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(3)救いの手

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「セレンドル様。申し訳ございません! 旦那様からお屋敷には絶対に入れるなと言われてしまいました!」

「ああ、うん。そうみたいだね」

「お部屋の周りも見張りがついていて、私たちは近づく事もできません。でも、今すぐに何かしようと言う感じはありませんから、隙を見てセレンドル様の物を少し持ち出すことはできるかもしれません。ですから、どうか、もう少しお待ちください!」

「ありがたいけど、君の立場は大丈夫?」

「セレンドル様に同情的な使用人は少なくありませんから!」

 若いメイドはそう言って、小さな財布を差し出した。

「あの、少ないですが、多分お金は持ち歩いていないのではないかと思いまして……」

 受け取ってみると、中には多めの銅貨と数枚の銀貨が入っていた。
 この硬貨がどのくらいの価値があるのか、実は僕にはよくわからない。わからないが、メイドたちにとっては安くはないと言うことはわかる。
 だから少し躊躇ったが、王都は何をするにもお金が必要だ。この金額で何度か辻馬車に乗ることもできる。……どこにも行く当てはないけれど。

「ありがとう。助かるよ」

 お礼を言おうと、メイドはほっとした顔をした。
 笑うと少し可愛らしい。年齢は二十歳になった僕と同じくらいだろうか。
 そんなことを思っていたら、メイドは周囲をもう一度見てから僕の腕にぎゅっと体を寄せた。

「あの、何か他に私ができることはありませんか? セレンドル様のためなら何でもします」

 ほんのり頬を染めてながら囁いて、さらに僕の腕に体を寄せる。
 えっと……腕に胸が当たっているんだけど……。
 困惑しながら、でも僕はできるだけ自然に笑ってみせた。

「では、そうだな。ギーズと連絡を取りたいんだけど、どうすればいいと思う?」

「ギーズさん……ですか?」

 若いメイドは、一瞬顔を硬くした。
 どうやら、ギーズのことが苦手らしい。そう言えばこのメイドがこの屋敷に来た頃にはギーズはもう外に出ていたかもしれない。古株なら、僕の世話を親身になってしてくれた姿を知っているから、あんな顔をすることはないんだけど。
 でもすぐに気を取り直したようで、僕のために一生懸命に考えてくれた。

「……えっと、ギーズさんのいる詰所は遠いですから、もし向かうのなら辻馬車を利用すべきだと思います。でも辻馬車は今の時間はつかまりにくいですよね。お手紙を届けて、どこかで返事を待つのもいいと思います」

「ギーズは忙しいだろうから、まず手紙で連絡をとってみようかな」

「筆記用具を今お渡しできればいいのですが、何も持ち出せそうも……。あの、酒場に代筆屋がいますから、そこで紙とペンを借りることはできると思います。小銭を渡せば、ギーズさんのところに届けてくれる人もいるはずです」

「なるほど。それは幾らくらいかかると思う?」

「そうですね……急ぎとなると、少しかかるかもしれません」

 メイドは財布を開けて、銀貨と銅貨の数を確認した。
 表情から察すると、ぎりぎり足りるようだ。

 ……しかし、それにしても、そろそろこの体勢は何とかならないだろうか。
 あまり知られないようにしているけど、僕は「女」を全面に出した女性が苦手なんだ。

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