穿つ者は戦い抜く

あすとろ

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第一章 異世界への扉

4.話聞いてなかっただろ

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「まあでもそんなに使うわけじゃあないだろうし、ちゃっちゃとやってくれや」
「えっ」
「えっ」
…マジで?
「え、今ここでやるんですか?」
「当たり前だろ。何のために持って来たと思ってるんだ。」
マジか、寝る前とかにチョチョイとやりたかったんだけどな
じゃあやるしかないのか、と瓶を受け取ろうと手を伸ばした時、地を割るような轟音が鳴り響いた。
「な、何の音ですか!?」
団長は特に気にする様子を見せずに言った。
「この音は恐らく、勇者サマの方角だろうな」
「勇者?」
「おう、勇者だ。単体の火力じゃあ最強を誇る一撃を繰り出せる職業だな」
やけに詳しいなこの人、つか何で知ってるんだよ。
「何でそんな事知ってるんですか」
「お前話聞いてなかっただろ」
プレートを見てるのでいっぱいいっぱいで何が起きてるのか一切把握してませんでした。
「能力確認したときに全員で職業の確認しただろうがよ」

本当にすみません全く話聞いてませんでした。



訓練は一通り終わり、明日に備えろとのことだった。
訓練が終わる際、一枚のコートが手渡され、
「これを常に着ておけ」
と言われた。何が起きるか分からないからだそう。

個々人に一つずつ個室が与えられ、広くはないものの十分すぎる待遇だった。
これから夕食まで1時間ほど時間があるからそれまで自由にしていろとのこと。
与えられた個室に入り、ベッドに腰掛け、今日起きたことを頭の中で整理することにした。
今日の訓練の内容は魔力を練って身体に循環させることで魔力量を増やすもの。どういう仕組みなのかは分からないらしいが『そういうもの』らしい。
後は技能のレベル上げ、そして必要最低限の魔法の習得だ。
技能は使用すればするほど『熟練度』として経験値が貯まるそう。
魔法は隠密系統と身体強化系統、索敵系統の魔法を一通り教わり、無事に習得出来た。
これは世界を渡る際に得られた補正らしく、この世界で言語が通じるのもその補正によるものらしかった。

が、気になったのは訓練時に小隊長が時折見せた表情だった。
何というか『哀れみ』の様な、そんな目を向けられた気がした。
それに必要以上に魔法の習得を急かして来た気がする。
特に隠密系統と索敵系統は現時点では十分過ぎるほどにレベル上げをさせられた。
あれはどういう意図だったのだろうか。
と物思いに耽っていると、コンコンッとドアが鳴った。
「どうぞ」
「失礼いたします。ご夕食の用意が出来ましたのでお呼びに参りました」
「分かりました」
と、素早く身支度をし、念の為・・・銀色のブツが入った瓶を支給されたコートの内側に詰め込み、灯りを消してドアを開けた。

「待たせてしまってすみません」
「お構いなく…それでは食事の会場へ向かいましょう」


一瞬だけ向けられた冷たい視線がとても印象に残った。


夕食は大広間で頂くことになり、そこには俺以外のほぼ全員が既に着席していた。
全員が揃ったところで夕食を食べ始めた。
正直内容はあまりよく分からなかったがとにかく豪華だったな。
姫様もその場に居り、皆打ち解けていた様に見えた。
姫様からは今日の訓練の内容や感想等を求められ、求められた者は言葉遣いに気を付けながらも楽しく過ごしており、そこは普段教室で昼食を取っている姿と何ら変わりは無い様に見えた。

はずだったのだが。



夕食が終わると、俺を含めた数名が呼び出された。そこに呼び出されたのは俺の他に、よく分からない能力を持つ者、既に上位互換の能力持ちが存在する者、と様々だった。
まあ想像もしたくはなかったが、ここで何が起きるかなんて大体察せてしまった。


そこに現れたのは先程夕食を共に取っていた姫様。
何だ何だとざわめく俺達。
そこで言葉を告げられる。




「あなた方は、少々奇特な職業や技能をお持ちです。が、今回お呼びしたのはそういった能力を称賛する訳でも貶す訳でもございません。」
「で、では、何をするんですか?これからもう寝る準備でもしようかと思っていたのですが…」
「ええ、ええ、まあ……寝ること、と大して変わりませんね」
何が面白いのか、クスッと笑う姫様。
「大して変わらない、とはどういうことでしょうか?」
「いえいえ、何もそんなに困惑しないでくださいな」
バン!とドアが開き、入って来たのは騎士であろう集団。
彼らは全員帯剣・・していた。

「…ただ、想定よりも多くの人員がこちらに来てしまいましたので、少し間引こうかと思います」
間引く、という言葉に後退りする生徒達。
異を唱えてももう聴こえていないだろう。




「誠に申し訳ないのですが…死んで貰えないでしょうか」



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