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お父様、私と家臣との恋を許して!

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私はとある国の王女だ。
父はこの国の王で、母は妃という立ち位置。
私は兄を持ち、兄は王子、私は王女である。
私は年頃になり、婚約者探しが始まっていた。
「あー、もう! こんなの着たくない!」
私の趣味ではないドレスに袖を通すと、侍女たちが悲鳴を上げた。
「いけません! 王妃様からのお達しです」
「嫌よ! 動きにくいもの!」
「ダメです! 今日は大事な日なんですから!」
そう言って無理やり私を着替えさせる。
「ああ……どうして私がこんな目に……」
私はため息をつく。そして鏡を見ると、そこには美しい顔立ちをした少女が映っていた。
私は長い黒髪をかき上げながら呟く。
「本当に面倒くさいわね……」
私は自分の美貌にうんざりしていた。
格式高い男ばかりを紹介されて、対応に困る。
自分で言うのもおかしいものだが、私は結構美しいと思う。
しかし、どうにも好きになれないのだ。
理由は簡単だった。
私には好きな人がいるから。
家臣の息子のアルフォンス・ミューエンバーグ。
優しくていつも笑顔を絶やさない彼に惹かれていた。
でも、その想いを伝えることはできない。
彼は優しいけど鈍感なので、きっと気づいていないだろう。それに身分差もある。彼が私のことを好いている可能性なんて万に一つもない。
だから、ずっと心の中に秘めておくつもりだった。
それなのに……
「あの、王女様。」
何事かと思って声の方を振り向くと、アルフォンスが嬉しそうな表情をして立っていた。隣には若い(と言っても私と同じくらいの)娘がいた。
「え? どういうこと?」
困惑していると、アルフォンスは恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「僕たち結婚することになりました」
「……はい?」
アルフォンスと他の女が結婚!?そんなのあり得ないわ! だって、あの子は……。
アルフォンスは私の侍女の一人と婚約していた。
彼女はアルフォンスのことが好きだったはず。
そうか…私は負けたんだ…一瞬だけ思考が停止したが、すぐに状況を理解した。
悔しさよりも驚きの方が勝っている。
まさか、あの子に負けるとは思わなかった。
でも、これでよかったのかもしれない。
アルフォンスも幸せそうだし、私にとっても都合が良い。
…と頭では分かっていたが、心はそうはいかない。そんな軽い想いじゃないから。私は二人に祝福の言葉を送った後、自室に戻った。
「うぅっ……ぐすん……」
部屋に戻ると、私はベッドの上で泣き崩れた。
涙が溢れてきて止まらない。
こんなとき…どうすればいいのか。
これはどうしたいかを明確にするのだ。
アルフォンスを略奪したい。あの女から。
そうだ…父上に頼めば…権力とかでなんとかしてくれるはず…
そんなことを考えて寝た。
「お前年頃になって馬鹿なのか?」
「父上!?」
願いも思いもむなしかった。翌朝起きると、目の前には父がいた。
「なんでここにいるんですか?」
「そりゃあ娘の様子を見に来たんだよ。心配だしな」
父は少し悲しげな顔をして言った。
「父上は私が嫌いになったんじゃないですか?」
昨日のこともあって、つい皮肉めいたことを口にしてしまった。
「はぁ? 何を言っている。可愛い娘を嫌うわけがないだろ」
すると、予想外の言葉が返ってきた。
嬉しい。とても嬉しい。
だが、同時に罪悪感を感じる。
父上の気持ちを踏みにじってしまったことに。
「政略結婚させようとしたことは事実だ。すまなかった。だけど、アルフォンスの幸せを考えると、お前は諦めるしかないんだよ。」
「分かっています…」
分かっているが納得できない。でも仕方ないことなのだ。
「アルフォンスのことが好きか?」
突然の父からの問いにドキッとした。
「はい……好きです。愛しています。」
今まで溜め込んでいた感情が爆発してしまった。
「そっか……まぁ、昔からそんな気はしていたんだがな…ごめんな…」
父上が去った後、私はもう一度、泣いた。
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