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あなたに尽くしますから私を選んでください

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どうしても憧れてしまう人というものいるものだ。たとえそれが大衆が憧れる存在で、自分なんか手の届かない存在であっても。
彼はそういう人なのだ。
「……どうしたの?」
「いやなんでも。」
「そっか。」そう言って彼はまた本を読み始めた。彼は一体何を読んでいるんだろう?少し気になったが、それを尋ねる勇気は私にはなかった。彼の読む本を私は知らない。私が知っているのは彼の好きな食べ物と苦手な食べ物だけ。趣味も好きな音楽も何も知らないのだ。
「あ、あのさ!」
「ん?」
彼が顔を上げる。
「えっと、その……」
言葉が続かない。
「どうしたの?」
彼は優しく微笑んでくれた。
「あのね!えーっと……」
「うん。」優しい眼差しで私の言葉を待っている。
「……うぅ……やっぱりいいよ。ごめんなさい。」
「そうか。」と言って再び本へと視線を落とした。……本当は聞きたいことがあるんだよ……。でも聞けない。怖いから。嫌われたくないから。だから聞けなかった。私は臆病者だ。そして卑怯者でもある。私は彼に恋をしている。この気持ちを伝えたらきっと今まで通りの関係ではいられなくなるだろう。だから言えない。私は彼との関係を壊したくはない。
それにもし、もしもだよ?ここまで人気の彼が私のことを好きになってくれるなんて奇跡が起きて付き合うことになったとしても、私は不安になると思う。だって彼と釣り合っている自信がないもん。私みたいな地味な女じゃなくてもっと可愛い女の子の方が似合うんじゃないかって思うし。こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、正直彼と私では住む世界が違う気がする。だって彼はキラキラ輝いているから。そんな人が私のことを選んでくれるとは思えない。
だから言わない。ずっとこのままの関係を続けよう。今の心地良い関係のままで。
「ねえ、これ食べてみてくれないかな?」「うん。分かった。」
こうして私たちは今日も変わらず放課後を過ごすのだった。

「それでね!昨日は……」
今日の彼女はいつもより楽しそうだ。最近はよく笑うようになった。彼女の笑顔はとても魅力的だと思う。見ているだけで元気になれるような、明るい笑顔。俺は彼女が笑っている姿が好きだ。俺と話していて楽しいと思ってくれているのか分からないけれど、それでも笑ってくれるなら嬉しい。
彼女と出会って一年経った。季節は夏を迎えようとしている。もうすぐ夏休みに入るということもあってか校内の雰囲気はどこか浮ついているように感じる。かくいう俺もその一人だけど。
去年の夏を思い出す。今年の夏休みは彼女と一緒に過ごす予定だ。もちろん二人きりではないけれど。友達も一緒に遊ぶことになっている。まぁ俺はただのおまけのようなものだが。みんなでワイワイ楽しく過ごせたらいいなと思っている。
誰かと関係を持つ、というのがみんな意識している問題だ。正直、俺にそういう気持ちはない。別に恋愛に興味が無いわけではない。ただ、今はそこまで興味を惹かれないというだけだ。
友だちからは、宝の持ち腐れとまで言われたが、仕方がない。今のところ、特に好きな人もいないわけだし。
ただ、最近気になっている人がいる。それは同じクラスの女子生徒である。名前は確か……そう、中村さんといったはずだ。
なぜ気になったかというと、単純に容姿に惹かれたからだ。綺麗な髪の色をしていた。肩にかかるくらいの長さで、サラリとしたストレートヘアだった。肌も白くてスラッとしていた。目鼻立ちも整っていて、とても美人だった。
最初は遠くから見ていて、目が合えばすぐに逸らすような感じだったが、ある時を境に少しずつ話すようになっていった。今では時々雑談をする仲にまでなっている。しかしまだ告白などはできない。そもそも相手は自分のことをどう思っているのかすら分かっていないのだ。自分のことを好きになって欲しいとは思うものの、自分から言うのには抵抗がある。
こういう相手が、まるで自分を好きなように感じてしまうというのはよくある話だ。自惚れと言われればそれまでだが、やはり期待してしまう。でも現実はそう甘くはない。自分が彼女に好かれていると感じるのは勘違いなのだ。自分に自信が持てるようになって初めて言えるセリフだろう。

「あのさ!」
「ん?」彼女が何か言おうとしている。一体なんだろう?
「えっと、その……あの……」
「うん。」
言いにくいことなのか?少し心配になる。
「えっと……あの……うぅ……やっぱりいいよ。ごめんなさい。」「そうか。」
「うん……。」
一体何を聞きたかったんだろう?気になるが聞けない。聞いたところで答えてくれないだろうし。俺は少しだけモヤッとした気持ちのまま読書に戻った。
思えば卒業が近いのか。あと二月。あっという間だ。俺は卒業したら戻ることになるだろう。彼女とは離れることになる。……寂しいものだ。………………
「ねえ!これ食べてみて!」「うん。分かった。」
こうして私たちは今日も変わらず放課後を過ごすのだった。◆
「ねぇ聞いてよ!あのね……って、あ……ごめんなさい。」
つい興奮して声が大きくなってしまっていたようだ。周りの人にジロジロと見られてしまった。恥ずかしい……。でも彼の前だとどうしてもテンションが上がってしまう。私の悪い癖だ。彼は私のことを変に思ってはいないだろうか?そう思い、チラリと様子を伺う。すると、ちょうど彼もこちらの様子を見ていたようで、バッチリ目が合った。私は慌てて目を逸らしてしまった。……絶対変に思われたよね……。
卒業も迫ってきて、彼への想いは募る一方だ。この気持ちを伝える勇気はない。言ったとしてもきっと困らせちゃうだろうから。それに私なんかじゃ釣り合わないもん。私みたいな地味な女じゃなくてもっと可愛い女の子の方が似合うと思う。だから言えない。ずっとこのままの関係でいよう。今の心地良い関係のままで。……もし私が告白したら、彼はどんな反応をするのかな。付き合ってくれるかな。いや、ダメだよ。そんなこと考えちゃ。彼は優しいから、私のことを気遣ってOKしてくれるかもしれない。でも、それって本当の意味で恋人同士と言えるのかな?
「ねえ、これ食べてみてくれないかな?」「うん。分かった。」
こうして私たちは今日も変わらず放課後を過ごすのだった。

「あのね!えーっと……」「うん。」彼女はなんだかそわそわしてる。俺に聞きたいことがあるみたいだけど、なかなか切り出せないようだ。何を聞こうとしてるのか知らないけど、俺で良ければいくらでも相談に乗るぞ。
「えっと……あの……うぅ……やっぱりいいよ。ごめんなさい。」「そうか。」
結局何も聞けなかった。少し残念だ。彼女が何を言いかけたのか気になったが、まぁそのうち分かるだろう。俺は再び本へと視線を落とした。
思えば卒業までもうすぐだ。俺は戻ることになるのだろう。彼女とは離れることになる。
そう考えると、胸の奥がきゅっとなるような感覚を覚えた。

「ねぇ、ちょっと時間ある?」「ああ。大丈夫だ。」
「よかった。こっちに来て。」
彼に声を掛けて、人気のない場所まで連れてきた。
「あのさ、私、君に言わなきゃいけないことがあるの。」「うん。」
「実は私……君のことが好きなの。ずっと前から。」……言えた。やっと言えた。
「俺のことが好き?」
「うん。」
間があった。この間が苦しい。涙が出てくる。
「……どうして泣いているんだ?」
「……苦しい…かな…」
「え?」
「本当に張り裂けるほど、いつの間にか君のことが好きなの!お願いです!あなたに尽くします!何でもやります!だから、私を選んで…あなたはモテるだろうけど、どうか私を選んで…」思わず泣き出してしまった。こんな醜態を晒すなんて、最悪だ。嫌われたかな……。
「ごめんなさい……。忘れてください……。」
そう言ってその場を去ろうとした時、彼が口を開いた。
「待ってくれ。」
そして私の腕を掴んで、引き止めた。
「ごめんなさい……。」
「違う。謝らないでくれ。そんなことしなくても、俺も、好きだから。」
「……え?」
今、好きって言ったの?私のことを?
「嘘じゃないよ?」彼は真剣な眼差しでこちらを見つめている。
「ほ、ほんとに?だって私、全然可愛くないし、地味だし、普通だし……。」
「そういうところも含めて、好きになったんだよ。君は綺麗だと思う。とても魅力的だ。」「あ……」また泣き出しそうになったが、今度は堪えた。
「でも、私じゃ、釣り合わないよ……」
「そんなことないさ。」
「でも……」
「……俺は、君がいいんだ。」「……嬉しい……」
「これからよろしく頼むよ。」
「うん……。」
こうして私たちは晴れて恋人となったのだった。

「あのね!えっと……」「うん。」
「えっと……」「うん。」
「えっと……」「うん。」
俺は彼女の言いたいことが分かるようになってきた気がする。多分、言いにくいことなんだろう。何か悩みがあるのかもしれない。ここはそっとしておくべきだろう。
「あのね!えっと……うぅ……やっぱりいいよ。ごめんなさい。」
そっと彼女を抱きしめる。「大丈夫だ。落ち着くまでこうしているといい。」「……ありがとう。」
「落ち着いた?」「うん。……もう平気。」「そうか。良かった。それで、どうしたんだい?」
「あ、あのね、私、あなたのこと、改めて大好き!」「お、おう。」
「だから、その……もっと一緒にいたいなぁって思ってて……。」「そうだな。」
「だから、今度デート行こうよ!」「分かった。どこに行く?」「それは決めてなくて……うーんと、映画とか?」「いいんじゃないか?よし、それじゃあ明日見に行かないか?」「うん。分かった。」
こうして俺たちは翌日、デートへ行くことになった。

青春だな。
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