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5話
しおりを挟む買い物から帰宅した俺は疲労困憊だった。
それは、これまで感じたことの無いような数多の好奇の目に晒されたり、俺の方へと徐々に近づいてくる女性達がいたり、帰り道後ろから聞こえてくる無数の足音があったりなど、体験したことの無いような出来事があったからだ。
『疲れた…』
買ってきた食品を整理した後ソファーに寝転ぶ。
どうやら俺は貞操逆転云々について軽視していた…みたいだ。
いくら男性が少ないからと言って存在しないわけでは無い。いくら貞操観念が逆転しているからと言って直接相手に被害を出すわけでは無い。そう思っていた。
しかしどうだろう現状は。この有様だ。
多分…いや恐らく”貞操観念が逆転した”こと、そして”男が少ないという事”が運悪く相乗効果を生んだのだと思われる。
スマホの通知が止まなかったことで不安になった俺は、出かける直前にこの世界の男の現状について調べていた。
その時は男が引きこもる確率が九割を越えているなどという異常な統計を見たが、軟弱だな~としか思わなかった。ニートしかいないのかと。
しかし今は違う。むしろ同情していた。
転生したお陰で別の貞操観念を持っていた俺でもかなり怖かったんだから。(夜に、男一人で、初見だったのも大きい)
同時に一部の社会的に自立しているらしい男を素直に尊敬した。
だからそれを知って思ったんだ。
――『負けてられない』と。
もともと俺が転生するときに望んだのは”俺を必要としてくれる人がいる”ことだった。前世では誰にも必要とされずただ灰色の人生を歩んでいたから。
そして俺はこの貞操逆転世界に来た。つまりこの世界には俺を必要としてくれる人がいるということだ。それが誰なのかは言うまでも無いだろう。
『配信者か…』
スマホの通知を確認したときに目に付いた異常な額の寄付。
メッセージ付きのそれには沢山の署名(ニックネーム)と共に「配信者を初めて欲しいです!」と書かれてあった。
正直俺は今後の生活について明確なロードマップが無かった。
十代の学生だったなら学校に通うなりスポーツに力を入れるなりの道があった思う。だが俺は20歳、しかも何処の高校を卒業したのかも不明と来た。
もしかしたら何処かに経歴を記録してあるかもしれない。けれどこの世界の男性は社会的には少数、まともに働こうとしても自分で起業する以外は秘書(仕事無し)だったりお茶汲みが関の山だ。
仮に俺が男性の社会進出や職業選択の自由を訴えたところでこの世界は基本男尊女卑。今更平等を謳ったところで”おまいう”案件にしかならない。
先ほどはお金が欲しかったからえっちな自撮りをあげたわけだが、これからのことを考えるとそういうわけには……いや、いけそうだけども!!
折角転生させて貰ったんだがら前世では出来なかった何かをやってみたいという気持ちはある!
配信者。前世ではとても流行していて将来なりたい職業ランキングにも上がっていた職種だ。俺ですら何度か見たことはある。vtuberだけど。
『…やってみよう』
俺を必要としてくれる人たちからのメッセージだ、思いきってチャレンジしてみるのもありだろう。やりがいもあるはずだ。
それに……もしも失敗したときはグラビアとか…始めよう。そっち系のジャンルなら需要あるってもう分かってる。飢えることは無いだろう。
俺はネット通販を開くといつの間にか増えていたお金にビビりながらもBTOパソコン、マイク、カメラ等を中心に配信機材を注文していった。
『今のうちにアカウントも作っておくか』
自撮りをあげたSNSを立ち上げ新たにアカウントを作成。配信プラットフォームの方ではチャンネルを開設する。
その後は配信に必要な物もきちんと調べて素材集めなどの準備を始める。
――俺が初配信を行ったのはそれから3日後の夜だった。
◆◆◆ 後書き
男性初の配信者か男性初のグラビアアイドルか。
真に彼女たちが望んだのはどちらだったかは……今や誰にもわからない。
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