
情事の名残りを思わせるかすれた低い声で、ゴードンは妻を気づかった。
彼の指がシーツ越しにオフェーリアの腰の線をなぞると、甘くてもどかしい高揚感に包まれる。
ここは天国だった。
彼が約束した通りの。
「わたしは大丈夫です。あなたこそ、大丈夫でしたか?」
「妻よ。わたしはまだ、情事の後の安否を心配しなければならないほど年寄りではないつもりだ。もちろん大丈夫さ。最高の気分だよ」
「ふふ……そういう意味じゃないんです、旦那さま。あなたがまだ若いのはよくわかっています。ただ、なんだか……なにかを我慢をしていたように見えて」
「我慢、か……我慢……」
舌で転がすようにゆっくりとその単語を繰り返しながら、ゴードンはシーツ越しにオフェーリアの体をじっと見つめた。まるで、シーツなどあってもなくても、オフェーリアの体をすべて記憶していると言わんばかりの……熱い視線。
オフェーリアは息をつめた。
その隙をつくように、ゴードンのいたずらな片手が、オフェーリアの乳房をひとつすっぽりと包む。
「あ……ん! はぁ……ァ……」
生地をこねるような動きで、乳房を揉みこまれる。すぐに乳首がぴんと立つのが、シーツ生地を通じてはっきりと見えた。ゴードンは、固く充血した敏感なつぼみを人差し指の腹でくりくりといじめはじめた。
オフェーリアの体はすぐに小刻みな痙攣をはじめる。
「あ……ひぁ……ぁ、ん……っ、ゴードン……っ」
「これほど感じやすい君の体を……わたしの種を宿した大切な君を……壊さないように……大切に抱きたかっただけだ。君は優しく、丁寧に、順序を踏んで抱かれるべきだから」
また……聞き覚えのある台詞だ。
オフェーリアを抱く前もゴードンは似たようなことを言った。『野獣のように君を抱くわけにはいかない』と……。
「ふ……ぁ……。き、きちゃ……ぅ」
「ほら、これだけで君はとろけてしまう。わたしの強欲さのせいで、つらい抱き方をしないように自制したかった……できたかどうかは、わからないが」
「んっ、ん! ア、あぁ……!」
シーツ越しに蕾をつままれると、オフェーリアの体の芯に激しい痺れが走った。
視界がかすれる。
なんの会話をしていたのか、だんだんわからなくなっていった。あるのは甘い快楽ばかりで、一度その世界に溺れてしまうと、出口を見つけられない。
オフェーリアはさらに背を反らし、もっと決定的な刺激を求めて身をよじった。早くこのうずきから解放されないと、気が狂ってしまいそうだった。
それなのに、ゴードンの愛撫はあくまでも優しい。
指の先でしこった蕾を転がし、時々いじわるにつまんだり、引っかいたりする。それが延々と続き、オフェーリアは徐々に悶絶した。
甘い苦しみだった。
「も……もっと……、ァ、……これ、だけじゃ……」
「どうして欲しい……? 答えてごらん。君が求めるものをすべてあげよう。それがわたしの望みだ。もっと優しくして欲しいかい?」
「ちが……ちがう……の。もっと……」
荒れた呼吸の合間に、とろんとした瞳でゴードンを見上げる。
ゴードンは気遣うように、注意深くオフェーリアの様子を観察していた。琥珀色の瞳には欲望と優しさが同居していて、オフェーリアの真意を汲み取ろうと鈍く輝いている。
心まで裸になっていくようだった。
恥じらいまでが、溶けて消えてしまうような感覚……。
「強く……して。激しく……前、みたいに……。それがいいの……」
震える手で、清潔な夫のほおに触れる。いつもはざらりとする髭剃りの跡が、まだ湿り気を帯びているせいで柔らかかった。
意外だ、とでも言いたげにゴードンは片眉をあげて、愛撫の手を止めた。
「本当に?」
「はい」
「どうして? わたしの激情にはもうこりごりだろう?」
「そんなことありません……。あの時は……怖かったけど、でも、普段のあなたが嫌になったわけじゃないんです。気づかってくださるのは嬉しいけど、わたしは、あなたに別人になって欲しくはないの。あなたのままでいいの……あなたのままが、いいの……」
うまく説明できたかどうか、オフェーリアには自信がなかった。
ゴードンは思慮深い視線でオフェーリアの瞳をのぞき込んでいる。しばらくすると彼はごくりと唾を呑み下して、魅惑的に盛り上がった喉仏をさらに上下させた。
全裸のゴードン・ランチェスターをあらためて目にすると、やはり自分は大胆すぎることを言ってしまったのかもしれないと……わずかな後悔が浮かんでくる。
この肉体が。
このたくましくて、野生的で、大きくて力強い肉体に全力で抱かれることが、どれだけ激しいものになるか……オフェーリアはもう知っていたから。
「ゴードン……」
オフェーリアは懇願した。
「君はまだわたしの本性を理解していないか……それとも、君は本当にわたしのために天から降ってきた天使なのか、どちらだろうな」
独り言のようにそうつぶやいたゴードンは、その大きな手でオフェーリアの髪を梳くようになでた。オフェーリアはそれだけで身を震わせた。
髪に神経が通っていないというのは本当なのだろうか? 信じられない……。
ふと見上げると、寝台の支柱にもまだヤドリギが残ったままだった。
屋敷の玄関にも、浴槽にも、寝台の上にも、この家には今なぜかヤドリギが溢れている。その犯人が誰にせよ……オフェーリアが幸せに溢れているのは間違いなかった。
もう一度、この男性の腕の中へ帰ってこれたこと。
「もう一度、口づけをしてください……ヤドリギの下で」
気だるげに顔を上げたゴードンは、ヤドリギが頭上にあるのを確認して、にやりと微笑みながら妻に視線を戻した。
「君はたった今、わたしに、欲望に忠実になってくれと言ったのを覚えているかな? 申し訳ないが、もし本当にそうさせてもらうと、君が受けるのは単なる口づけにとどまらなくなる……狂ったような淫楽の行為だ。もちろん、身重の君の体は気づかわせてもらうが……」
言葉では答えず、オフェーリアは静かにこくりとうなずいた。
暖炉の炎に照らされ、ふたりの体が重なる。
いくらか遅れてやってきたウィンドハースト伯爵家の聖誕祭は、こうして、情熱に燃えた寝台の上で、おごそかに祝われたのだった。
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