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最終決戦 ③ ジェノサイドさん、覚醒
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友が呼んでいる。
戦場で空を駆ける素晴らしき種族だ。
同じ人間を慕い、共にある事を選んだ奇特な仲間である。
その友が今、窮地に立たされている……そんな話を耳にした。
「ジェノサイド、助かりました……貴方ずいぶんと強いんですね」
弥生の主であるオルトリンデ殿が額に汗を浮かべて我に礼を言う。
しかし、我の助けなど必要には見えなかった。
ゆえに前足を左右に振る……人の使う武器、それは強い。
しかし、真に強いのは……それを扱う者。
それをここ最近知った。
「相変わらず謙虚ですが……非戦闘員を蜘蛛の巣で護って貰えてずいぶん戦いやすくなったんですよ?」
そう言いつつ、オルトリンデ殿が無造作に振るう鞭は次々とでぃーヴぁとかいう鋼の人形を打ち据え、吹き飛ばす。
「さあ、もう少し踏ん張りますよ!」
「「「「「おう!!」」」」」
鎧に身を包む彼らもまだまだ元気だ、これならまだしばらく危険は無かろう。
国内の同属が……なぜか人形を喰らい鋼の表皮を手に入れている……もうじきそ奴らも追いついてくるだろうしな……。
「ジェノサイド、貴方は弥生達の元へ向かってください。さっきから洞爺達とも連絡が取れません」
うむ、我もそうしようと考えておる。
前足でそこら辺に転がっているレンガを拾い、床に『合流してくる』と記した。
なかなか我の始祖の様に言葉を操る術が身につかなくとも、主のおかげで簡単な文字は書けるしやり取りができるようになったのはうれしい。
「頼みます。あなたも無理はしてはいけませんよ? 弥生は『全員生還しろ』と言っていたんですから」
確かにその通り、一人たりとも欠ける訳にはいかないな。
深くうなずき、改めて心に刻む。
そう簡単に我ら蜘蛛は全滅する事は無いが……それでも主は悲しむだろう。
「よろしい、では……また後で会いましょう」
この国の住民は不思議だ。
我ら蜘蛛の表情がわかるのか、言葉足らずな我らの意図をくみ取り自然に接する。
始祖が旅館で働いている時はいつも闇に潜んでいた我らが……こうして日向で堂々と歩ける日が来るとは、正直思ってなかった。
だからこそ、この危機に我らは奮起する。
かりかりと、床に記すのは……
『もちろん! 後で打ち上げ!』
主が言うであろう。
今の先を望む言葉だ。
「ふふ、おなか一杯食べて飲みましょう」
その言葉に頷き、我はぽっかりと空いた壁の穴から入ってこようとするでぃーヴぁに飛びつく。
今更、鉄ごときで我が牙を止められる事は無い。
かみ砕き、顎を上げ引きちぎり……吐き捨てる。
苦く、鼻を突く機械の油はうんざりだが……今ばかりは我慢しよう。
手当たり次第に糸を吐き、我はそのままその身を宙に投げた。
「……相変わらず豪快ですね」
そんなオルトリンデ殿の声が遠ざかるのに合わせて、糸でくくった人形数体を勢いに任せて振り回す。
どうやらあいつらは我が同胞の糸を外す知恵がない。
巻き込みながら振り回せばそれだけ相手の勢いを削げる……もう一人の金髪、キズナ殿に憑いている同胞がもたらした情報は正確だった。
そのまま足を止めずに北に向かうと、すっかり見る影も無い美しかった城門の跡を我らに良く似た身体を持つ鉄の塊が蹂躙している。
気に入らない、実に気に入らない……
なぜか?
奴らは糸を出さんのだ。
真似るのであれば、そこが一番重要であろう?
だから、我は知らしめなければならない…………蜘蛛とは何たるかを。
そして……異形とは、怪異とは何かを。
懐にずっと持ち歩いているソレを、今使う時であると本能が叫んでいるのだ。
そんなことを考えていたら……ぽん、と背中に何かが乗る感触。
首を回して見てみると、主の妹が飛び乗って来ていた。
「つかれたぁ」
ふらふらと頭を揺らし、銀色のおさげが連動する。
そういえば先ほどまで空を煌々と照らしていた光の線がいつの間にやら途切れていた。
「ジェノサイド、おねえちゃんの所までつれてって……」
そのままぺたんと背中に突っ伏する主の妹。
ずいぶんと頑張ったのであろう、身体がほんのりと温かい。
このままでは振り落としてしまうので糸を出し、くるりと背中にくくる。
なるべく苦しくない様に要所だけを止めるが……そもそも我よりこの子の方が強かった……。
「特大の一発だけ残しておいてって言われてるから多分必要なのー」
なるほど、そろそろ主の作戦上終わりが近いのだろう。
となれば……ますます温存する必要はあるまい。
改めて我はソレを取り出し、口に持って行く。
なぜこれが主の額に刺さっていたのかはわからぬ、その由縁を聞く口を持たぬ我にわかるのは……。
ずっと、主の生気を吸い、奪い続けた年月。
そこに蓄積された量だけだ。
始祖ですら内包できないだろう……良く主は今この瞬間まで生きつづけている。
手元にあずかって以降、ずっと考え続けたが……きっとこれは主には不要。
いつか処理するのであれば……今でもいい。
「ジェノサイド? それなあに?」
不思議そうに我の口元をのぞき込む主の妹に、我は嗤う。
「……おねえちゃんみたいな嗤い方だよ? 怖がられちゃうよジェノサイド」
……え、主に似ている?
それだけはめっちゃ嫌だ、断固として否定したい所。
とはいえ、弁解する時間も惜しい。
一時、この騒ぎが収まるまでの間……役に立たせてもらおう。
元は忌み嫌われた土蜘蛛の端くれが……人の役に立つために。
――ぱきん
思いの他、雪女の力の結晶は簡単に割れた。
その瞬間……我は世界が変わったのを自覚する。
今まさに、死に瀕している仲間の存在を遠くに捉えて。
戦場で空を駆ける素晴らしき種族だ。
同じ人間を慕い、共にある事を選んだ奇特な仲間である。
その友が今、窮地に立たされている……そんな話を耳にした。
「ジェノサイド、助かりました……貴方ずいぶんと強いんですね」
弥生の主であるオルトリンデ殿が額に汗を浮かべて我に礼を言う。
しかし、我の助けなど必要には見えなかった。
ゆえに前足を左右に振る……人の使う武器、それは強い。
しかし、真に強いのは……それを扱う者。
それをここ最近知った。
「相変わらず謙虚ですが……非戦闘員を蜘蛛の巣で護って貰えてずいぶん戦いやすくなったんですよ?」
そう言いつつ、オルトリンデ殿が無造作に振るう鞭は次々とでぃーヴぁとかいう鋼の人形を打ち据え、吹き飛ばす。
「さあ、もう少し踏ん張りますよ!」
「「「「「おう!!」」」」」
鎧に身を包む彼らもまだまだ元気だ、これならまだしばらく危険は無かろう。
国内の同属が……なぜか人形を喰らい鋼の表皮を手に入れている……もうじきそ奴らも追いついてくるだろうしな……。
「ジェノサイド、貴方は弥生達の元へ向かってください。さっきから洞爺達とも連絡が取れません」
うむ、我もそうしようと考えておる。
前足でそこら辺に転がっているレンガを拾い、床に『合流してくる』と記した。
なかなか我の始祖の様に言葉を操る術が身につかなくとも、主のおかげで簡単な文字は書けるしやり取りができるようになったのはうれしい。
「頼みます。あなたも無理はしてはいけませんよ? 弥生は『全員生還しろ』と言っていたんですから」
確かにその通り、一人たりとも欠ける訳にはいかないな。
深くうなずき、改めて心に刻む。
そう簡単に我ら蜘蛛は全滅する事は無いが……それでも主は悲しむだろう。
「よろしい、では……また後で会いましょう」
この国の住民は不思議だ。
我ら蜘蛛の表情がわかるのか、言葉足らずな我らの意図をくみ取り自然に接する。
始祖が旅館で働いている時はいつも闇に潜んでいた我らが……こうして日向で堂々と歩ける日が来るとは、正直思ってなかった。
だからこそ、この危機に我らは奮起する。
かりかりと、床に記すのは……
『もちろん! 後で打ち上げ!』
主が言うであろう。
今の先を望む言葉だ。
「ふふ、おなか一杯食べて飲みましょう」
その言葉に頷き、我はぽっかりと空いた壁の穴から入ってこようとするでぃーヴぁに飛びつく。
今更、鉄ごときで我が牙を止められる事は無い。
かみ砕き、顎を上げ引きちぎり……吐き捨てる。
苦く、鼻を突く機械の油はうんざりだが……今ばかりは我慢しよう。
手当たり次第に糸を吐き、我はそのままその身を宙に投げた。
「……相変わらず豪快ですね」
そんなオルトリンデ殿の声が遠ざかるのに合わせて、糸でくくった人形数体を勢いに任せて振り回す。
どうやらあいつらは我が同胞の糸を外す知恵がない。
巻き込みながら振り回せばそれだけ相手の勢いを削げる……もう一人の金髪、キズナ殿に憑いている同胞がもたらした情報は正確だった。
そのまま足を止めずに北に向かうと、すっかり見る影も無い美しかった城門の跡を我らに良く似た身体を持つ鉄の塊が蹂躙している。
気に入らない、実に気に入らない……
なぜか?
奴らは糸を出さんのだ。
真似るのであれば、そこが一番重要であろう?
だから、我は知らしめなければならない…………蜘蛛とは何たるかを。
そして……異形とは、怪異とは何かを。
懐にずっと持ち歩いているソレを、今使う時であると本能が叫んでいるのだ。
そんなことを考えていたら……ぽん、と背中に何かが乗る感触。
首を回して見てみると、主の妹が飛び乗って来ていた。
「つかれたぁ」
ふらふらと頭を揺らし、銀色のおさげが連動する。
そういえば先ほどまで空を煌々と照らしていた光の線がいつの間にやら途切れていた。
「ジェノサイド、おねえちゃんの所までつれてって……」
そのままぺたんと背中に突っ伏する主の妹。
ずいぶんと頑張ったのであろう、身体がほんのりと温かい。
このままでは振り落としてしまうので糸を出し、くるりと背中にくくる。
なるべく苦しくない様に要所だけを止めるが……そもそも我よりこの子の方が強かった……。
「特大の一発だけ残しておいてって言われてるから多分必要なのー」
なるほど、そろそろ主の作戦上終わりが近いのだろう。
となれば……ますます温存する必要はあるまい。
改めて我はソレを取り出し、口に持って行く。
なぜこれが主の額に刺さっていたのかはわからぬ、その由縁を聞く口を持たぬ我にわかるのは……。
ずっと、主の生気を吸い、奪い続けた年月。
そこに蓄積された量だけだ。
始祖ですら内包できないだろう……良く主は今この瞬間まで生きつづけている。
手元にあずかって以降、ずっと考え続けたが……きっとこれは主には不要。
いつか処理するのであれば……今でもいい。
「ジェノサイド? それなあに?」
不思議そうに我の口元をのぞき込む主の妹に、我は嗤う。
「……おねえちゃんみたいな嗤い方だよ? 怖がられちゃうよジェノサイド」
……え、主に似ている?
それだけはめっちゃ嫌だ、断固として否定したい所。
とはいえ、弁解する時間も惜しい。
一時、この騒ぎが収まるまでの間……役に立たせてもらおう。
元は忌み嫌われた土蜘蛛の端くれが……人の役に立つために。
――ぱきん
思いの他、雪女の力の結晶は簡単に割れた。
その瞬間……我は世界が変わったのを自覚する。
今まさに、死に瀕している仲間の存在を遠くに捉えて。
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