如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)

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2章

誰かに何を言われようとも、僕の答えは決まっている

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 それから僕と如月さんは何とか僕らの帰りを待っていた弥生さん、そしていつの間にか戻っていた卯月と合流を果たすと、自由時間後に集合場所と指定されていた場所へ赴き、その場にいた釜谷先生へ事情を説明して如月さんの怪我の治療をしたのだった。

 とは言っても、如月さんの怪我は擦り傷だけだったので、適切に消毒を行ってガーゼを貼っておくだけで済んだのだが。けど、僕らはそれ以降は特に移動も行動もすることも無く、他のクラスのみんなの帰りを待ちながら時間を過ごした。

 そして時間はあっという間に過ぎていき、僕らは今、帰りのバスの中にいる。ほとんどの生徒が疲れているのか、行きのような盛り上がりは鳴りを潜めていて、静かに寝息を響かせていた。

 そうした中で、僕はみんなのように寝入ることも無く、窓の外の景色を眺めつつ、今日一日の出来事を思い返していた。特に思い起こされるのは、もちろん如月さん関連の出来事ばかりだった。

 昼の調理実習やその後の自由行動での散策、そして怪我をした彼女をおんぶしながら歩いた道中のこと。普段の学校生活では見られない彼女の一面を垣間見れたような気がして、とても楽しかった。

 そんなことを思いつつ、僕は如月さんが座っている座席の方へ視線を向けた。彼女もどうやら寝てはいなくて、外の景色を黙ってジッと眺めていたようだった。そんな彼女の横では背もたれに寄り掛かってぐっすりと眠っている弥生さんの姿も見えた。

 そうした如月さんの横顔を見ていると、何故だか妙に胸が高鳴ってしまう。如月さんを見ているだけで、あの時のことをどうしても思い出してしまう。彼女を背負った時に触れた肌の感触、彼女の吐息や温もり、鼓動の音までもが鮮明に蘇ってくるようで、顔が熱くなっていくのを感じた。

 ……ああ、駄目だ。また、ドキドキしてきた。本当にどうしようもないな、僕は。そう思いながらも、視線を逸らすことが出来ないまま、ただじっと彼女の顔を見つめていた。

 すると、不意に誰かが僕の頭を軽く小突いてきた。突然のことに驚いて顔を向けると、僕の隣に座る卯月が呆れたような顔で僕のことを見ていた。

「見過ぎだ、馬鹿。そんなことしてたら、気付かれるぞ」

 小声でそう言われて、僕は慌てて視線を外した。幸いにも、如月さんは気付いた様子はなく、変わらず外を眺めていたようだ。それを見て、僕はホッと胸を撫で下ろす。

「ご、ごめん……」

「……何で謝ってんだよ」

 呆れたように溜息を吐く卯月に、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまった。確かに言われてみればその通りだと思ったからだ。

「あはは……そうだね。うん、気を付けるよ」

 僕はそう言うと、もう一度だけ如月さんの方を見た。相変わらず、彼女はずっと窓の外を眺めているみたいだった。それだけ確認をすると、僕は視線を戻して前を向いた。

 そうして、しばらくの間、僕も卯月も無言の時間が続いた。しかし、唐突に卯月が口を開く。

「……なあ、立花」

「ん? どうしたの?」

「……ありがとよ」

「えっ?」

 突然お礼を言われて、僕は戸惑いの声を上げてしまう。一体何に対するお礼なのだろうか。思い当たる節が全く無くて困惑していると、卯月が続けて口を開いた。

「さっきのことだよ。あいつ……如月の面倒をみてくれただろ?」

「え、あ、えっと……その、あれは僕が勝手にやったことだし、別に礼を言われるようなことじゃ……」

「だとしても、あいつを連れ戻してきてくれたことには変わりねえだろ」

「そ、それはそうだけどさ……」

「だったら、礼ぐらい素直に受け取れっての」

 そう言って、卯月が僕の肩を軽く叩いてくる。僕はそれに対して、苦笑を浮かべながらも頷いた。

「う、うん……分かったよ。どういたしまして」

「おう、それでいいんだ」

 満足気に頷いている卯月を見て、僕は内心で苦笑するしかなかった。正直、こういうやり取りはあまり得意ではないというか、慣れていないのでどうにも気恥ずかしさを感じずにはいられなかったのだ。

「……立花。あともう一つだけ、お前に言っておくことがある」

 そんなことを僕が考えていると、卯月がまた口を開いた。

「うん、何かな……?」

 その言葉に僕は首を傾げて聞き返す。すると、卯月は少し間を空けてから答えた。

「……お前は絶対に、あいつから目を離すんじゃねえぞ」

「えっ……?」

 予想外の言葉に、僕は一瞬固まってしまう。一体どういう意味なのか、理解が追い付かなかったからだ。しかし、すぐに我に返ると、僕は聞き返した。

「その……それって、どういう……」

「言葉の通りの意味だよ。後悔したくなかったら、絶対に目を離すなって話だ」

 戸惑う僕に、卯月はすぐにそう返してきた。その言葉からは強い意志のようなものを感じることが出来た。まるで、何があっても目を背けるなと言われているような感じがした。

 だからだろうか、自然と背筋が伸びていくような感覚を覚えた。それと同時に、卯月の言葉に対して頷くことしか出来なかった。

 そんな僕の様子を横目で見ていた卯月だったが、やがてフッと小さく笑ったかと思うと、そのまま目を閉じてしまった。まるで話は終わりだと言っているように思えた。

 けど、僕はそんな彼に聞いておきたかったことがあった。今までずっと気になっていたことを、目を閉じてしまった彼に問い掛けたのだ。

「ねえ、卯月」

 僕が声を掛けると、彼はゆっくりと目を開けた。そして、眠そうな目でこちらを向くと、小さく首を傾げるようにして僕の方を見遣った。

「何だ?」

 短くそう聞いてくる卯月に、僕は少し躊躇しながらも質問を口にした。

「あのさ……卯月は、如月さんとはどういう関係なの?」

 それを聞いた瞬間、卯月の表情が僅かに変わったような気がした。気のせいかもしれないが、何となくそんな気がした。卯月はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「……ただの腐れ縁だよ。昔からの知り合いってだけだ」

 卯月はぶっきらぼうにそう言うと、それっきり黙り込んでしまった。これ以上は何も言うつもりはないということだろうか。

 僕はそれ以上聞くことが出来なかったので、諦めて口を噤んで窓の外を見ることにした。そこから見える景色は、少しずつオレンジ色が混ざりつつあって、夜の訪れが近いことを告げているようだった。

 そうした光景を眺めつつ、僕は考える。卯月の言った言葉を何度も思い返しては反芻していた。

 目を離さずに、如月さんのことをしっかり見ていろ、か……。それが何を意味しているのか、僕には分からない。ただ、彼女が抱える事情というものには、きっと深い闇があるのだろうということは、如月さんと卯月の会話を聞いていたからこそ理解出来た。

 それを知り得ない限り、僕は彼女に寄り添うことは出来ないのかもしれない。そう思うと、胸の奥が締め付けられるような感覚がした。

 ……だが、同時に思うこともある。如月さんがどんな事情を抱えていたとしても、僕は彼女の味方であり続けるだろう。卯月からそう言われなくたって、最初からそのつもりだったのだから。

 例え、この先にどんなことが起きようとも、僕は彼女を見放したりなんてしない。それだけは、はっきりと言えることだった。そう思いながら、僕はまた如月さんの方を見る。彼女は相変わらず、外の景色をぼんやりと眺めていた。そんな彼女の姿を見ていると、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。

 それからしばらく経った後、僕らを乗せたバスは学校に辿り着く。そして校門の前で軽くホームルームを済ませた後、僕らは解散することになった。

 如月さんは解散となるなり、さっさといなくなってしまったので、最後に声を掛けることは出来なかった。けど、いいんだ。例えここで話せなくたって、また明日になれば話す機会はあるだろうから。

 そうして僕は明日のことを思いながら、自分の家に向かって歩き始めたのだった。

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