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雪と制服とジャージ
1.バレンタイン
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「うーん……」
とある近所のコンビニにて。
煌びやかでピンクでスイートなコーナーで一人、じいっと立ち尽くす。
目の前に、色とりどりのチョコのパッケージが並んでいて目移りする。
……先生にバレンタインチョコ……。
渡したら、貰ってくれるのかな?
一番手前にある、このダークブルーのシンプルな包装の生チョコが先生のイメージにピッタリで、買って帰ろうか迷う。
秋の雨の日、先生の家で起こった、ちょっとしたハプニングから数ヶ月経った。
学校で先生と顔を合わせると、先生は普通に話しかけてきたり、話しかけてこなかったり。
本当に、何もなかったと思うぐらい、普通に話しかけてくる。
学校はすでに自由登校期間で、卒業式を目前に迎えていて、最近は顔を合わせることすらない。
お陰様で(?)、大学も受かり、春からは大学生になる。
――お前の気持ちが変わらなかったら、また、卒業してから来い。その時は、追い返したりしないから。
あの雨の日、先生が言ってくれたことは、まだ成り立っているのかなぁ……。
そして、またこのダークブルーの箱を見つめる。
「よしっ」
まだ、卒業はしていないけれど、あげたい気持ちは止められない。
私はその小さな包みを手に取り、レジへと急いだ。
さて、このチョコ、どうやって渡そう。
体育教官室まで持っていくのも……
誰かに見つかるのもいけない気がするし、おうちに行っちゃうと叱られる気もするし、うーんうーんと悩みながら、コンビニ袋に入ったチョコを大事に鞄にしまう。
……下駄箱ってどうかな?
教職員用じゃなくて、体育教官室の下駄箱に。
それだと、誰かに見つかる可能性もぐんと減るし、うんうん、いいかもしれない。
一人納得して、14日、久しぶりに制服を着た私は、朝早く学校へ行くことにした。
「バレンタインなのに、今日も雨かぁ……」
手のひらを空に翳す。ぽつぽつと雨粒が落ちてくるが、雪に変わりそうなくらい冷え込んでいる朝。
コートにマフラー、手袋で防寒はするが、冷たい雨は容赦ない。
お気に入りの水色の傘と、小さな紙の手提げに入れたチョコを持って、白い息を切らせながら、早朝から体育教官室に向かった。
「え、うそ」
思わず驚いて声が出た。
ああ……! 体育教官室の下駄箱は、扉がついていないんだ!
これじゃあチョコ入れたら、他の先生にバレちゃうよね。
しばし悩んだけれど、6時台から眠い目を擦りながらもここまで来たんだしと、小さなその手提げの口を折り込んで下駄箱へ入れる。
「これで……いいかな」
一歩下がって頷くと、突然背後から声がした。
「……何してんだ、お前」
心臓が口から飛び出るほど驚く。
氷上先生はまだ寝起きのようなぼんやりとした表情で、ゆらりと後ろから覗き込む。
とある近所のコンビニにて。
煌びやかでピンクでスイートなコーナーで一人、じいっと立ち尽くす。
目の前に、色とりどりのチョコのパッケージが並んでいて目移りする。
……先生にバレンタインチョコ……。
渡したら、貰ってくれるのかな?
一番手前にある、このダークブルーのシンプルな包装の生チョコが先生のイメージにピッタリで、買って帰ろうか迷う。
秋の雨の日、先生の家で起こった、ちょっとしたハプニングから数ヶ月経った。
学校で先生と顔を合わせると、先生は普通に話しかけてきたり、話しかけてこなかったり。
本当に、何もなかったと思うぐらい、普通に話しかけてくる。
学校はすでに自由登校期間で、卒業式を目前に迎えていて、最近は顔を合わせることすらない。
お陰様で(?)、大学も受かり、春からは大学生になる。
――お前の気持ちが変わらなかったら、また、卒業してから来い。その時は、追い返したりしないから。
あの雨の日、先生が言ってくれたことは、まだ成り立っているのかなぁ……。
そして、またこのダークブルーの箱を見つめる。
「よしっ」
まだ、卒業はしていないけれど、あげたい気持ちは止められない。
私はその小さな包みを手に取り、レジへと急いだ。
さて、このチョコ、どうやって渡そう。
体育教官室まで持っていくのも……
誰かに見つかるのもいけない気がするし、おうちに行っちゃうと叱られる気もするし、うーんうーんと悩みながら、コンビニ袋に入ったチョコを大事に鞄にしまう。
……下駄箱ってどうかな?
教職員用じゃなくて、体育教官室の下駄箱に。
それだと、誰かに見つかる可能性もぐんと減るし、うんうん、いいかもしれない。
一人納得して、14日、久しぶりに制服を着た私は、朝早く学校へ行くことにした。
「バレンタインなのに、今日も雨かぁ……」
手のひらを空に翳す。ぽつぽつと雨粒が落ちてくるが、雪に変わりそうなくらい冷え込んでいる朝。
コートにマフラー、手袋で防寒はするが、冷たい雨は容赦ない。
お気に入りの水色の傘と、小さな紙の手提げに入れたチョコを持って、白い息を切らせながら、早朝から体育教官室に向かった。
「え、うそ」
思わず驚いて声が出た。
ああ……! 体育教官室の下駄箱は、扉がついていないんだ!
これじゃあチョコ入れたら、他の先生にバレちゃうよね。
しばし悩んだけれど、6時台から眠い目を擦りながらもここまで来たんだしと、小さなその手提げの口を折り込んで下駄箱へ入れる。
「これで……いいかな」
一歩下がって頷くと、突然背後から声がした。
「……何してんだ、お前」
心臓が口から飛び出るほど驚く。
氷上先生はまだ寝起きのようなぼんやりとした表情で、ゆらりと後ろから覗き込む。
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