如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)

文字の大きさ
上 下
84 / 86
3章

意外にも博識な彼女と、彼女が発した言葉の謎。

しおりを挟む


 ―――その後も、僕と如月さんの水族館デートはとてもじゃないけど、普通の立ち回りとは思えないものだった。

 サメエリアを抜けた後、僕らが向かったのは……

「こっち」

「えっ、こっちって……」

 如月さんが指差す先、それはまさかの深海魚ゾーンであった。この場所には水槽以外にも、深海魚の模型やらパネルやらが置かれているのだが、どれもこれもグロテスクで、お世辞にも女の子が喜びそうなものではない。むしろ、大人でも苦手な人は目を背けたくなるようなものだ。

 しかし、如月さんはそんな不気味な展示物の数々を前にしても臆することなく、スタスタと歩いていく。そして、展示されている生物たちの前に到着すると、それらをじっくりと眺め始めた。僕も恐る恐るといった感じではあるが、彼女と同じように展示されている生物たちを順番に見ていくことにする。

「えっと……これは、何ガニだっけ……? タラバガニ?」

「タカアシガニ」

「なるほど……」

 水槽の中にいるカニを眺めながら、如月さんが呟いた言葉を聞いて、僕は相槌を打つ。……タカアシガニって、美味しいんだろうか。カニカマしか食べたことが無いから、カニの味なんて分からないけど。

「これは……何? 宇宙から来た生き物……?」

「メンダコ」

「あっ、これがメンダコか……」

 とてもタコとは思えない軟体生物を前に、思わず呟く僕。名前だけは聞いたことはあったけど、実際に目にするのは初めてだった。なんというか、ちょっと愛嬌があってこれに関しては僕も可愛いと思った。

「これは確か……テレビで見たことがある。あるんだけど……何て名前だったっけ……?」

「リュウグウノツカイ」

「あぁ、そうだ、それそれ」

 巨大なタチウオみたいな、魚のゲームがあるとすればラスボスとかパッケージイラストを飾りそうな生物の模型を見ながら、僕はようやく思い出した名前を呟いていた。しかし、如月さんは僕の呟きを耳聡く拾うと、こちらに顔を向けてくる。

「知っているの?」

「え、あ、うん……一応ね」

「そう」

 如月さんはそれだけ言うと、模型にまた目を戻してしまった。……いや、何だかさっきから素っ気ない会話ばっかりだなぁ。もう少しくらい、何か話してくれてもいいと思うんだけどなぁ……。

 僕がそんなことを考えていると、如月さんはまた移動をし始めてしまう。僕は慌ててその後を追うようにして付いていく。

 それからしばらく歩いて行くと、今度はクラゲのエリアへと辿り着いた。ここは先程の暗い深海魚ゾーンとは違って明るく、照明の光によって照らされているので安心感があった。

 それに何より、たくさんの綺麗な色のライトアップされたクラゲたちがふわふわと浮かんでいる姿は、幻想的な雰囲気を漂わせていて、とても美しかった。

 ここまで普通の展示→ダイオウグソクムシ→サメ→深海魚というクソローテだったので、まともな展示が来たことに僕は感動を覚えたほどだ。いや、良かった。僕にはまだ安心出来る場所があったんだ。こんな嬉しいことはないよ。

 そんな光景に嬉し涙を流していると、ふと隣から視線を感じてそちらを見ると、如月さんがこちらを見てきていた。彼女は相変わらず無表情ではあったが、照明によって照らし出された彼女の顔が美しく見えて、つい見惚れてしまっていた。すると、如月さんはゆっくりと口を開く。

「綺麗ね」

「えっ?」

「すごく綺麗」

「……うん、そうだね」

 如月さんのその言葉に対して、僕は素直に頷く。確かに綺麗だ。とても幻想的で、まるで夢の世界にいるような気分になれる。そして僕らはしばらくの間、クラゲの水槽を眺めていたのだが、不意に如月さんが僕に話し掛けてきた。

「ねぇ、知ってる?」

「えっ?」

 突然、緑色の豆みたいな犬みたいな何かのような台詞で話し掛けられて驚く僕に対し、彼女は淡々とした口調で言葉を続ける。

「クラゲって、イソギンチャクと同じ仲間なんだって」

「え、そうなんだ」

「同じ刺胞動物の仲間。だから、両方とも毒を持ってる」

「あっ、毒持ちなんだ……」

 こんな綺麗な光景を目にしている最中に、毒があるよと言われた僕は、少し複雑な気分になった。……なんか、一気に現実に戻されたような気がするし。

「ちなみにクラゲにはもう一つ、別の特徴もある」

「えっ、そうなの?」

「クラゲには脳がない」

「えっ!?」

 如月さんの言葉に僕は驚きの声を上げる。だって、生きているのだから、てっきりどこかしらに脳みそに該当する部分があると思っていたからだ。けど、そんなものが存在しないとは思いもしなかった。

「……知らなかった?」

「うん……初めて知ったよ」

「クラゲは神経が刺激されることによって反射的に動いているの。だから、脳の伝達が無くても動ける」

「へぇ……」

 つまり、クラゲは何も考えていないってことなのかな? いや、それは流石に失礼過ぎる考えかな? でも、何も考えずにぷかぷかと浮かんでいられるっていうのは羨ましい気もするけど……。

「……ところで、どうしてクラゲの話を?」

「何となく、したかっただけ」

 如月さんの返答を聞いて、僕は苦笑を浮かべた。まぁ、なんとなく話をしたかっただけなのなら仕方ないだろう。僕だって、たまにそういう気分になる時もあるし。

「……―――しい」

「えっ?」

 如月さんが何かを呟いたような気がしたので、僕は反射的に彼女へ視線を向ける。しかし、そこにはいつも通りの無表情をした彼女が立っているだけで、特に変わった様子は無かった。もしかして、今のは幻聴だったのだろうか……?

 そんな風に考えているうちに、如月さんは移動を始めてしまう。なので、僕も黙って彼女の後ろについて歩いていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※続編が完結しました!(2025.3.26)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる

れおん
恋愛
世間一般に陰キャと呼ばれる主人公、齋藤晴翔こと高校2年生。幼馴染の西城香織とは十数年来の付き合いである。 そんな幼馴染は、昔から俺の顔をやたらと隠したがる。髪の毛は基本伸ばしたままにされ、四六時中一緒に居るせいで、友達もろくに居なかった。 一夫多妻が許されるこの世界で、徐々に晴翔の魅力に気づき始める周囲と、なんとか隠し通そうとする幼馴染の攻防が続いていく。

処理中です...