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3章
高校生活において、初めての経験と彼からの助言
しおりを挟む―――それから数時間後。時刻は十二時を回った頃、昼休みの時間となった。僕は教室を出て購買に行くと、適当にパンを数個ほど見繕って購入した。
そしてそのまま買ったパンを持って、僕は校舎裏の非常階段へ急いで向かった。僕が目的地に到着すると、そこには既に先客がいた。遠目でも誰だか分かる、目立つ髪色をした男子生徒。そう卯月である。
「……随分と遅かったな」
「ご、ごめん……今日に限って、購買が混み合ってて」
僕が息を切らして謝罪の言葉を口にすると、卯月は小さく溜め息を吐いた後にこう言ってきた。
「まあいい。とりあえず、早く食べようぜ」
「う、うん。そうだね……」
そして僕は適当に買ってきたパンの一つ、焼きそばパンを卯月に手渡した。……何だか絵面だけ見ていると、不良生徒にパシリにされているようにしか見えないかも、これ。けど、実際はそんなことは無く、卯月は代金分のお金を僕へ差し出してきたので、僕はそれを受け取った。
色々と誤解をされることも多いけれども、彼は髪色とか目付きが悪いだけで、それ以外は普通の男子生徒だ。少し物言いに厳しさがあったりもするけれども、根は良い奴なのは最近になって分かってきた。
なので、こうして二人で昼食を食べることも躊躇しなくなった。僕にとって、数年ぶりに出来た昼休みを一緒に過ごせる同性の友人と呼べる存在かもしれない。もっとも、向こうがどう思っているかは分からないけれど。
「……そういえば。どうして校舎裏に集合にしたの?」
「あ? それぐらい、考えなくても分かるだろ?」
「えっ? いや、分かんないんだけど……」
僕が戸惑い気味に答えると、卯月は呆れたように溜息を吐いた。
「はあ……あまり聞かれたくない話だし、周りに人がいない方が良いだろうが」
「あっ、そういうことか……けど、それだったら屋上でも……」
「屋上を集合場所にしたら、あいつとかち合う可能性があるだろうが」
「……確かに」
卯月の言葉を聞いて納得した僕はゆっくりと頷いた。確かに自分で言っておいてなんだが、屋上に行けば彼女―――如月さんと鉢合わせする可能性は高いだろう。
そうなれば、これからする話の内容を彼女に聞かれる可能性もある訳で……そう考えると、確かにこの場所は最適だとも思えた。ここなら卯月と話していても、その内容が彼女に伝わることも無いだろうから。
「まあ、そういう訳だ。分かったなら時間もあまり無いことだし、さっさと食っちまうぞ」
「う、うん」
僕は頷くと、早速買ってきたパンを食べ始めた。卯月もそれに続いて、黙々と食事を始める。そして数分もしない内に、二人とも食事を終えた。
食事を終えた卯月は包装の袋を乱雑に制服のポケットの中に突っ込むと、僕に視線を向けた。
「……さて、それじゃあ聞かせて貰おうか。お前と如月が話していたことについて」
「う、うん……」
僕は小さく深呼吸をした後、覚悟を決めたように話し出した。
「で、何で如月がお前にご褒美だとか言い出したんだ?」
「え、えーっと、それは、その……実はこの間、休みの日に偶然なんだけど如月さんと近所の図書館で顔を合わせることがあって……」
「ああ。それで?」
「そこで如月さんに勉強を教えて貰ってたんだ。それで、あの……彼女からどうすれば頑張れるか聞かれて……」
「……それで、お前はなんて答えたんだ?」
「ご褒美があれば頑張れるかも……って、如月さんに言いました……はい」
僕が恐る恐るでそう口にすると、卯月の表情が一気に険しくなった。
うわ……やっぱり怒ってる。その表情を見て、僕は思わず身構えてしまった。しかし、そんな僕を余所に卯月は大きく息を吐くと、今度は呆れた表情になった。
「なるほどな……事情は分かった。つか、やっぱりお前が吹き込んだんじゃねえか」
「うぐっ……」
卯月の言葉がグサッと胸に突き刺さった気がした。しかし、事実だから反論出来ない……。
「で、それでお前はあいつに何をお願いするつもりなんだ?」
「えっと、それは……」
「……まさか、いかがわしいことじゃないだろうな?」
「ち、違うよ! そんなんじゃなくて、もっと普通の内容を頼むつもりだから!」
「ほう、そうか……」
卯月は疑わしげな視線を僕に向けてくる。僕はその視線に気圧されつつも、慌てて言葉を続けた。
「ほ、本当に大丈夫だから。別に変なことを頼んだりしないから」
「本当か……?」
「本当だってば……」
疑いの眼差しを向けてくる卯月に対して、僕は力強く頷いて見せた。すると、卯月は眉をひそめてはいたけど、一応納得してくれたみたいだった。
「……それならいいが、もしあいつに変な真似をしたら、タダじゃおかないからな?」
「わ、分かってるよ……」
「で、もう一度聞くが、お前はあいつにご褒美として何を望むんだ?」
「そ、それは……」
卯月から改めて聞かれた僕は口籠ってしまった。正直、ご褒美の内容については決め兼ねているのが現状だったから。けど、何となくではあるけどこれにしようという候補は幾つかあるにはあった。ただ、それを素直に口に出す勇気が無かっただけなのだけど……。
うーん……どうしよう。僕は内心で頭を抱えていた。だけど、このままだと話が進まないし、卯月に不信感を抱かれるだけだ。ここは意を決して、言うしかないだろう。そう思い立った瞬間、意を決して僕は口を開いた。
「その……こ、今度の休みに、デートして貰えたらな……って」
僕が口にした言葉を聞いた途端、卯月は一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐに訝しむような顔になった。そして僕の方へ視線を向けると、目を細めて問い掛けてきた。
「……お前、正気か? 言っておくがあいつ、人混みが多い場所や遠出とか嫌がるぞ」
「う、うん……知ってる。前にも一度、それで提案をしたら断わられたから……」
思い返すのはゴールデンウイークのより以前の出来事だ。あの時も如月さんに一緒に出掛けることを提案したけど、僕が行き先として口にしたショッピングモールや遊園地という選択肢は彼女によって断られてしまったのだ。
だからこそ、卯月からそう言われなくたって、彼女がそういった場所に苦手意識を持っていることは知っているし、理解しているつもりだ。けど、それでも僕は彼女と何処かへ遊びに行きたかったのだ。
「で、でもさ……僕は、如月さんのことをもっと知りたいと思うんだ。だからその為には、彼女と一緒にいる時間を増やすのが一番だと思って……」
「……そうかよ」
「それで、相談なんだけど……如月さんって、どういうところが好きだったりするのかな?」
「は? 何でそれを俺に聞くんだよ」
「いや、だって……卯月って如月さんとは昔からの付き合いなんだよね。だからさ、何か知らないかなって思って……」
「……」
僕がそう聞くと、卯月は何も言わずに黙ってしまった。そのまま数十秒の間、沈黙が続く。そして卯月は大きな溜息を一つ吐いた後で話し始めた。
「……あいつは動物とかが多い場所や、自然の豊富な場所を好むぞ」
「そうなんだ……じゃあ、動物園とかがいいのかな?」
「さあな。そこから先は本人に聞いてみろ。俺に聞くんじゃねえ」
そう言って卯月は再び黙ってしまう。これ以上は教えることは無いというこのなのだろうか。それでも、如月さんが好みそうな場所を聞けただけでも収穫はあったと言える。
「う、うん。分かったよ。教えてくれて、ありがとう」
だからこそ、僕は卯月に感謝の言葉を述べた。すると、卯月は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。そんな彼に対して、僕はまた声を掛けた。
「あ、あのさ……卯月」
「……何だ。まだ何かあるのか?」
「その……実はもう一つだけ、相談したいことがあって……」
「あ?」
「えっと、実は―――」
僕は聞こうと思っていたことについて卯月へ問い掛ける。すると、彼は今日見た中で一番怪訝そうな表情を浮かべながら聞き返してきた。
「……お前、マジで言ってるのか?」
「う、うん……」
「マジかよ……」
卯月は信じられないと言わんばかりに目を見開いている。そんな反応をするのも無理はないかもしれない。しかし、僕はもう決めたんだ。だからこそ、僕は卯月に向かって強く頷いた。それを見た卯月は、大きな溜息を吐くと渋々といった様子で頷いた。
「分かったよ……まあ、どうなるかは分からんが、協力してやるよ」
「ほ、本当!?」
僕は驚きのあまり声を上げてしまう。まさか、ここまですんなりと承諾してくれるとは思っていなかったからだ。
「ああ……だが、期待するなよ?」
「うん! それでもいいよ!」
僕は嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまった。それを見て、卯月は少し呆れたような表情を見せる。そして僕らはそれから少しだけ会話を交わしたところで、教室へ戻って行くのだった。
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