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君の彼女とヤろうと思ったんだけどなぁ…

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最近、クラス公認のイチャラブカップルが別れた。
女子の方がいきなり態度を変えて男子を振ったということだ。そしてその女子は僕の友達である。
彼女はそんな人ではなかったはずだ。何か理由があるに違いないと僕は考えた。
しかし、いくら考えても答えが出るわけもなく、結局何もわからないまま1日が終わった。
「ねえ、翔くん」
帰り道、突然僕に話しかけてきた。
「ん?どうした?」
いつもより元気のない声で返事をした。
「私ね、好きな人ができたんだ……」
彼女の顔を見ると少し赤くなっていた。これは本気だなと思った。
「え?」
僕は興味津々で聞いた。
「うーん、それは秘密かなぁ~」
照れながら答える彼女。可愛らしさが満点だが、最近彼氏と別れた女子には見えない。
前の彼には未練も何もないのだろうか。態度が変わりすぎではないか。色々と疑問はあるが、彼女が幸せならそれでいいかと思い、それ以上聞かなかった。
「そっか……まあ頑張れよ!」
僕は笑顔で言った。
すると彼女は
「うん!ありがとう!」
と言って、さらに顔を赤らめた。こんな姿を見るのは初めてだった。
前の彼氏とは、何故別れたんだろう。そして今好きな人はどんなやつなんだろう。
気になって仕方がなかった。
それから数日後、彼女と僕は一緒に下校していた。
「ねぇ、今日暇?良かったら私の家来ない?」
唐突に聞いてきた。
「ああ、別に良いけど……」
不覚にもドキドキした。いかんいかん、何考えているんだ……。
「じゃあ決まりねっ!」
そう言って歩き始めた。
「お邪魔しま~す……」
緊張して声が小さくなった。
「適当に座ってて~」
彼女に言われた通りソファーに座った。すると、キッチンからコーヒーを持ってきて、僕の隣に腰掛けた。
「はい、これ飲んで待ってて~」
「おう、サンキュー」
渡されたコーヒーを飲むと、程よい甘さが口の中に広がった。とても美味しい。
隣では彼女がミルクを入れてかき混ぜている。
「あのさ、なんで今日家に呼んでくれたの?」
気になっていたことを質問する。
「うーん、ちょっと話したいことがあってね……」
急に神妙な面持ちになった。
「なんだよ、相談なら乗るよ?」
そう言うと彼女はこちらを向いてこう言った。
「実は私……翔くんのことが好きみたい!!」
突然の出来事で頭が真っ白になる。
「えっと……それってどういう意味?」
混乱しながら聞き返す。
「そのままの意味だよ?私はあなたのことが大好きです」
真っ直ぐな目で見つめられる。心臓の鼓動が速くなっていく。
「え?でもお前、彼氏いたじゃん……」
「うん。」
「え?じゃあどうして俺なんかを好きになったんだ?」
訳がわからなかった。
「だって、前の彼、浮気したんだもん…それでムカついて振っちゃった」
衝撃的な告白だった。今まで付き合っていた人と別れた理由がまさかそんなことだったとは思いもしなかった。
「だから私、今フリーなんだよね」
ニヤッとした表情を浮かべた。
「そういうことか……」
納得した。しかし、この展開は予想外すぎるぞ……。
「それで、どうなの?私の気持ちに応えてくれるのかな?」
また真剣な眼差しに戻った。正直言って嬉しかった。
というかなんだその破壊力抜群の笑みは。反則だろ……。
「もちろんOKだよ!」
少し間を置いて答えた。恥ずかしくて顔を見れなかった。
「やったぁ!!嬉しい!!」
いきなり抱きついてきた。柔らかさと温もりが伝わってくる。それにシャンプーの良い香りもするし、最高だ。
「これからよろしくねっ!」
「ああ、こちらこそ!」
こうして僕たちは付き合い始めた。
僕は幸せすぎて死ぬんじゃないかと思った。
こんな子がいて浮気するなんて前の彼氏馬鹿じゃないのか?と思うほどだった。
それからというもの、毎日彼女と登下校するようになった。
彼女の方から誘ってくるのだ。そして毎回手を繋いでくる。恋人繋ぎというやつだ。
おかげで学校に着くまでドキドキして大変だった。
「雨降ってきたね。」
「そうだな」
「相合傘しようか♪」
「ああ、いいよ」
いつもこんな感じで会話している。
こんな幸せな時間がずっと続けばいいのにと思った。
だが、幸せな時間というのは長く続かないものだ。
彼女の家に行く日のことだった。
インターホンを押しても誰も出てこない。鍵が開いている。
「おじゃましま~す!」
いつもより明るい声で呼びかけるが返事がない。
もう家に入ってしまうと、奥から変な声が聞こえてきた。
「あぁっ…やめてぇ…いやぁ…」
僕は急いでリビングへ向かった。そこには信じられない光景が広がっていた。
「はあ……はあ……いい加減諦めたらどうだ?」
「嫌よ!絶対にあなたのものにはならないわ!」
彼女は必死に抵抗する。その姿は随分と淫らだった。そして僕は見た。彼女が犯されているところを。
「や、やんっ!は、はぁ……んっ!んんんんんん!」
僕は怒り狂っていた。彼女をこんな姿にしたやつへの憎しみ、彼女を助けられなかった自分に対する苛立ち、そしてこの状況を打開できない自分の弱さに腹を立てていた。
「おい、お前。何見てんだよ。」
男がこっちに気づいたようだ。僕は男に向かって言った。
「お、お前こそ、何やってんだよ!」
僕は勇気を振り絞って言った。
「お前には関係ねえだろ?」
男は僕の方を睨んできた。
「ぼ、僕の彼女だぞ!?」
男の顔をよく見ると、クラスの男子だった。名前は確か……崎田とかいう名前だった気がする。
「ふーん、まあいいや。俺今からコイツとヤるんだから邪魔しないでくれる?」
「ふざけるな!」
僕は男子を彼女から離した。
「あ~あ、冷めちゃった。君の彼女とヤろうと思ったんだけどなぁ…その子を前の彼氏から別れさせたのも実は俺なんだよねぇw」
最低なやつだ。吐き気すら覚える。
「だからさ、君の代わりにその子とヤろうと思って。」
そう言って、再び彼女に襲いかかろうとした。
「待て!」
僕は彼女を庇うようにして立った。
「なに?まだやるつもり?いい加減しつこいなぁ……」
呆れた様子でため息をついた。
「うるさい。僕はお前を許さない。」
「分かったよ。帰るよ。もういいや、その子のことなんて。」
そう言って彼は出て行った。
彼女は恐怖の表情だった。当たり前だろう。あんなことをされたんだから……。
「大丈夫?怖かったね……」
優しく抱きしめる。彼女の身体はとても温かかった。
「ありがとう……助けてくれて……」
涙ながらに感謝の言葉を口にした。
「いいよ、そんなこと言わなくて……」
「翔くんがいなかったら私どうなってたか分からない……」
「ごめん……。僕がもっと早く駆けつけていればこんなことにはならなかったのに……」
後悔しかなかった。自分が情けなかった。
「ううん、気にしないで……。私のために怒ってくれただけで嬉しいよ」
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