雨と制服とジャージ

室生沙良

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雨と制服とジャージ

3.雨とカミナリ

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26歳。独身。おうし座。B型。一人暮らし。
出身大学は、私が受ける大学と同じ。
生徒指導もしていて、体育の時間は鬼教師。
怖いけれど、隠れファンもいるらしい。

私が知っている先生の情報はそのくらいで。
彼女はいるのか、不明……。

口元までちゃぷんとバスタブの湯に沈む。

人様の家のものをあまりまじまじと見るのもダメだろうけれど、ボディソープとか、シャンプーは男物。
彼女と一緒に住んではいないようだ。

男の人の部屋に来たのも初めてなのに、ましてやそれが氷上先生の家だなんて、誰にも話せない。

ふー……。十分温まったし、出よう。
先生も体冷えてるだろうし、お風呂に入るかも。

バスタオルで拭きながら洗面所に出ると、そこには新しい着替えが置かれていた。大きなスウェットとTシャツ。
乾燥機は勢いよく回っているし、もうすぐ乾きそうだ。
だぼだぼのスウェットとTシャツを着て、洗面所から周りを覗く。


先生は……リビングにいるのかな……?
と思ったら、先生の方からこっちへやってきた。
身長160センチの私でも、先生の背の高さなら簡単に見下ろされてしまう。

「出たのか」
「あっ、はいっ。先生もお風呂……」

その時。
ピカッと鋭く強い閃光が走り、間をおかず雷が落ちた。凄まじい轟音に、床にも振動が走る。

「ぎゃあああっ」

色気のない悲鳴をあげ、思わず側にいた先生に縋り付くと、部屋の電気が一斉に落ちた。

「え……えっ、停電⁉︎やだっ、暗いの怖いっ」
「おい。落ちつけ。すぐに復旧するだろ」

ひゃ……っ。

耳元に聞こえてくる先生の甘く低いその声に、思わず耳を塞いだ。

「あの雷の音は、近くに落ちたかな」

先生は全く動じる様子もない。


でも、この格好。壁にもたれる先生を、私が押し倒してる……よね。先生の膝に私の足が重なって絡んでるし。
見上げたら、先生の顔がすぐ近くにありそうで……。

もぞもぞと足を動かすと、先生の手が私の腰にぴとっと触れた。

「あ……やんっ」

わっ!
私、なんて声を…!

先生の顔は見えないけど、呆れられている空気がひしひしと伝わってくる。溜息はしっかり聞こえた。

「……何て声出すんだよ。支えただけだろうが」
「す、すみません」

そう言われると思いました。ごめんなさい。
先生は、項垂れる私に、くっくっと笑いを堪えている。

「懐中電灯あったかな」

 と、先生はあっさりと私を置いて立ち上がろうとするが、私は恥を忍んで蟹挟みで動きを封じた。

「ちょ、置いていかないでください!」
「あ?暗闇ダメなのか?」

会話の隙間にも一つ、恐ろしい轟が聞こえてきて悲鳴をあげる。


「ぎゃあああっ! く、暗闇も……雷も、ダメです。ひとりにしないで下さい……」
「……わかったよ。世話かかるな、お前」
「すみません……」

……あれ。さっきより、密着してるような。
よく見えないけど、先生は廊下に横たわってるし、私もそんな先生に足を絡めて、腕枕されてる?

恐る恐る、先生の顔がありそうなところに手を伸ばす。
鼻らしきものに当たり、「何もぞもぞ動いてんだ」と手首を捕まえられた。

「いえ、全然見えなくて、先生がどこにいるのか……きゃ!」

カーテン越しでもわかる閃光がまた、瞬いた。先生の胸にしがみついて震える。
音が……あまりの迫力で腰が抜けそうだ。

「怖い……この部屋にも雷落ちちゃうかもしれませんね」
「落ちねえよ。つか、落ちても大丈夫になってんだよ。あと、落ちついたら目も慣れるから、じっとしとけ」
「で、でも」
「そんなに落ちつかねえなら、何かして気ィ紛らわすか?」

先生の声が、色っぽく耳に掛かる(気がした)。

「えっ、何、何かって」

ドキドキする私に、先生はぽそりと囁いてくる(気がした)。

「そうだな。運動とか。ストレッチ、とか?」

え。
こんなに男女が密着しながらやるストレッチって、一つしか思い当たらない。
しかも、先生から……誘ってくるなんて。

「……ストレッチ……ですか」
「ああ。リラックスできるしな。……ってお前、ちょっとひっつき過ぎじゃねぇか」

怖がりまくっていた私はいつのまにか、先生の胸にむにゅうとEカップを押し付けていた。

けしてわざとじゃないと誓える。
わざとできる技術があれば、もっとモテ街道をひた走ってきただろう。
そりゃ一度ぐらいは男子に告白されたこともあるけれど、地味に平凡に過ごしてきたし、何より私はまだ……。

正真正銘の 処女 なのだ。

なのに、先生は冷たく私に尋ねる。

「……お前、俺に迫ってんのか?」

ひいっ!
少しだけ慣れてきた暗闇で、先生が私を睨んでいるのがわかる。
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