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1話

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◇◇◇

「貴方は死にました」

いつの間にか現れた女性が俺にそう声をかける。
一面白で出来た不思議な空間だった。

「転生させますが……何か希望はありますか」

慈愛の籠もった眼差しを向ける彼女の言葉に俺は何も言えなかった。

振り返るとこれまでの人生は誰にも必要とされず無気力で乾いた笑いしか浮かべられなかったモノクロなものだった。

『…特には』

言ってから思う。人生で一番楽しかったのは何時だったか、と。

元気いっぱいに笑ったのは小学生だろう。あの頃は早く大人になりたいと思っていたのが懐かしい。友達と遊ぶことが仕事で毎日校庭を駆けたり、時には勉強したり、喧嘩をしたり。無邪気で純粋だった。

中学、それに高校もそうだ。
友達と一緒に授業を受け、部活をし、そして放課後に遊んだり。
テストの結果に一喜一憂したり恋愛をしたり。

でも当時はやっぱり早く大人になりたいと思っていたな。
子供だと出来ることに制限があるからと。

けれど実際は歳を重ねるに連れて人としての社会的責任や常識を学び、ただ楽しいだけの生活なんてものは送れなかった。

よく社会に出てからは”あの頃に戻りたい”と思っていたっけ。


「では転生を始めます」


しかしそれはもう過ぎたこと。戻ること何て出来やしない。そう思っていた。

…これまでは。

『――あ、あの、やっぱりお願いがあります!』

振り返ると思い出す楽しかった日々。俺は今でもそれを思い出す。戻ることのできない過去を。

…だけど、だけどもしそのチャンスがあるなら――もし俺の人生をやり直すことが出来るなら。


『俺を!俺を必要としてくれる人がいる世界に転生させてください!』


そんな世界に生きてみたい。


「ふふ――では……よい人生を」


その優しい声を最後に俺は意識を失った。


◇◇◇

気付けば見知らぬ部屋に一人佇んでいた。
俺には先ほどまで白い部屋で女性と話していた記憶がある……ということは転生したのだろう。

切り替えた俺はこの部屋を探索し情報集めに専念した。
ここが何処で俺が誰なのかもわからないからだ。




しばらくして。
俺は重大事項………自分が無一文だということに気付いた。

転生してから直ぐに部屋の探索をし始めたわけだが、部屋のタンスやら引き出しを確認しても通帳らしきものが一切見当たらなかったんだ。

一応可能性として銀行が存在してない、つまり通帳が無い世界だとも考えられたので現金を探したんだが……どこにもなかった。


『…まさかの一文無し』


初っぱなで躓くとは思わなかった。
てっきり俺は転生した場合ある程度は事前に用意されていると思っていたんだが…。

転生させてくれたんだから文句は言えないけど。

しかし俺が生きていくためにはお金を手に入れる必要がある。食費、家賃、保険料、税金だ。
多分無職だから後半は関係無いかもしれないけど……いや、一応調べよ。

この世界が無職関係なく一定年齢に達した国民全員から一律で税金やらを取っている可能性を俺は否定はできない。毎月1,6590円は無理ぞ…。


現状無一文な俺が持っている財産はこの部屋とこの身体と机にあったスマートフォンのみ。スマホがあるので恐らく前世と同じくらいに発展してるのだろう。そこは素直に嬉しかった。ネットが使えない生活とか現代人には無理すぎる。

スマホを起動させるとブラウザで年金と検索。しばらくサイト巡りをする。コツは3つ以上のサイトを見ることだ。


『……うーん、なるほど』


数分かけてじっくり検証に検証を重ねる。
一度目をほぐしてからもう一度検証する。


え?何でこんなにもたもたしているかって?
それは目の前の信じられない情報に見間違い、もしくは詐欺を疑っているからだよ。

俺は同じページを何度も行ったり来たり、そして違う言葉を検索してサイトを巡る。
うん、どうやら事実のようだ。


では、結論が出たので言葉にしてみよう! せーの――



『――ここ、貞操逆転世界だ』


税金なんて些細な問題だった。


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