長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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あ、あれ? 難易度設定間違ってない?

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「いい加減、ちょろちょろと……うっとおしいんだよね。お前」

 刀を構える洞爺に向けて、アークは機体の全重量を乗せた突撃を敢行する。 
 でたらめな推進力で突っ込んでくるそれを洞爺は刀で受けた。

「おも、い……」

 もはや何度目かもわからない復活を遂げたアークの猛攻は激しかった。
 今までのわめき散らして注意散漫な様子は微塵も無く、冷静に洞爺達の排除を優先させる。
 その豹変ぶりは一気にパワーバランスをアークへと傾けた。

「ぐっ!!」

 みしり、と音を立てて耐える腕に洞爺の表情がゆがむ。
 そもそも洞爺の戦闘スタイルはその速度を生かしたヒット&ウェイ、真っ向から相手の攻撃を受けるのは極力避けるのが常だ。

 それでも、洞爺には受ける理由があった。

「はあ……はあっ!」

 その背に脂汗を浮かべ膝をつくフィヨルギュンが居る。
 
「く……お!」

 少しづつ、洞爺の脚が崩れていく。
 もはや子供がこねくり回した粘土細工の様にでたらめな人型となったニルヴァーナの全重量を、刀一つで受けていた。

「ほら、どうしたんだい? 僕の首を刎ねたように斬ればいいじゃないか」

 声に交じる怒気はさらに洞爺への攻撃へと転化され、その圧力を増していく。

「ぬ、か……せ!!」

 洞爺が全身に力を込めて、懸命に押し返そうとするがアリとゾウほどもある物理的な体格差。
 さらにはニルヴァーナの全身に備えられているバーニアが煌々と噴射を続けていた。

「今行きます!」

 ボロボロになったメイド服を破り捨て、漆黒の戦闘服だけとなったカタリナが疾走する。

「邪魔はさせないよ……終わりの大罪」

 全身の至る所に突き出した砲身が一斉にカタリナへ向けられた。
 次の瞬間には……

 ――ガララララ!!

 でたらめに連射される弾丸が両腕を交差させたカタリナとその周辺に殺到する。
 
「ぐあっ!」

 砕ける腕の骨、あばら、肩、脚、弾種も口径もまるで頓着せず放たれる銃撃の嵐は瞬く間にカタリナの全身を砕く。
 それでもなお、カタリナは即座に再生をさせて健気に射線から逃れる様に迂回しながら接近を試みていた。
 
「まだか! フィン殿!!」

 とうとう支えていた刀が悲鳴を上げ始めて、洞爺が焦るようにフィヨルギュンに問う。

「むり、いわないで……よ」
「くっ! 桜花殿!! 焔殿!!」

 無理は承知で遠距離攻撃の手段を持つ二人に助けを求めた。
 桜花は何とか大鎌で身体を支えて立ち上がり、焔に至っては砲撃の余波でアルマジロの上に叩きつけられてから反応がない。

 その代わり。

「洞爺! スイッチ!」

 アルマジロの接続を確立して体勢を整え直す為に、氷柱が落とされてからアルマジロに籠っていたエキドナが戦線に復帰する。

「助かった!」

 エキドナの腕力ならば真っ向からでもなんとかなると思われた。
 しかし、アークはそれを見逃さない。

「お前は特に気に入らない……」

 ニルヴァーナのエンジンの一つを迷わず自爆させる。
 すさまじい爆発がその機体をさらに前へと押し出す。

「があっ!!」

 ――ぴきっ…………かきんっ! 

 とうとう、洞爺の刀が折れた。
 
「洞爺っ!!」

 何とかその背を支え、エキドナが全力でその機体の突進を止めにかかる。
 しかし、出遅れた代償は大きく……とうとう受け止めきれなくなり地面を深くえぐりながら三人を吹き飛ばした。

「はは……ずいぶんと脆いじゃないか。さっきまでの威勢はどうしたんだい?」

 油断なく周りを見渡すと一人足りない。
 アークは落ち着いて全方位のレーダーを確認すると、丁度自分と重なる所に紅い点があった。

「上か……」
「ずいぶん勘が良うなったな!!」

 刀を両手で構え、大上段で斬りかかる氷雨が吠える。
 無理をしてジェミニが一人だけ真上まで運んだのだ。

 ――ガキィン!!

 全力を込めた一撃は確かにニルヴァーナの装甲を穿つ、しかし……

「二番自爆」

 その真横にあるエンジンが装甲を巻き込んで爆発、氷雨の身体を爆炎が呑み込んだ。

「!?」

 ごきん、と肩が外れる嫌な音と共に全身を押しつぶすような衝撃が氷雨の身体を打ち上げる。
 幸い息を吸っていなかったおかげで口内は焼けてないが、最悪肺まで炎が回ってしまうくらいにまとわりついた。

「水よ……」

 なけなしの魔力でフィンが宙を舞う氷雨の身体を水の魔法で消火するが……着地までは何ともできず、そのまま地面に激突し……刀は少し離れた所に転がる。

 完全なワンサイドゲーム、立場が逆転していた。

「ぎゃうぅぅ!!」

 そこへジェミニが捨て身の体当たりをして、ようやくニルヴァーナの姿勢がほんの少し揺れる。
 
「なんだ、お前……あの時の飛竜か」

 以外にも、アークはジェミニを覚えていた。
 首を傾げて見逃すかどうか、一瞬迷う。

 ――『人間』ではない

「邪魔だ」

 結局、手負いで装甲を裂く力も無いジェミニでは羽虫も同然。
 数発、空いている機銃で追い払う程度でアークの意識は洞爺達へと戻る。

「これより掃討を開始する。一度、リセットが必要だ」

 弥生に関わって以降、嚙み合わなかった自分の計画。
 そろそろ遊びの範疇を越えてきた。

「お前たちさえいなければ……別に海の底にいる必要も無いしな」

 ふらふらと何とか立ち上がる桜花、銃弾を浴びせ続けられ再生に手いっぱいのカタリナを見てアークは言う。

「よく、言うわね……今まで散々やられてたくせに」

 桜花のその言葉にも、今のアークは何の感慨も浮かばない。
 
「遊んでいたんだ。間違えるなよ……せっかくの角を心臓の代替にしてその女を救ったせいで……僕の子供を産める身体を無駄にしやがって」

 アークはそう言ってカタリナに視線を投げる。
 全身の再生をしているせいか、カタリナは何の反応も示せず膝をつき息を荒げたままだ。
 そこに容赦なく銃撃を続けるアーク、油断をしているとこの連中は何をしてくるかわからないので徹底する。

「あんたと? 冗談きついわ……」
「まあいいさ、確率的にいつかできるだろうしね。あの弥生ちゃんとキズナちゃんだっけ? しばらくは飼ってあげるよ」

 そもそも、完全な機械と人体の融合体を作るのはアークの聖剣として唯一の目的。
 その身をもって初めて人間を守るという崇高な役割を担う。
 
「そりゃ無理よ。ここであんたは殺す……絶対」

 ここで、ようやく……アークが『微笑む』。

「勝利による救いなんて信じてるから……僕に殺されたんだ。君の両親はね」

 だからこそ、桜花のスタンスだけはアークにとって信用が置ける。

「ぶっ殺す!」

 大鎌を一振りし、鬼の形相で襲い掛かる桜花に対して……アークはあまりにも強大だった。
 せめて誰かが回復する時間だけでもと願いを込める。

「ようやく、一人かな?」

 アークはそんな桜花へ、いびつな右腕を叩きつけた。
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