Lord of My Heart 〜呪われ伯爵は可愛い幼妻を素直に愛せない〜

泉野ジュール

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Fiery Night - 2

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 沈黙はたったの二秒も続かなかった。
 ガブリエラの挑発的な言葉を受けたエドモンドは、ゆっくりと彼女の方へ向き直り、わずかに片方の眉を上げながら言った。

「……わたしは自分で思っていたよりもずっと嫉妬深い夫のようだ。ずっと」
 悪魔のような声だった。
 それも、そうとうに狂暴な悪魔が、腹を空かせてとびきり不機嫌でいる時のような、殺気立った声だ。

 さすがのガブリエラも不穏な雰囲気を感じ取って、自分の誘惑が成功していないことを理解しはじめた。
 本能的にじりじりと後ろにさがり、じっと相手を見つめながら壁に背をつける。
 状況が不利なのは理解したが、かといってガブリエラは、はい、そうですかと自分の負けを認められるほど謙虚ではない。

 エドモンドは一歩、前へ歩を進め、ガブリエラににじり寄った。

 威圧的に迫ってくるエドモンドを前にして、ガブリエラは、背筋の毛が逆立つような寒気を感じずにはいられなくなっていた。今の彼には何をしでかすか分からない怖さがあった。緑の瞳は怒りに燃えており、頬はピクリ、ピクリとひくついている。
 目の前に立ったエドモンドは、普段よりさらに背が高く感じられた。

「そ……そういうことなのよ。あなたの可愛い奥さまは、この先のどこかの部屋で、私の兄と戯れているのだわ」

 精一杯の強がりでもって、ガブリエラは言った。
 胸をそり、鼻をつんと上げ、さも勝ち誇ったように。しかし、エドモンドの視線はガブリエラを見下すように彼女に張り付いていた。

 ——この、あばずれめが。
 口には出さずとも、エドモンドの目ははっきりとそう宣言していた。

 ガブリエラにとって、こんな扱いを受けるのは許しがたいことだった。
 一体あの小娘オリヴィアは、エドモンドに何をしたというのだろう?

 あの、冷静沈着で、どんな時も取り乱すことなどなかったノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿を、野獣のような男に変えたのだ。
 持参金のせい? いや、違う。
 あの、ドレスからこぼれ落ちそうな大きな胸? いや、それだけなら、ガブリエラにだってあるのだ。多少は寸法が違うかもしれないが。
 結論は、ガブリエラにとって最も受け入れがたいものだった。
 しかしそれは、今、エドモンドが大広間の食卓の上に立って大声で舞踏会の招待客全員に宣言するのと同じくらい、明らかにガブリエラの目の前にあった。

 なんということ……
 なんということなの……
 ガブリエラは、悔しさに歯を食いしばりながら、低い声でささやいた。

「彼女を愛していらっしゃるのね」

 一瞬の間を置き、しかし、相手の答えを待たずに、ガブリエラは続けた。「あなたは、あの小娘を愛していらっしゃるんだわ。まるで悪霊に取り憑かれた雄牛みたいに息を荒くして、逃げ惑うつがいのメスに襲いかかろうとする汚らしい野獣のように。あの、まだ子供のような顔をした、乳臭い小娘を!」
「あなたの愛についての定義を聞いている気分ではない」

 エドモンドの声は、明らかに苛立っていた。
 恐怖にかられたガブリエラが壁を背にしたまま一歩引き下がろうとすると、エドモンドの逞しい腕が疾風のような速さで伸びてきて、ガブリエラの首を掴み、ひねり上げた。

「う……っ!」
「わたしの辛抱強さを試そうとはしないことだ。特に妻に関する限り、わたしの忍耐力はそれこそ気の狂った雄牛ほどもありはしない」
「は……はな、し……」

「愛? そうだ。取り憑かれた? そうだ! わたしはオリヴィアを魂の底から欲し、悪霊のなれはてのようにこの屋敷を駆けずり回っている。彼女をこの腕に抱くことだけが、わたしの願いだ。邪魔をしようものなら、あなたも、あなたの兄も、明日の太陽を拝むことは出来ないと思え!」

 咆哮とともに、エドモンドは乱暴にガブリエラを離した。
 急に支えをなくしたガブリエラは床に崩れ落ち、驚愕の目でエドモンドを見上げた。怒りに燃えた伯爵は、さらに容赦なく、倒れたガブリエラの前に立ち塞がった。

「彼女がどこにいるのか言え」
 さもないと、などと脅し文句を続ける必要さえなかった。
 もし従わなければ、今のエドモンドは間違いなくガブリエラの首を素手でへし折るだろう。ガブリエラの心臓は早鐘のように鳴り、震え上がっていた。悪夢のようだ。

「彼女がどこにいるのか言え!」
 ガブリエラが狼狽に何も言えずにいると、エドモンドはさらに声を荒げた。

「この先の……東階段の……すぐ前の部屋よ……」
 ガブリエラは震える声でなんとかそう言って、東階段の方を顎で差した。「でも、もし、間に合えばの話だわ……」
「どういう意味だ」

 エドモンドの顔は憎悪に満ちていた。
 粉々になった誇りのかけらをかき集めたガブリエラは、無慈悲にも最後の抵抗を試みた。
 ——それが、どれだけの惨事を招くことになるのかを考えもせずに。

「わたしが最後に見たとき、彼女は床に倒れて、わたしの兄とベルフィールド子爵に囲まれていたわ。あの好色で有名な男にね……」

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