愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

彼氏といる時間はなんとも幸せなものだ。
一緒にデートしたり、手を繋いだり……キスをしたり……。
そんな幸せな時間を過ごしているとあっという間に時間が過ぎていくのだ。
でも、なんとなく、女の影を感じるのだ。先月から。女物の香水の匂いがしたり、女もののハンカチやアクセサリーなんかを見かけることがある。それに……スマホのロック画面には女性の寝顔の写真が設定されているし、着信音が女性アイドルの曲だし……。
（これはもう確定だよね）
浮気されていることは間違いないと思う。
「私にはもうあんなに優しい笑顔見せてくれないのかな……」
自分で呟いておいて泣きそうになる。
私だけに見せてくれる表情だったのになぁなんて思ってしまう。
彼は私のことを見てくれていないけどそれでも好きな気持ちは止まらない。
（どうすればいいんだろ？）
こんなにも好きだから別れたくないし、浮気相手とは別れた方がいい。
だからと言って私が別れようと言ったところで素直に応じてくれるとは思えない。
***
それから1週間後。「ただいま」
彼が帰ってきた。
「おかえりなさい！」
「ごめんね。今日も遅くなって。寂しかったでしょ？」
「ううん。大丈夫だよ。それよりご飯できてるよ」
「ありがとう。お腹ペコペコなんだ～」
そう言って彼はテーブルにつく。今日のメニューはオムライスだ。
「いただきます」
私の、嫌いな料理だ。彼の大好物である。
そして、彼は美味しいと言いながら食べ進めていく。
「いつも通り美味しいよ。本当に毎日作ってくれてありがとね」
「ふふっ。どういたしまして」
さっきの言葉を聞いて思わず笑みが溢れる。
今聞こう。
「ねえ、最近夜中に出ること多いけど、なにしてるの？」
「え？…」
「仕事って言ったけど嘘だよね？本当は何してるの？」
「そ、それは……」
「教えてほしいな。あなたの口から聞きたいの」
「……ごめん」
やっぱりか。でもこれではっきりした。浮気をしていることが。
「どうして謝るの？悪いことしてないんでしょう？」
「いや、その……」
「ほら早く答えないと冷めちゃうよ。折角作ったんだから温かいうちに食べたいな」
私はわざとらしく言う。すると彼は慌てて答える。
「わ、わかった。話すよ。実は俺、会社の同僚と飲みに行ってたんだ」
「それで？」
「最初は楽しく飲んでたんだけど途中から酔い潰れちゃったみたいで気がついた時には知らない部屋にいたんだ」
「へぇーそうなんだ」
「うん。それで目が覚めたら目の前に女性がいてびっくりしちゃったんだよ」
「そうなんだね」
「彼女はすごく酔っていたのか『責任取ってください』とか言い出してそのまま付き合うことになったんだ」
「……」
「もちろんすぐに断ったよ。だけど何度も言われて断れなくて仕方なく付き合ったんだ」
「…」
「本当にごめん」
私はもう怒りでいっぱいだ。許せない。いくら何でも酷すぎる。
確かに私は彼に幸せになってほしいと思っている。
だけど他の女と付き合ってほしくはなかった。
私は彼を責めるように質問する。
「それっていつの話？」
「3ヵ月前くらいかな」
「今はもうやってないの？」
「ああ、やってないよ」
「そう」
とりあえずホッとした。まだ彼と別れずに済むことに安堵する。
「本当にごめん」
彼は申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「ねぇ……なんで浮気したの？」
「……それは……」
「言えないような理由なの？」
「違う！そういうわけじゃないんだ。ただ……俺は君と一緒にいるよりも同僚と過ごす時間の方が楽しいと思ってしまったんだ……」
「……ひどい」
「ほんとうにごめん。」
「愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん。」
「……」
「何も言わないんだね」
「ごめん……」
「はぁ……わかった。私、あなたとは別れる」
「え？」
「だって私よりその子を選んだんでしょ？」
「そんなつもりは……！」
「じゃあどういうつもりだったの？私のこと好きじゃなかったんでしょう？」
「……ごめん」
「謝られても困るよ」
「ごめ……」
「だから謝らないでって！」
私は声を荒げてしまう。
「こんな私なんて要らないでしょう？だから別れて」
「……わかった」
「じゃあ荷物まとめてくるね」
「待って！」
彼が呼び止めてきた。でも私は振り返らず足を止める。
「最後に一つだけ聞かせて欲しいことがあるんだ」
「なに？」
「君は僕のことを愛してくれていた？」
「ええ。あなたとは違って。」