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最終決戦 ⑥ さようならシリアス、君を忘れない
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飛竜が飛べる限界高度ぎりぎり、遥か彼方の地平線がうっすらと明るくなりつつある頃。
アリスは凍えていた。
「さむ……いぃぃ」
「迂闊だったねぇ……毛布でも借りればよかったのに」
いくら立て込んでるとは言えワンピース一枚で耐えられる寒さではない。
腕を抱える様にしてカタカタと歯を鳴らすアリス、そのうち鼻水が出てきそうだ。
そんな中、一人だけ障壁を張って寒さを防いでいるクロノスはアリスの準備不足を笑う。
「だって……こんな高さまで上がれると思ってなくて……お願い、私にもその障壁貸して」
「はいはい、死なれちゃ困るからね」
ぽん、とクロノスが軽い口調でアリスの身体を障壁で包んだ。
すぐにアリスが小さな火を魔法で出してその身を温める。
「もうそろそろ開くかしら?」
「……それなんだけどさ。どうも妙なんだよね」
「どういう事?」
「もう開いてる……」
クロノスは時空をつかさどる神の欠片としていろいろと出来る事が多い。
その中でも便利なのが千里眼、実際はちょっと違うのだが任意の場所をのぞき見できる。
それを使って戦場の様子を確認しているのだが……ついさっき、ぽっかりと予想地点のすぐそばに大きな時空の扉が開いた。
「へ? 何の音もしないじゃん」
いつもなら雷や地鳴りと言った事前現象があって然るべき。
それだけ空間と時間に穴を開けるには相応の力と言うものが必要なのだ。
「それがさぁ……僕もびっくりなんだけどアリスが穴の維持に使う魔法あるじゃん? アレをさ改良と言うか改造して自力で繋いでる奴がいる。これ見て」
クロノスがアリスにもわかりやすいように自分の視界を魔法で共有する。
するとアリスの青い瞳の中に半透明の景色が投影された。
「……ここ、宮城県じゃん。空に浮いてるの何? 鋼鉄のクジラ??? え、これはいつの時代?」
「えっとねぇ……西暦だと3892年、アリスが住んでいた時代から1870年後」
「ようこそ未来、戦争でも始めるの?」
「現在進行形で戦争みたいなもんだけどね……お、いたいた」
そう言ってクロノスは自力で時空の扉を開けた犯人を補足する。
そこには黒い角をこめかみから生やす男、間宮桜花の父親が困ったような笑顔でクジラを見上げていた。
正確には直線でパンデモニウムへ激突するコースを飛翔していた桜花とカタリナであるが。
「……うそでしょ? 自力でこんなでかい穴を?」
「術式に一切の無駄が無くて魔力が足りていれば……余波なんて起きないけど、僕にも無理じゃないかなあの大きさだと」
何せ都市一つ丸ごと内包していそうな大きさのクジラが……このまま広がれば通れてしまう。
「て、天才?」
「違うよ……あんな当たり前のような顔してまだ広げてるでしょ? アレは言ってみれば僕と同じ領域にいるかもしれない」
「……もしかしてあんたの本体?」
「いいや? あんな格好良くないさ……なんだろうね一体」
実は娘を殺した相手をぶん殴りたいから追いかけてきた。
当の本人である間宮零士から聞かされてクロノスが呆れ返るのはまた別の話だ。
「どうするの?」
「自然に時空がほころぶのは続いている……僕らの帰り道はそっち。だけど、手伝ってもらえれば助かるかな……こんなチャンス二度は無いし」
「修正までしちゃう?」
「ああ、いい加減あちこち旅をするのは飽きたからね……元の場所に戻ろう」
「そうね。皆を待たせてるからね……巻き込んじゃった人も返してあげれそう?」
「できると思う、本人が望めばね……あくまでも今ここにいるのは必然だから」
弥生をはじめとするキズナ達は偶然ここに流れ着いたと思っているようだが……それは違う。
偶発的に発生した穴はあくまでも必然、それによってもたらされた事実を変える事は本来許されない。
しかし、クロノスであればこれだけゆがんだ現象を直しますよ。
という名目でいくらか改変は許容できる。
「良かった……じゃあ、そろそろ降りようか?」
下は危ないから、と空に退避しているが目に見えてウェイランドの騎士たちが敵を掃討できている。
一番厄介と言われていたニルヴァーナも大きな蜘蛛に凍らされてうんともすんとも言わなくなった。
ならばもう危険は少ないだろう。
「それは良いけど……アレ、どうする?」
「なに? あれって……」
ふと気が付いたようにクロノスが別の場所の風景を飛ばしてくる。
そこには……
「え? お、お母さま!? なんでここに!? そ、それに……その子供だれぇ!? お父様自殺しちゃう!! 現地妻じゃなく現地旦那!? 昼ドラ真っ青の異世界ドロドロ寝取られ!?」
「落ち着きなよ、何だろうねあの子」
アリスの母親で、最後に見た時と同じように革のドレスを纏っているレティシアが居た。
丁度バニの子供をあやしているらしく、にっこにこの笑顔である。
「ちょ、ちょっと皮膚が緑……弟かしら、妹かしら?」
「おちつけっつーの……少し後ろにいる女の子の子供でしょどう見たって……」
バニもレティシアに子守を任せてサンドイッチを頬張っていた。
三人も母親が居れば交代で食事をとれるので慣れた様子、白い髪の女性や黒髪で弓を担いだ中年男性や宙をふらふらと漂う小柄で初老のドワーフもいる。
「そ、そうよね。あのお母様がお父様意外とカップル成立なんて天地がひっくり返ったってありえないわよね!!」
「当たり前だよ。遺伝子操作のバグだもん、あの強さ……」
夫は自分の一撃を止められるもの、そう言って騎士団を拳一つで全滅できるレティシアを娶ったのがアリスの父親。
そんなのがポコポコ居たらたまったものでは無い。
「お、お母様も連れて行かなきゃ!! 弥生に連絡して一回離れるって」
「僕がしておくから、すまないね飛竜君……南に向かってくれるかな?」
――ぎゃう!
大人しくて賢い飛竜がクロノスの言葉に応えて南に進路を変える。
そのおかげで一人と一匹は、見なくて済んだ。
あまりにもひどいラスボスの最後を……
アリスは凍えていた。
「さむ……いぃぃ」
「迂闊だったねぇ……毛布でも借りればよかったのに」
いくら立て込んでるとは言えワンピース一枚で耐えられる寒さではない。
腕を抱える様にしてカタカタと歯を鳴らすアリス、そのうち鼻水が出てきそうだ。
そんな中、一人だけ障壁を張って寒さを防いでいるクロノスはアリスの準備不足を笑う。
「だって……こんな高さまで上がれると思ってなくて……お願い、私にもその障壁貸して」
「はいはい、死なれちゃ困るからね」
ぽん、とクロノスが軽い口調でアリスの身体を障壁で包んだ。
すぐにアリスが小さな火を魔法で出してその身を温める。
「もうそろそろ開くかしら?」
「……それなんだけどさ。どうも妙なんだよね」
「どういう事?」
「もう開いてる……」
クロノスは時空をつかさどる神の欠片としていろいろと出来る事が多い。
その中でも便利なのが千里眼、実際はちょっと違うのだが任意の場所をのぞき見できる。
それを使って戦場の様子を確認しているのだが……ついさっき、ぽっかりと予想地点のすぐそばに大きな時空の扉が開いた。
「へ? 何の音もしないじゃん」
いつもなら雷や地鳴りと言った事前現象があって然るべき。
それだけ空間と時間に穴を開けるには相応の力と言うものが必要なのだ。
「それがさぁ……僕もびっくりなんだけどアリスが穴の維持に使う魔法あるじゃん? アレをさ改良と言うか改造して自力で繋いでる奴がいる。これ見て」
クロノスがアリスにもわかりやすいように自分の視界を魔法で共有する。
するとアリスの青い瞳の中に半透明の景色が投影された。
「……ここ、宮城県じゃん。空に浮いてるの何? 鋼鉄のクジラ??? え、これはいつの時代?」
「えっとねぇ……西暦だと3892年、アリスが住んでいた時代から1870年後」
「ようこそ未来、戦争でも始めるの?」
「現在進行形で戦争みたいなもんだけどね……お、いたいた」
そう言ってクロノスは自力で時空の扉を開けた犯人を補足する。
そこには黒い角をこめかみから生やす男、間宮桜花の父親が困ったような笑顔でクジラを見上げていた。
正確には直線でパンデモニウムへ激突するコースを飛翔していた桜花とカタリナであるが。
「……うそでしょ? 自力でこんなでかい穴を?」
「術式に一切の無駄が無くて魔力が足りていれば……余波なんて起きないけど、僕にも無理じゃないかなあの大きさだと」
何せ都市一つ丸ごと内包していそうな大きさのクジラが……このまま広がれば通れてしまう。
「て、天才?」
「違うよ……あんな当たり前のような顔してまだ広げてるでしょ? アレは言ってみれば僕と同じ領域にいるかもしれない」
「……もしかしてあんたの本体?」
「いいや? あんな格好良くないさ……なんだろうね一体」
実は娘を殺した相手をぶん殴りたいから追いかけてきた。
当の本人である間宮零士から聞かされてクロノスが呆れ返るのはまた別の話だ。
「どうするの?」
「自然に時空がほころぶのは続いている……僕らの帰り道はそっち。だけど、手伝ってもらえれば助かるかな……こんなチャンス二度は無いし」
「修正までしちゃう?」
「ああ、いい加減あちこち旅をするのは飽きたからね……元の場所に戻ろう」
「そうね。皆を待たせてるからね……巻き込んじゃった人も返してあげれそう?」
「できると思う、本人が望めばね……あくまでも今ここにいるのは必然だから」
弥生をはじめとするキズナ達は偶然ここに流れ着いたと思っているようだが……それは違う。
偶発的に発生した穴はあくまでも必然、それによってもたらされた事実を変える事は本来許されない。
しかし、クロノスであればこれだけゆがんだ現象を直しますよ。
という名目でいくらか改変は許容できる。
「良かった……じゃあ、そろそろ降りようか?」
下は危ないから、と空に退避しているが目に見えてウェイランドの騎士たちが敵を掃討できている。
一番厄介と言われていたニルヴァーナも大きな蜘蛛に凍らされてうんともすんとも言わなくなった。
ならばもう危険は少ないだろう。
「それは良いけど……アレ、どうする?」
「なに? あれって……」
ふと気が付いたようにクロノスが別の場所の風景を飛ばしてくる。
そこには……
「え? お、お母さま!? なんでここに!? そ、それに……その子供だれぇ!? お父様自殺しちゃう!! 現地妻じゃなく現地旦那!? 昼ドラ真っ青の異世界ドロドロ寝取られ!?」
「落ち着きなよ、何だろうねあの子」
アリスの母親で、最後に見た時と同じように革のドレスを纏っているレティシアが居た。
丁度バニの子供をあやしているらしく、にっこにこの笑顔である。
「ちょ、ちょっと皮膚が緑……弟かしら、妹かしら?」
「おちつけっつーの……少し後ろにいる女の子の子供でしょどう見たって……」
バニもレティシアに子守を任せてサンドイッチを頬張っていた。
三人も母親が居れば交代で食事をとれるので慣れた様子、白い髪の女性や黒髪で弓を担いだ中年男性や宙をふらふらと漂う小柄で初老のドワーフもいる。
「そ、そうよね。あのお母様がお父様意外とカップル成立なんて天地がひっくり返ったってありえないわよね!!」
「当たり前だよ。遺伝子操作のバグだもん、あの強さ……」
夫は自分の一撃を止められるもの、そう言って騎士団を拳一つで全滅できるレティシアを娶ったのがアリスの父親。
そんなのがポコポコ居たらたまったものでは無い。
「お、お母様も連れて行かなきゃ!! 弥生に連絡して一回離れるって」
「僕がしておくから、すまないね飛竜君……南に向かってくれるかな?」
――ぎゃう!
大人しくて賢い飛竜がクロノスの言葉に応えて南に進路を変える。
そのおかげで一人と一匹は、見なくて済んだ。
あまりにもひどいラスボスの最後を……
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