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2章
全員が無言でいる中で、最初に話し掛けるという行動はとても勇気がいる件
しおりを挟む職員室を出てから少しして、僕たち三人は特に会話も相談もすることなく昇降口に辿り着いた。
そして昇降口にて靴に履き替えると、そのまま校門に向かって歩いていくことになった。
しかし、それでも誰も言葉を発しようとしなかった。僕らは黙々と横並びになって歩き続けるだけであった。
ど、どうしよう……。ちょっと……いや、かなり気まずいかも……。普段ならこういった場合において、真っ先に口を開きそうな弥生さんですら、一言も喋ろうとしないし……。
卯月も鞄を肩に担いだまま、空を見上げているし……何か話題を振ってみようか……?
いや、でも何を話せば良いんだ? こういう時、どうすればいいかなんて僕には分からない。
色々と頭の中で考え尽くした結果、僕は校門の前に差し掛かろうとしたタイミングで足を止めた。
「……あん?」
「あれ? どしたん?」
僕の行動に気付いたのか、卯月と弥生さんが足を止めて僕の方を見てくる。僕は二人に見つめられて緊張しながらも、何とか言葉を絞り出した。
「あ、あの……」
「何だよ?」
「……?」
「えっと……何か、その……す、すみませんでした!」
何とか言葉を振り絞った僕は、そのままの勢いで頭を下げる。腰から九十度綺麗に折り曲げ、渾身の謝罪を二人にしてみせたのだ。
「はぁ……?」
「え、えぇ……?」
そんな僕を前に、二人の呆気に取られたような声が聞こえてきた。それも当然だろう。唐突にいきなり謝られたのだから。
「おい、何でお前が謝るんだよ」
「そうだよ! あーしたち、何もされてないよ?」
卯月と弥生さんは口々にそう言うが、それでも僕は頭を下げたままでいる。
すると、卯月が呆れたように溜め息を吐いた後で、再び声を掛けてきた。
「いいから頭を上げろって。他の奴らに見られたら誤解されるだろうが」
卯月にそう言われて、僕はようやく顔を上げることが出来た。そして顔を上げると、そこには困ったような表情を浮かべた卯月と、不思議そうな表情をした弥生さんの姿があった。
「ったく、本当に変なやつだな、お前は。つかよ、何に対して謝ってるんだよ?」
「それは……その……」
卯月に言われて、僕は思わず口籠ってしまう。だが、このまま黙っていても何も進展しないと思った僕は、意を決して口を開くことにした。
「えっと……二人に何か話し掛けようと思ったんだけど……」
「おう。それで?」
「何も思いつかなくて……ごめんなさい」
卯月の問いに、僕は正直に答えた。それを聞いた二人は唖然としていたが、やがて弥生さんが噴き出したように笑い始めた。
「ぷっ……あはははっ! 何それー! めっちゃウケるんですけどー!」
腹を抱えて笑う弥生さんに釣られて、僕も少しだけ笑ってしまう。そんな僕を見た卯月もまた、呆れたような表情をしていたものの、口元を緩めていた。
「お前さ、マジで馬鹿だよな」
「え、あ、そ、そうかな?」
「そうだよ。普通はよ、そんなことで謝ったりするか?」
「だ、だって……」
卯月の言葉に、僕はどう答えて良いのか分からず戸惑ってしまう。そんな中、弥生さんは未だにお腹を抱えながら笑っていた。
「ひーっ、おっかしい……! あははっ……!」
「そ、そんなに笑わなくても……」
僕が恥ずかしそうにしていると、弥生さんは漸く落ち着いたようで目尻に浮かんだ涙を拭いながら顔を上げた。
「ごめんごめん、あんまりにもおかしくってさ」
そう言うと、彼女はまたクスクスと小さく笑った後、改めて僕の顔を見つめてきた。
「けど、ありがとね」
「えっ?」
「だって、立花くんなりに気を遣ってくれたんだよね? あーしらのことを考えて、何か話そうとしてくれたんでしょ?」
「は、はい……」
「だったら、ありがとうだよ。あーしらの為に、わざわざ苦手なことしてくれたんだからさ」
「い、いえ、そんなことは……」
弥生さんの真っ直ぐな言葉に、僕は恥ずかしくなってしまい、思わず俯いてしまった。
「ふふっ、照れてるねー」
からかうような口調の弥生さんの言葉を聞き、僕はますます恥ずかしくなった。そんな僕らのやり取りを見ていた卯月はやれやれといった様子で肩を竦めてみせると、僕の方を横目で見てきた。
「ま、そういうことらしいぜ。だから、もう気にすんな」
「う、うん……」
卯月の言葉に僕は小さく頷く。それを見た彼はニッと笑みを浮かべる。
「それによ。会話ってのはそこまで気負ってするもんでもねえだろ。無理に話題を探さなくてもいいし、変に気を遣わなくていいんだぜ」
「そうそう。もっと気軽にいこうよー」
卯月の言葉に弥生さんも同調するように言ってくる。そんな彼女の言葉を受けて、僕は少し肩の力を抜くことができたような気がした。
「そう、だね。ごめん、二人とも」
「だから、別に謝るようなことじゃねえだろ」
卯月はそう言って、僕の胸を軽く小突いてきた。それに対し、僕は笑顔を浮かべて頷いてみせた。
「まぁ……なんだ。これも何かの縁ってやつだ。同じ班になった以上は、よろしく頼むぜ」
「そうだね。あーしもよろしくね、立花くん」
「う、うん。こちらこそ、よろしく」
二人の言葉に僕は慌てて頭を下げると、精一杯の気持ちを込めて挨拶を返した。
「さてと、そろそろ帰るとするか」
卯月が腕時計を見ながら言う。時刻は午後六時を回ろうとしていた。辺りはすっかり暗くなりつつあり、街灯の明かりが道を照らし始めていた。
「そうだねー。早く帰らないともっと暗くなりそうだから、帰ろっかー」
弥生さんの言葉を聞いて、僕らは揃って歩き出す。校門を出て、そのまま真っ直ぐに進もうとして―――急に卯月が足を止めた。
「そういやよ……立花。一つ、聞いてもいいか?」
「ん? どうしたの?」
卯月が不意に立ち止まって僕に声を掛けてきたので、僕は首を傾げて彼の顔を見る。すると、卯月は少し言いづらそうにしながら口を開いた。
「いや……なんつーか。お前、放課後になってから、如月と一度でも顔を合わせたか?」
「……へ?」
卯月からの質問に、僕は思わず間の抜けた声を上げてしまった。何故そんなことを聞いてくるのだろう……?
「えっと……如月さんとは放課後になってからは会ってないし、今日は一緒にいると迷惑になっちゃいそうだったから、会う約束もしてないけど……」
僕は素直に答えると、卯月は小さく溜め息を漏らした。そして、少し考える素振りを見せた後、もう一度僕の方を見て言った。
「そうか……ならいい。変なこと聞いて悪かったな」
それだけ言うと、卯月は振り返って校舎の方に戻り始めた。そんな彼の様子を見て、弥生さんは不思議そうに首を傾げてから声を掛けた。
「あれ? 卯月くん、どこにいくの?」
「ああ、ちょっと忘れ物を思い出したんでな。悪いが、先に帰っててくれ」
「ふーん……分かった! それじゃ、また明日ね!」
弥生さんは笑顔で手を振って、校舎に戻っていく卯月を見送った。そして、その場に残された僕と弥生さんは顔を見合わせてから歩き出したのだった。
卯月のことは気になったけど、忘れ物なら特に気にすることも無いだろうと思い、僕はそれ以上考えることを止めた。
それから僕は途中で弥生さんと別れた後、自宅に向かって黙々と歩いていくのだった。
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