長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
253 / 255
あふたーあふたー

閑話:洞爺の刀 中編 ~ その刀は呪われている ~

しおりを挟む
「ぎゃああああああああ!!」

 オルトリンデが普段は絶対上げないような絶叫を統括ギルド内に響き渡らせる。
 その声に数名の戦闘畑のギルド員や、航空巡回中の空挺騎士が何事かと集合した。

「今のオルトリンデ監理官の声だよな?」

 二階の臨時執務室の扉の前でベテラン書記官が周りの人員に確認する。
 いずれも長年聴き慣れた上司の声に間違いないと頷く。

「何があった?」

 二階、渡り廊下の窓の外で待機してる飛竜から飛び込んだ騎士も合流した。

「分からないが……あんな悲鳴聞いたことないぞ……慎重に入ろう」
「万が一もあるしな」

 そこは阿吽の呼吸で騎士とベテラン書記官がそれぞれ武器を構える。

「ディーヴァとかの生き残りじゃなきゃいいんだが……」

 全員身構えて、扉の左右に位置をとった。
 ベテラン書記官が周りに目配せをして合図を送る……そっと、ドアノブに手をかけると軽くひねり鍵がかかってないことを確認した。

「やってくれ」

 一番防具が優秀な騎士が突入役となり、肘で叩きつけるように扉をあけ放つ。
 けたたましい打撃音と共に臨時執務室に全員がなだれ込むと……ぺたんとしりもちをついたオルトリンデが天を仰いでいる。

「オルトリンデ監理官! 何があったんですか!?」

 その様子にただ事ではないとベテラン書記官が駆け寄ると、オルトリンデが涙目でその右腕を天井の奥に向けた……。
 そして、その場にいた者は全員……目撃してしまう。

「洞爺……殿?」

 顔を合わせる機会が多い騎士がその姿を見て困惑した声を上げた。

 だって……

 天井の建材に指を突き立てさかさまの状態で四つん這い、なのに首はぐるりと半回転し両目は赤く光っており……その口元には真っ黒な刀身をした刀を加えてフコーッ、フコーッ! と荒い息を吐いているのだ。

「に、逃げてください!! 飲まれました!!」

 あまりにもインパクトの強い洞爺の姿の下に、眼鏡がずれた灰斗が慌てた様子で皆に下がる様にと警告を発している。

「な、何があった!? なんか今までで一番危機を感じる瞬間なんだが!?」
「か……刀に魅入られちゃったみたいです。言葉が通じなくて」
「はあっ!?」

 ――フコーーーーーッ!!!!

 ずだん! と四肢を立てて床に降り立った洞爺はまるで獣の様に……と言うか獣そのまんまに全員を見渡した後……ガラスをぶち破って逃走した。

「逃げたぞ!!」

 砕けたガラスの破片をまき散らし、そのまま洞爺は四足獣のように建物の壁や屋根を疾走して……どこかへ消える。

「い、一体何が?」
「か、灰斗さんが洞爺に刀を見せた時……なんか虚ろな目で『ヒトツウッテハカタキノタメ……』とかなんとかつぶやいたと思ったらいきなり」

 あまりの変わり様にオルトリンデが悲鳴を上げた、そう言う事だったらしい。

「み、皆さん……国内の北って……もしかしてドワーフがいっぱい住んでたりします?」

 眼鏡の位置を直して灰斗が洞爺(闇の波動に目覚めた)の逃げた先を追うと……北に向かっている。
 ぴょんぴょんと明らかに運動能力が上がっている様子だ。

「そりゃあ、職人が多く住んでるからな……なんでだ?」

 ベテラン書記官がなぜ今? と首を傾げる。

「……あの刀、ボルドックさんが呪いを込めて打った妖刀と言うか……魔刀でして」
「え……ぼ、ボルドックが!?」

 その言葉に反応したのはオルトリンデ。
 旧友と言うか死んだと思ってたら30年ぶりに戻ってきた仲間の名をここで聞くのかと素っ頓狂な声が上がってしまった。

「ええ……もしかしたら。危ないかも」

 何がなんてここまで来たら、誰でも推測できる。

「ひ、非常事態! 秘書部がやらかしたぞ!! 誰でもいい!! 騎士の出動要請と他の秘書部を呼んで来い!」

 サァ……と血の気が引いた全員が慌てて非常事態に対応するため蜘蛛の子を散らすように駆け出した。
 すでに風通しの良くなった窓からは悲鳴も流れ込んできていて、一刻の猶予も無い。

「灰斗さん! ボルドックは今どこに!?」
「多分お城かと……僕も追いますね。そんな危ない事にはならないと思うんですが……あの姿では」
「…………なまじ秘書部でトップクラスですからね。一体何がどうすればあんな事に」

 頭を抱えるオルトリンデに灰斗が暴露する。

「なんでも不死族になって里帰りしたら奥さんが新しい旦那さんとイチャイチャしてる場面に出くわして、挙句に幼馴染が自分の嫌いな職人と子供を授かってる上に……」
「……実は娘に嫌われていた。じゃないですか?」
「当たりです、良く分かりましたね」
「葬儀の時、いろいろあって……」

 遠い目をしてその時の事を回顧するオルトリンデの眼がしらにちょびっとだけ涙が溜まっていった。
 しかし、それはそれ、これはこれである。

「まあ、そんなこんなであの刀ができてしまったので……お強いですよね? 洞爺さん」
「よりにもよって近接戦だったら一、二を争います。世界単位で」
「……この間の魔物大発生より、ピンチですねぇ」
「やよいぃぃ!! ふみかぁぁ!! しんじぃぃ!! もどってきてくださぁぁぁぁい!」

 ウェイランドのとんでもない最終攻防戦が……今始まった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...