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3章
僕の呟きに対する彼女の回答と、彼女からの急な提案
しおりを挟む「えっ?」
「あっ!?」
隣に座る如月さんが目を丸くさせて驚いた表情を見せる。どうやら、僕の呟きを聞いていたらしい。僕はハッと我に返って慌てる。そして自分が言ってしまったことを自覚して、一気に顔が熱くなった。
「あ、あの、えっと……これは、その……!」
僕は必死に言い訳を考えるが、頭が混乱しているせいで上手く言葉が出てこない。すると、如月さんは少し考える素振りを見せた後、僕に問い掛けてきた。
「……それって、どういう意味?」
「へっ!? ど、どういうって……」
「蓮くんは、私と同じ大学に行きたいの……?」
「そ、それは、その……」
「何で?」
如月さんに問い詰められて、僕は言葉に詰まってしまう。頭の中では様々な考えがぐるぐると渦巻いているが、どれから話せば良いのか分からなかった。
「べ、別に、深い意味は無くて……ただ、如月さんと一緒のところに行ければ、えっと、その……」
「……」
僕が続きを口に出来ないでいると、如月さんはジッとこちらを見つめたまま微動だにしない。そんな彼女の視線に耐えかねて、僕は何となく思いついた言葉を口にする。
「ほ、ほら、鳥よけ! 如月さんみたいな綺麗な人はきっと、大学に行っても色々な人から告白をされるだろうから、引き続き彼氏役は必要なんじゃないかなって!」
咄嗟に出た言葉だったが、我ながら悪くない言い訳だと思った。多分だけど、如月さんは大学に進学すればまた、周りから注目を集めるだろう。それこそ、今の比ではないくらいに。
そうなれば、必然的に如月さんに告白をしてくる輩が出てくるに違いない。だからこそ進学をするなら尚更、これまで以上に鳥よけ―――彼氏役という存在は必要になると思うから。なので、僕は彼女に向けてそう言ったのだった。
「……」
それを聞いた如月さんは無言のままだった。そして相変わらずの無表情。僕からは彼女が何を考えているかは全く読み取れない。
何とも言えない沈黙が流れる中、僕は内心焦りを感じていた。もしかしたら怒らせてしまったかもしれないと思ったからだ。何せ思い返してみれば、今のは完全に出過ぎた言葉だったから。
あくまで僕が如月さんの彼氏役になれているのは、彼女が僕を指名したから。つまり、彼女が発注者であり、僕はその元請けみたいなものだ。だから本来であれば、そんな立場にある人間が上に意見だなんておこがましいにも程があるというものだ。
ど、どうしよう……。恐る恐る隣を見る。そこには変わらず無表情のままこちらをじっと見つめている如月さんの姿があった。僕はゴクリと唾を飲む。
そしてやがて、彼女はゆっくりと口を開いた。
「……蓮くんは、私が大学に行っても、彼氏役を引き受けてくれるの?」
「へ? あっ、うん……如月さんが望むなら、僕はその……引き受けるつもりだけど……」
「じゃあ、私が大学を卒業したら?」
「えっ?」
「私が大学を卒業して、就職することになったら、その時も蓮くんは私の彼氏役としているつもりなの?」
「そ、それは……」
僕は言い淀んでしまう。正直、そこまで考えていなかったからだ。
「……そんな安易な考えで、進路とか将来のことを考えない方がいい」
「うっ……」
如月さんはそう言うと、視線を僕から外してしまった。明らかに不機嫌になったことが分かる反応だった。
や、やっぱり、ちょっと出しゃばり過ぎちゃったかな……? 今更ながら後悔の念に苛まれるが、時既に遅しだ。一度口から出た言葉は取り消すことは出来ない。僕は冷や汗を流しつつ、彼女の次の言葉を待った。
しばらくの間、気まずい空気が流れた後、不意に如月さんがポツリと呟いた。
「……けど、好きにすればいい」
「え?」
「だから、好きにすればいいって言った」
如月さんは顔を背けたまま、ぶっきらぼうにそう言い放つ。僕は一瞬、彼女が何を言っているのか理解出来なかった。
「蓮くんがどこの大学に進学しようと、それは蓮くんの自由だし、私に止める権利はない。だから、私は何も言わないし、文句も言わない。勝手にすればいい」
「き、如月さん……?」
「……だけど、今の成績のままじゃ、合格するのはかなり難しいと思うけど」
そう言って、如月さんは僕の方を見る。その目はまるで僕のことを責め立てているようだった。
「うぐっ……!」
その言葉に、僕は何も言えなくなってしまう。実際、その通りだったからだ。
「だから、蓮くんはもう少し勉強を頑張った方がいい」
「はい……」
僕は素直に返事をするしかなかった。情けない話ではあるが、今の僕には反論するだけの気力は無かったのだ。
そんな僕を見て、如月さんは再び本を読み始める。その表情は相変わらず無表情だったが、少なくとも怒っているようには見えなかったので、その点だけは安心したのだった。
「……ねぇ」
すると、突然如月さんから声を掛けられた。僕はビクッと肩を震わせて反応する。
「な、何?」
反射的に聞き返すと、彼女はチラッとこちらを見て言った。
「どうすれば、蓮くんは勉強を頑張れる?」
「えっ?」
僕は目を丸くする。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったからだ。
「どうしたらって……言われても」
僕は困ってしまう。いきなりそんなことを聞かれても、すぐに答えられるわけがないからだ。
「……ありきたりだけど、何かご褒美があったりとか、そういうのがあれば、かな……?」
悩んだ末に、取り敢えず思いついたことを言ってみることにする。言うなれば、僕は駄馬みたいなものだ。餌を用意したり、鞭で叩かないと走らないような奴なのだ。だから、まずはそういったものを用意しないと始まらないと思ったのだ。
しかし、それを聞いて如月さんは怪訝そうな顔をする。
「ご褒美?」
「あ、いや、別に本当に欲しいわけじゃないんだけど……何て言うか、やる気を出すためには、そういう物も必要なのかなって思っただけで……」
慌てて取り繕うように言うと、如月さんは顎に手を当てて考え込む仕草を見せた。そして数秒ほど経った後で口を開く。
「分かった。それなら……」
「えっ?」
「……今度のテスト、良い点を取れたら、蓮くんのお願いを一つだけ聞いてあげる」
「ええっ!?」
突然の申し出に、僕は驚きの声を上げてしまう。だって、まさかこんな展開になるなんて思いもしなかったから。
「ちょ、ちょっと待ってよ! い、いいの? そんなこと言って……」
思わず聞き返してしまう。いくら何でも、それは流石にまずいのではないだろうか? 如月さんは一体何を考えているんだ? すると、彼女はこくりと頷いた。
「……うん。いいよ」
「ほ、本当に……?」
「……いらないなら、別にいいけど」
如月さんはそっぽを向くと、再び読書に戻ってしまった。それを見て、僕はハッと我に返る。こ、これはチャンスじゃないか!?
ここで断ったら、間違いなくこの話は流れるだろう。せっかく向こうから提案してくれたのだから、ここはありがたく頂戴しておくべきだと思った。
「い、いります! やります! 頑張らせてください!」
僕は即座に答えると、深々と頭を下げた。それを見た如月さんは、小さく溜め息を吐くとこう言った。
「……じゃあ、頑張って」
それだけ言うと、再び読書に戻る彼女であった。こうなったらもうやるしかないと思った僕は、覚悟を決めることにした。絶対に良い点を取ってやると心に誓うのだった。
こうして、僕の負けられない戦いがここに始まったのであった―――。
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