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3:妖刀さんは日用品を希望の様です
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「包丁?」
「うむ、できれば三徳包丁や子供向けの練習用としても含めたセットになりたい」
「はあ……まあ、妖刀よりは実用的ね」
テーブルに置かれたチーズケーキを切り分けながらカナタは相槌を打った。
そもそもこの妖刀、伸縮自在なので今もカナタの手の中でデザートナイフくらいの大きさになってお手伝い中である。
「このままでもできんじゃね? と思ったが……見ると良い」
「……なんで陶磁器がバターの様に綺麗に斬れるのか、意味が解らない」
「じゃろ? このままだとまな板まで両断してしまうし、加減が難しすぎて辻斬り発生装置みたいになる」
ケーキを六等分するとお皿まで六等分になるのは困った。
しかも紙皿なんて使ったらテーブルが切り分けられそう……カナタの口元がひくひくと半笑いの様にゆがむ。
「そもそもなんで刀が包丁になりたいのよ」
「……そこなのだが。吾輩……なぜ妖刀なのじゃ?」
「???」
「すまない、言葉が足りんな……妖刀になった理由がわからんし包丁になりたい、これも漠然とした儂の願いでしかないのだ」
「……もしかして」
言葉を尽くそうという思いだけは伝わり、カナタは推論を述べた。
「銘が削れているから……記憶とかその辺が欠けてるのかも。人は斬ってないんでしょ?」
「それは間違いない。ヒグマやイノシシの血抜きに神主が吾輩を使ったことがある位だ」
「……まあ、そう言う事なら確かに包丁でもいいか。さすがに人斬りの刀を包丁にしたら呪われそうな気がするし」
「それはそうじゃな。それに……カナタは吾輩を持って人を斬りたいと思うか?」
「全然、切れ味良すぎて刃をどれくらい潰そうかとか普通に考えてる」
妖刀とは名ばかりの切れ味の良すぎる名刀、と言った感想しか出てこない。
こうして縮んだり言葉が交わせる状況でなければ……美しい直刀。
それで終わる。
「毎年一人の研ぎ師が吾輩を手入れしてくれていたのだが、どうやら亡くなったようでな……そ奴も声は聞こえていたようだ。はっきりとは聞こえてなくてもな、感謝だけは欠かさなかったからいろいろ身の上話を聞いたものよ」
「そっか、だから鍛冶師なら聞こえるって言ったのね」
「そう言う事じゃな。カナタはまだ若い……見習いかとも思うのじゃが……この手は一人前じゃな」
「新米だけど刀鍛冶師だよ。今は全国各地の刀を見て回りながら工房の場所探し」
その一端でまずは地元の手稲山から、と始めたのだが……初手で変な怪事件に出会った。
「そうか……ちなみに儂を打ち直すことはできるか?」
「無理、しっかりとした工房でやらないといけないし……刀を鋳つぶして打ち直すのにもあんたの鋼と玉鋼を分けてまた織り込みしないと難しい。師匠にやり方聞かないと」
「なるほど……」
「急ぐの?」
「いや? 焦ってはおらぬ……朽ちる前にそうなれればいい位の希望だ」
妖刀の言う通り、その声音には焦る様子も無ければ諦めもない。
カナタからは自由気ままな現状に適応しているように見えた。
「じゃあ、僕の旅についてくる? どこかで師匠に会えるよ」
「…………良いのか?」
「ただし、アクセサリー扱いは容認してよ。昔と違ってそのままの大きさで所持して歩いたら捕まっちゃうし」
「わかった、どれくらいまで縮めるか試す。ケーキに刺してくれんか?」
「ほいほい」
ぷすっと六等分にされたチーズケーキの一つに妖刀が刺さる。
「どれどれ……」
しゅるるとそのまま小さくなる妖刀だが、4cmほどの大きさ……つまようじよりは太い程度で止まった。
「限界?」
「そうだな……これ以上は無理だな。これでどうだ?」
「その大きさであんた自身は無理がない?」
「少し窮屈な位だが……それほど負担は無い。一日程度ならこのままでも」
「じゃあ、表を移動中はその大きさで頼むわね。部屋とか誰もいなければ一番楽な大きさになってていいから……ついでに、大きくなるのはどれくらいできるの?」
じゃあなって、なんて言ったらとんでもない長さとかになられても困る。
そんなカナタの疑問に妖刀は暫く悩んだ後……
「そうだな……せいぜい2メートル? 位じゃないかと思う」
実際になってみないと解らないが、と付け加えた。
「……わかった、後これ重要。あんた目はどこ?」
「……自分ではわからぬ。物の中とか布でぐるぐる巻きにされれば周りが見えん」
「……隙間があれば?」
「チラ見できる」
心の中で着替えの際はケースに閉じ込めるかクローゼットに押し込むかの二択になったカナタさん、微妙なお年頃である。
「……ヤバそうな場所に突っ込んで偵察してもらうのはアリね」
「ま、まあ……可能じゃろうな」
どういう状況かは聞かない方が良いんだろうな、と達観する妖刀。
「最後に」
言葉のトーンを落としてカナタが妖刀に問う。
「うむ」
雰囲気が変わったのを感じて妖刀も厳かに答えた。
「人を斬りたくなる事はある?」
「無い、今までも、これからも……」
それはカナタにとって最も厳守されるべきである確認。
それは妖刀にとって信念を示す回答。
しばらく、部屋の中は静寂に包まれる。
やがて……
「わかった、包丁に打ち直し……引き受けるわ」
「本当か!?」
「ただ、僕の師匠に会ってあんたの事を見てもらってからね。僕もまだ駆け出しで……打ち直しは自信が無いんだ……時間がかかるよ?」
「かまわん、吾輩多分何世紀か過ごしている」
ふわりと表情を緩めたカナタはとろんとした眼差しで妖刀を見つめた。
ツンツンと指でつつく。
「じゃあ、よろしく……ソード」
「うむ……って結局それか!? 安直だと吾輩言ったよな!?」
「ヨビヤスイ、ハンドルネーム、ダイジ!」
「なんだその片言は!! 似非外国人!!」
「やかましい! 謎理屈の塊!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人の口論は隣の宿泊客の壁パンが炸裂するまで続いた。
やがて日本で一番の刀鍛冶と呼ばれる少女と世界一の包丁と称賛される『ソード』の出会いである。
「うむ、できれば三徳包丁や子供向けの練習用としても含めたセットになりたい」
「はあ……まあ、妖刀よりは実用的ね」
テーブルに置かれたチーズケーキを切り分けながらカナタは相槌を打った。
そもそもこの妖刀、伸縮自在なので今もカナタの手の中でデザートナイフくらいの大きさになってお手伝い中である。
「このままでもできんじゃね? と思ったが……見ると良い」
「……なんで陶磁器がバターの様に綺麗に斬れるのか、意味が解らない」
「じゃろ? このままだとまな板まで両断してしまうし、加減が難しすぎて辻斬り発生装置みたいになる」
ケーキを六等分するとお皿まで六等分になるのは困った。
しかも紙皿なんて使ったらテーブルが切り分けられそう……カナタの口元がひくひくと半笑いの様にゆがむ。
「そもそもなんで刀が包丁になりたいのよ」
「……そこなのだが。吾輩……なぜ妖刀なのじゃ?」
「???」
「すまない、言葉が足りんな……妖刀になった理由がわからんし包丁になりたい、これも漠然とした儂の願いでしかないのだ」
「……もしかして」
言葉を尽くそうという思いだけは伝わり、カナタは推論を述べた。
「銘が削れているから……記憶とかその辺が欠けてるのかも。人は斬ってないんでしょ?」
「それは間違いない。ヒグマやイノシシの血抜きに神主が吾輩を使ったことがある位だ」
「……まあ、そう言う事なら確かに包丁でもいいか。さすがに人斬りの刀を包丁にしたら呪われそうな気がするし」
「それはそうじゃな。それに……カナタは吾輩を持って人を斬りたいと思うか?」
「全然、切れ味良すぎて刃をどれくらい潰そうかとか普通に考えてる」
妖刀とは名ばかりの切れ味の良すぎる名刀、と言った感想しか出てこない。
こうして縮んだり言葉が交わせる状況でなければ……美しい直刀。
それで終わる。
「毎年一人の研ぎ師が吾輩を手入れしてくれていたのだが、どうやら亡くなったようでな……そ奴も声は聞こえていたようだ。はっきりとは聞こえてなくてもな、感謝だけは欠かさなかったからいろいろ身の上話を聞いたものよ」
「そっか、だから鍛冶師なら聞こえるって言ったのね」
「そう言う事じゃな。カナタはまだ若い……見習いかとも思うのじゃが……この手は一人前じゃな」
「新米だけど刀鍛冶師だよ。今は全国各地の刀を見て回りながら工房の場所探し」
その一端でまずは地元の手稲山から、と始めたのだが……初手で変な怪事件に出会った。
「そうか……ちなみに儂を打ち直すことはできるか?」
「無理、しっかりとした工房でやらないといけないし……刀を鋳つぶして打ち直すのにもあんたの鋼と玉鋼を分けてまた織り込みしないと難しい。師匠にやり方聞かないと」
「なるほど……」
「急ぐの?」
「いや? 焦ってはおらぬ……朽ちる前にそうなれればいい位の希望だ」
妖刀の言う通り、その声音には焦る様子も無ければ諦めもない。
カナタからは自由気ままな現状に適応しているように見えた。
「じゃあ、僕の旅についてくる? どこかで師匠に会えるよ」
「…………良いのか?」
「ただし、アクセサリー扱いは容認してよ。昔と違ってそのままの大きさで所持して歩いたら捕まっちゃうし」
「わかった、どれくらいまで縮めるか試す。ケーキに刺してくれんか?」
「ほいほい」
ぷすっと六等分にされたチーズケーキの一つに妖刀が刺さる。
「どれどれ……」
しゅるるとそのまま小さくなる妖刀だが、4cmほどの大きさ……つまようじよりは太い程度で止まった。
「限界?」
「そうだな……これ以上は無理だな。これでどうだ?」
「その大きさであんた自身は無理がない?」
「少し窮屈な位だが……それほど負担は無い。一日程度ならこのままでも」
「じゃあ、表を移動中はその大きさで頼むわね。部屋とか誰もいなければ一番楽な大きさになってていいから……ついでに、大きくなるのはどれくらいできるの?」
じゃあなって、なんて言ったらとんでもない長さとかになられても困る。
そんなカナタの疑問に妖刀は暫く悩んだ後……
「そうだな……せいぜい2メートル? 位じゃないかと思う」
実際になってみないと解らないが、と付け加えた。
「……わかった、後これ重要。あんた目はどこ?」
「……自分ではわからぬ。物の中とか布でぐるぐる巻きにされれば周りが見えん」
「……隙間があれば?」
「チラ見できる」
心の中で着替えの際はケースに閉じ込めるかクローゼットに押し込むかの二択になったカナタさん、微妙なお年頃である。
「……ヤバそうな場所に突っ込んで偵察してもらうのはアリね」
「ま、まあ……可能じゃろうな」
どういう状況かは聞かない方が良いんだろうな、と達観する妖刀。
「最後に」
言葉のトーンを落としてカナタが妖刀に問う。
「うむ」
雰囲気が変わったのを感じて妖刀も厳かに答えた。
「人を斬りたくなる事はある?」
「無い、今までも、これからも……」
それはカナタにとって最も厳守されるべきである確認。
それは妖刀にとって信念を示す回答。
しばらく、部屋の中は静寂に包まれる。
やがて……
「わかった、包丁に打ち直し……引き受けるわ」
「本当か!?」
「ただ、僕の師匠に会ってあんたの事を見てもらってからね。僕もまだ駆け出しで……打ち直しは自信が無いんだ……時間がかかるよ?」
「かまわん、吾輩多分何世紀か過ごしている」
ふわりと表情を緩めたカナタはとろんとした眼差しで妖刀を見つめた。
ツンツンと指でつつく。
「じゃあ、よろしく……ソード」
「うむ……って結局それか!? 安直だと吾輩言ったよな!?」
「ヨビヤスイ、ハンドルネーム、ダイジ!」
「なんだその片言は!! 似非外国人!!」
「やかましい! 謎理屈の塊!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人の口論は隣の宿泊客の壁パンが炸裂するまで続いた。
やがて日本で一番の刀鍛冶と呼ばれる少女と世界一の包丁と称賛される『ソード』の出会いである。
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