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最終決戦 ⑨ 英雄VS秘書官
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「舐められたもんだね……」
怒りに打ち震えながらアークは地面に刺されている己の本体、聖剣を手に取る。
周りはただっぴろい草原、すっかりディーヴァも大型兵器も駆逐され騎士団は撤収を始めていた。
そんな中、氷漬けから解放されたアークへ伝えられた内容は彼の尊厳をずたずたに引き裂かんばかりに屈辱的な交渉。
「よいしょ、これで良いのかな?」
弥生がキズナから銃と刀を受け取る。
もうボロボロで、小太刀は刃こぼれもひどい。
銃に至っては照準が狂っており至近距離で撃たないとまともに当てられないほどだ。
何とか鞘を腰に差し、弾丸の残りを確認。
「おい、マジで大丈夫なのか?」
せめて新品を持っていけ、とキズナの口が酸っぱくなるほど提案したが弥生は首を縦に振らなかった。
「うん、全く問題ないよ! 一撃ぶっ飛ばしてくるから!!」
「問題しかねぇんだが!?」
ふんす、と腕を曲げて力こぶを作ろうとする弥生だが……ぷにぷにであろう二の腕に力強さはどう探しても出てこなかった。
〇ォーリーを探すより大変だった。
「で、僕は弥生を殺せば自由にしていい。弥生に僕が戦闘不能にされた瞬間に僕は一切の抵抗をやめる。本当にこの条件で良いんだね?」
憮然とした表情でアークは弥生に確認する。
「はい、私を殺せればアークさんが世界を滅ぼそうが何しようが構いません。私が勝ったら大人しく従ってもらいますね」
「お前らはそれでいいのか?」
あまりにも自分に有利な条件で疑心暗鬼になるアークが周りで超不満げな秘書部にも確認した。
「しかたあるまい。嬢ちゃんが決めたのじゃ……」
「僕は従いたくないけどね……」
代表で洞爺とエキドナが肯定する。
どうやらその条件で間違いないらしい……アークが溜息をつきながら弥生を見据えた。
正直、一瞬で決着はつく。
殺さないで弄ぶつもりだったが……この条件では弥生を殺すしかなく、玩具が減るのはあんまり気分が乗らないアークだった。
「皆! 見ててね!!」
なんでそんなに強気なのか全員が困り果てる。
「無理だと思うよ姉ちゃん……」
「おねーちゃん、文香より足が遅いんだよ? 転ぶ前にごめんなさいしよう?」
ちなみに真司と文香は超説得した。
それこそ文香はウソ泣きまでして姉のわがままを止めようとしたのだが……結果は見てのとおりである。
「何が起こるかわからんしのう……不安じゃ」
洞爺まで貧乏ゆすりをして落ち着かない様子。
誰もが無茶だと思っている中、一人だけ……と言うか一匹だけのほほんと器用に紅茶をすすりながら弥生の支持をする者がいた。
「問題あるまい」
なぜか自信満々な蜘蛛、ジェノサイドだけは弥生の申し出に唯一頑張れ主! と送り出している。
何なら一番弥生の運動音痴を知っているといっても過言ではないはずなのに。
「じゃあ、始めましょうか!」
「はあ……分かった。おい、誰か合図しろよ」
こんな茶番に付き合うのは極力短くしたかったアークが聖剣を構える。
間宮零士がよりにもよってパンデモニウムの動力源として使っていた。
そのせいで魔力が枯渇していてただの剣としてしか使えないが……十分すぎる。
「親父、空に一発頼むぜ」
「おう……ちょっと待ってろ」
焔が護身用の回転式弾倉の拳銃を取り出して、空に向けて引き金を引いた。
――パンッ!
軽い銃声と硝煙の香りがあたりに漂った瞬間、弥生が動く。
「は?」
間抜けな声はキズナだった、なんだかんだ言っても……万が一にでも弥生が死なない様に一切油断せず介入の準備をしていた。
そういう意味ではここにいる全員が臨戦態勢だったのだが……当の本人が消える。
代わりに聞こえてきたのは激しい金属の激突音。
「ぐっ!!」
たまたまだった。
無造作に振り下ろすつもりでアークは剣を振り上げようとしたら……そこに横薙ぎの一閃が飛び込んできたから止められただけだ。
「あれ? 止められちゃった」
キョトンとする弥生の表情を見る限り、何か小細工や替え玉と言った雰囲気は感じられない。
「弥生様!?」
この中でも指折りの身体能力の持ち主であるカタリナですらとらえきれなかった。
気が付いたら弥生とアークが切り結んでいる。
その証拠にふわりと弥生の動いた分、風がそよぎ……皆のぽかんとした顔の鼻先をくすぐった。
「どうなってる!?」
一番驚いているのはアーク本人である。
今まで一度たりとも戦場に足を運んできたことのない生粋の文官、こざかしい策ばかりを多用する小娘がぎちぎちと自分の膂力に拮抗してくるのだ。
「まず一発、殴りますね」
にっこりとほほ笑む弥生が左手を刀から話してゆっくりと振りかぶる。
反射的にアークが刀を押し返そうとするが、愚策だった。
ひゅっ! と風を切る音が全員の耳に届くと同時に凄まじい爆音が響く。
「えい」
そこから遅れて弥生の可愛らしい掛け声が響くのだ……そこには技術も何もない。
ただただ見様見真似で殴る弥生の一撃がアークの右頬を抉り抜く。
――ずざざっ
「あ、ああ……」
からん、と剣を取り落したアークが数メートル吹っ飛んだ。
その頬はくっきりと弥生の拳の跡が残る。
「いったぁ!! 骨折れてないよね!?」
ふうふうと拳に息を吹きかける弥生。
「おい、姉貴……俺の頬、つねってくれ」
「安心して良いよ……僕のメモリー、正常だから」
何が起きているのか誰もわからなかった。
実際の所起きている現象は分かりやすい。
「嬢ちゃんが……斬って、殴った……」
洞爺の言ったことがそのまま事実だった。
「あの嬢ちゃん……キズナより早えんじゃねえのか?」
「うちも不意打ちやったら反応でけへんね」
秘書部でも最速の速さを持つキズナですら、洞爺より一歩速い。
そのレベルなのだが……弥生の速度はそれすらも凌駕している。
「じゃあ、次はキズナとエキドナさんの分。返しますね?」
屈託のない弥生の表情に、アークはある物を見つける。
「ひっ!!」
仄暗いとか漆黒なんて比較にならないほど……
「これ以上、私の友達を傷つけるなぁぁ!!」
純粋な闇を宿した怒りをアークは初めて知った。
怒りに打ち震えながらアークは地面に刺されている己の本体、聖剣を手に取る。
周りはただっぴろい草原、すっかりディーヴァも大型兵器も駆逐され騎士団は撤収を始めていた。
そんな中、氷漬けから解放されたアークへ伝えられた内容は彼の尊厳をずたずたに引き裂かんばかりに屈辱的な交渉。
「よいしょ、これで良いのかな?」
弥生がキズナから銃と刀を受け取る。
もうボロボロで、小太刀は刃こぼれもひどい。
銃に至っては照準が狂っており至近距離で撃たないとまともに当てられないほどだ。
何とか鞘を腰に差し、弾丸の残りを確認。
「おい、マジで大丈夫なのか?」
せめて新品を持っていけ、とキズナの口が酸っぱくなるほど提案したが弥生は首を縦に振らなかった。
「うん、全く問題ないよ! 一撃ぶっ飛ばしてくるから!!」
「問題しかねぇんだが!?」
ふんす、と腕を曲げて力こぶを作ろうとする弥生だが……ぷにぷにであろう二の腕に力強さはどう探しても出てこなかった。
〇ォーリーを探すより大変だった。
「で、僕は弥生を殺せば自由にしていい。弥生に僕が戦闘不能にされた瞬間に僕は一切の抵抗をやめる。本当にこの条件で良いんだね?」
憮然とした表情でアークは弥生に確認する。
「はい、私を殺せればアークさんが世界を滅ぼそうが何しようが構いません。私が勝ったら大人しく従ってもらいますね」
「お前らはそれでいいのか?」
あまりにも自分に有利な条件で疑心暗鬼になるアークが周りで超不満げな秘書部にも確認した。
「しかたあるまい。嬢ちゃんが決めたのじゃ……」
「僕は従いたくないけどね……」
代表で洞爺とエキドナが肯定する。
どうやらその条件で間違いないらしい……アークが溜息をつきながら弥生を見据えた。
正直、一瞬で決着はつく。
殺さないで弄ぶつもりだったが……この条件では弥生を殺すしかなく、玩具が減るのはあんまり気分が乗らないアークだった。
「皆! 見ててね!!」
なんでそんなに強気なのか全員が困り果てる。
「無理だと思うよ姉ちゃん……」
「おねーちゃん、文香より足が遅いんだよ? 転ぶ前にごめんなさいしよう?」
ちなみに真司と文香は超説得した。
それこそ文香はウソ泣きまでして姉のわがままを止めようとしたのだが……結果は見てのとおりである。
「何が起こるかわからんしのう……不安じゃ」
洞爺まで貧乏ゆすりをして落ち着かない様子。
誰もが無茶だと思っている中、一人だけ……と言うか一匹だけのほほんと器用に紅茶をすすりながら弥生の支持をする者がいた。
「問題あるまい」
なぜか自信満々な蜘蛛、ジェノサイドだけは弥生の申し出に唯一頑張れ主! と送り出している。
何なら一番弥生の運動音痴を知っているといっても過言ではないはずなのに。
「じゃあ、始めましょうか!」
「はあ……分かった。おい、誰か合図しろよ」
こんな茶番に付き合うのは極力短くしたかったアークが聖剣を構える。
間宮零士がよりにもよってパンデモニウムの動力源として使っていた。
そのせいで魔力が枯渇していてただの剣としてしか使えないが……十分すぎる。
「親父、空に一発頼むぜ」
「おう……ちょっと待ってろ」
焔が護身用の回転式弾倉の拳銃を取り出して、空に向けて引き金を引いた。
――パンッ!
軽い銃声と硝煙の香りがあたりに漂った瞬間、弥生が動く。
「は?」
間抜けな声はキズナだった、なんだかんだ言っても……万が一にでも弥生が死なない様に一切油断せず介入の準備をしていた。
そういう意味ではここにいる全員が臨戦態勢だったのだが……当の本人が消える。
代わりに聞こえてきたのは激しい金属の激突音。
「ぐっ!!」
たまたまだった。
無造作に振り下ろすつもりでアークは剣を振り上げようとしたら……そこに横薙ぎの一閃が飛び込んできたから止められただけだ。
「あれ? 止められちゃった」
キョトンとする弥生の表情を見る限り、何か小細工や替え玉と言った雰囲気は感じられない。
「弥生様!?」
この中でも指折りの身体能力の持ち主であるカタリナですらとらえきれなかった。
気が付いたら弥生とアークが切り結んでいる。
その証拠にふわりと弥生の動いた分、風がそよぎ……皆のぽかんとした顔の鼻先をくすぐった。
「どうなってる!?」
一番驚いているのはアーク本人である。
今まで一度たりとも戦場に足を運んできたことのない生粋の文官、こざかしい策ばかりを多用する小娘がぎちぎちと自分の膂力に拮抗してくるのだ。
「まず一発、殴りますね」
にっこりとほほ笑む弥生が左手を刀から話してゆっくりと振りかぶる。
反射的にアークが刀を押し返そうとするが、愚策だった。
ひゅっ! と風を切る音が全員の耳に届くと同時に凄まじい爆音が響く。
「えい」
そこから遅れて弥生の可愛らしい掛け声が響くのだ……そこには技術も何もない。
ただただ見様見真似で殴る弥生の一撃がアークの右頬を抉り抜く。
――ずざざっ
「あ、ああ……」
からん、と剣を取り落したアークが数メートル吹っ飛んだ。
その頬はくっきりと弥生の拳の跡が残る。
「いったぁ!! 骨折れてないよね!?」
ふうふうと拳に息を吹きかける弥生。
「おい、姉貴……俺の頬、つねってくれ」
「安心して良いよ……僕のメモリー、正常だから」
何が起きているのか誰もわからなかった。
実際の所起きている現象は分かりやすい。
「嬢ちゃんが……斬って、殴った……」
洞爺の言ったことがそのまま事実だった。
「あの嬢ちゃん……キズナより早えんじゃねえのか?」
「うちも不意打ちやったら反応でけへんね」
秘書部でも最速の速さを持つキズナですら、洞爺より一歩速い。
そのレベルなのだが……弥生の速度はそれすらも凌駕している。
「じゃあ、次はキズナとエキドナさんの分。返しますね?」
屈託のない弥生の表情に、アークはある物を見つける。
「ひっ!!」
仄暗いとか漆黒なんて比較にならないほど……
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