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3章
ちょっとした昼休憩、そこでの会話と彼女が見せた表情と仕草
しおりを挟むそしてしばらくして、僕と如月さんは時間帯もちょうど良いということで、お昼ご飯を食べることにした。
場所が館内にあるレストラン。こういうところのご飯って少し高い感じがするから気が引けるけど、今日は如月さんと一緒に来ている。そういうところを気にするのも良くないと判断をし、今回ばかりは思い切ることにした。
そうして僕と如月さんが店内に入店をすると、お昼時と休日なこともあってか、中にはそれなりの人で埋まっている。けど、満席では無かったので、僕らは空いている席に座ることが出来た。そしてメニュー表を開きながら、二人で何を注文するかを決めることにした。
どうしようかなぁ……と、料理の写真を見て悩む僕。正直言って、やっぱり値段は高かった。だって、ハンバーガーが千円超えてるとか、目を疑いたくなる。これを買うだけで、チキン〇リスプがお腹いっぱい食べられるんだけど。
でも、何だってこういう施設は少し値段が上乗せされてるの? 自販機とかでもそうだけど、その辺で買えるものの二倍くらいの値段になってる気がするんだけど。ぼったくり過ぎでしょ……。絶対に僕、夢の国とかに行ったら心から楽しめないと思うんだ、こんな感性だと。
そうやって悩んでいると、ふと視線を感じたのでそちらに目を向けてみると、その送り主はやはりと言うべきか、如月さんであった。彼女は相変わらず何を考えているのか分からない表情で僕のことを見つめていた。
「蓮くん」
「えっと、何? もう決まったの?」
「イワシが無いわ」
「へ?」
「イワシがどこにもいない」
そう言って如月さんはメニューに視線を落とし、どこかがっかりしたような表情をしていた。そんな彼女の様子を見ていると、何だか微笑ましい気持ちになってしまう僕。
……というか、如月さん。本当にイワシを食べようと思っていたんだ。確かにメニューを見てみれば、イワシを使ったような料理は見当たらない。マグロとかのメニューは豊富にあるけれども、他の魚料理についてはあまり載っていなかった。
「あんなに美味しそうだったのに……」
「ま、まぁ……水族館に来る人の心理的に、泳いでいる魚を見た後に食べるのはちょっと辛いんじゃないかな……?」
悲しそうに呟く如月さんに、僕は苦笑いを浮かべながらもフォローを入れる。生け簀とかなら別だけど、水槽にいる魚を食べたいとは僕もあまり賛同は出来ない。だって、忌避感がヤバいんだもの。
さて、気を取り直して……如月さんはイワシを使った料理が無いことが分かると、諦めて違うものを食べることに決めたようだ。
「……私、これにする」
「え、どれ?」
僕がそう聞くと、如月さんはメニューを見せながら決めた料理を指差した。どんなメニューかワクワクしながら目を向けると、僕は思わず固まってしまう。何故ならそこに書かれていた名前は……『シャークステーキ』だったからだ。
「さ、サメの、ステーキ……?」
「うん」
「そ、それって……美味しいの」
「……さぁ?」
如月さんはそう言って首を傾げた。
「さぁって……」
「だって、食べたことないから」
「……そっか」
確かに、日常の中でサメの肉が売ってる光景なんて見たこと無いし、サメといえばどちらかと言うとフカヒレのイメージが強い。だから、味のイメージが湧かないのも当然と言えば当然かもしれない。
けど、こうしてメニューとして掲載されているということは、きっとそれなりに美味しいのだろう。それに食べたいと思って注文しようとするものに文句を言うのもどうかと思う。という訳で、僕はそれ以上は追及しないことにした。
そして、僕が頼むのは……何の変哲もないかけうどんだ。選んだ理由は、メニューの中で一番安いからだ。……それでも、七百五十円ぐらいするけど。ちなみに如月さんが頼んだシャークステーキはお値段千二百五十円もする。少しリッチだ。
そうして僕らは注文を済ませると、料理が来るのをひたすら待つ。それも無言で。他の席に座るお客さんが和気あいあいとしている中、僕らは黙々と待っていた。……気まずいなぁ、この空気。
なので、ここは僕から如月さんへ話し掛けてみることにした。多分、待っていても彼女は話し掛けてくれないだろうから、僕から振らないといけないからね。
「そ、それにしても……あれだよね」
「……どうしたの?」
「その……如月さんが水族館を楽しんでくれてるみたいで良かったって思ってさ」
「……楽しんでる?」
「うん」
「私が?」
「そうだね」
「……別に、そんなことはない」
如月さんはそう言うと、そっぽを向いてしまった。そんな彼女の仕草に僕は苦笑する。もしかすると、照れているのかもしれないと思うと、自然と笑みが溢れてきた。
「けど、その割には自分から色々と見て回ってたよね?」
「……それは」
僕が指摘すると、如月さんはバツが悪そうに俯いてしまった。
「知らない知識についても、僕に率先して教えてくれたし」
「……そんなことない」
「あと、イワシの泳ぐ姿を見て、美味しそうって言ってたのには、僕も少し笑っちゃったかな」
「……」
僕の言葉を聞いた瞬間、如月さんは再び黙り込んでしまった。そして少しだけ頬が赤く染まっていた気がしたけれど、すぐにいつもの無表情に戻ったので気のせいだろうと思い直した。
それからしばらく無言の時間が続いた後、如月さんが上目遣いで僕のことを見つめながら口を開く。
「……蓮くんのいじわる」
「えっ!?」
予想外の反応に僕は戸惑ってしまう。てっきり無視されるかと思っていたのに、まさかそんな反応をされるとは全く思っていなかったのだ。
いや、むしろ良い! これは可愛い! 普段は無口でクールな印象のある彼女が、こんな風に拗ねるところを見るのは初めてだったので、不覚にもドキッとしてしまった。
しかも、それがまた破壊力抜群だったのだから堪らない。普段とは違うギャップも相まって、余計に可愛く見えてしまうのだから不思議だ。
しかし、このまま放っておくわけにもいかないので、とりあえず機嫌を直して貰う為に何か別の話題を振ることにする。
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