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どうするつもりだ?
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弥生とキズナ達が試作品の破壊兵器を満載して地下道に向かってる頃。
アークの足止めを担っていた焔達は休憩していた。
「随分とでけぇ氷だな……氷雨、斬れるか?」
うっすらと大気が冷やされて、靄がかかる氷の表面をなぞりながら焔は氷雨に確認する。
氷は明らかに普通では無く試しに拳銃で撃ってみたら弾がひしゃげた。
今度は鋼でコーティングされた徹甲弾でも表面をうっすら溶かしてきゅるるるる……と数センチ先で回転を止めてしまう。
「無理やね、どんだけ太いと思うてんの……そっちの爺さんに聞いた方がええよ」
どう見ても気泡が混ざってない密度の高い氷、その柱の太さはさっきまで戦っていたアークの乗るニルヴァーナを面で押しつぶすほどに広い。刀の長さなど比較にすらならないのだ。
「頑張れば斬れる。かもしれん……」
言外に『一太刀で』と付け足すあたりが氷雨と洞爺の技量の差なのだろう。
「ブーストアップをしてるとは言え……この時代の魔法は本当に戦闘特化ね。大したもんだわ」
「ですね……まさかここまで大きいとは。零士様に匹敵するのでは?」
「回数制限有りだけどね……」
桜花とカタリナも唖然としながら氷の柱を見上げる。
高層ビル並の高さのそれは天辺がどうなってるかわからない。
少し離れた空では並行する二筋の炎がゆっくりと旋回してこちらに向かってくるのが見える。
おそらくあれがジェミニとフィヨルギュンだろうと洞爺が気づいた。
「誰か信号弾か何か持っておらんか? 儂の分がもう無いのじゃ」
「その必要は無さそうよ」
桜花の言葉通り、向こうからはこちらがはっきり見えているらしく。
徐々に大きくなるジェミニの背で手を振る人影が露わになって来た。
「おーい!」
手をメガホンの様にして洞爺が声をかけると、ジェミニの双翼についていたジェットパックが機能を停止してそのまま空中で破棄される。
そもそも急ごしらえの使い捨て、良く持ったものだと洞爺は心の中で感心した。
ばさり、と氷の前で集合する焔たちの前にゆっくりと降りるジェミニ……その背中から褐色の肌をしたフィヨルギュンがひらりと降りる。
「ぎゃぅ……」
ぺたん、と糸が切れたようにへたり込むジェミニ。
相当疲れたのであろう……ぐでーっと地面に翼を広げた。
「お疲れ様じゃ。ジェミニ」
「ぎゃう」
いたわるように洞爺がその頭を撫でると、後は任せたと目を閉じる。
「ふう、なんか知らない顔が増えたわね?」
長い金髪を掻き上げながらミルテアリアの魔法士ギルド長、フィヨルギュンが見回した。
なんかまだら模様の服を着て、良く分からない武器を持つ男。
露出の高い民族衣装を纏う長い黒髪の女。
そして……
「あーー!! あの時の!!」
フィンの脳裏に以前ミルテアリアで探し物をしていた桜花とカタリナを捕まえようとして、閃光手榴弾で逃げられた記憶がよみがえる。
「……誰だっけ?」
「御姉様……ミルテアリアの魔法士ギルド長のフィヨルギュン様です」
「…………ああ!!」
すでに記憶の彼方に追いやっていた桜花がカタリナの言葉で引っ張り出せた。
「今度からはちゃんと事情を話しなさいよね。問答無用に捕まえる気なんて無いんだから」
「ごめんごめん、もうしないから」
苦笑いを浮かべながら頬を膨らませるフィヨルギュンに謝る桜花。
事情をオルトリンデやエキドナから聞いているからこそ、これで手打ちとなった。
それに、今はそんな場合でもない。
「まあ良いわ、この氷柱を維持しててって弥生ちゃんから頼まれてるんだけど……いったい何と戦ってるの? これくらいじゃ死なないとかそんな馬鹿なことないわよね?」
むしろ近衛騎士とかが戦っている黒い人形、ディーヴァや大型兵器の方がフィヨルギュンとしては気になる。
特に理由が無ければ自分はそっちのお手伝いとも考えていたが、洞爺が呆れたように彼女に補足説明を始めた。
「そのまさかじゃ。何度でも復活する……この氷で何分持つやら」
「……ただの魔物大発生ってわけじゃないのね」
その言葉を裏付ける様に……
――ビシリッ!!
「お、英雄様がお目覚めだ」
氷柱が嫌な音を立てて、一筋の裂け目が走る。
その光景に全員が気を引き締め直した。
「洞爺はん、次はどっち斬る?」
「儂は左じゃ」
「じゃあウチが右やね」
焔も肩に担いだショットガンを構えなおし、いつでも動けるように準備する。
「カタリナ、対戦車ライフルは?」
「もう打ち止めです。刀もありませんので殴って蹴ります」
桜花もEIMSを戦闘用の大鎌に変えて構えた。
――もういい
氷が割れる破砕音の中に地の底から響く様な低い声が混じる。
「これで何回目のガチギレだ? 坊や」
対照的に明るい口調の焔が代表して返事を返した。
崩れていく氷がじゅわぁ、と一気に蒸発していき周りに湯気が立ち込める。
「そんな言葉が言えるのも……ここまでだ」
抑揚もなく、あれだけ乱高下していた感情をどこに捨てたのか……アークがゆっくりとニルヴァーナを浮上させた。
吹き散らされる蒸気と砂ぼこり……目に入るのを防ごうと全員が顔を背け、目を細めながら睨む。
「昔さ」
桜花がそんなアークを前に、呟き始めた。
「ゲームのラスボスがやたら弱いなーって時に、必ず変身して連戦挑んでくるじゃん?」
口元を笑みに変えながら、幼い日の思い出を語る。
「そういう時って……大概変身しても弱いってオチ。知ってる?」
歪に動く大型兵器の作業用アームを回し、破損した航空兵器のジェットエンジンをあちこちに接続し……
「その減らず口、絶対この手で引き裂いてやる……時代遅れの魔王!!」
とうとう、整合性すら捨てて瞬間的な強さを求めたアークが手当たり次第に周りの機械を統合、吸収し始めた。
「やっとあの嬢ちゃんの言った第二ラウンドか……」
「そう言う事じゃな……防御を頼む。フィン殿」
「だから……呼ばれたのね」
火花が散る機体の上部に備えられた二対の砲門。
無理やり数機のエンジンと直結してエネルギー源を確保したレーザーカノンが洞爺達を狙っている。
「その指輪が壊れたらあの砲撃は障壁じゃ防げないから……最優先はあの砲身かエンジン。障壁の外であの砲火に飛び込んだら即死、オーケー?」
桜花によるEIMSでのリアルタイム解析を聞いて全員からため息が漏れた。
アーク戦、第二幕が始まる。
アークの足止めを担っていた焔達は休憩していた。
「随分とでけぇ氷だな……氷雨、斬れるか?」
うっすらと大気が冷やされて、靄がかかる氷の表面をなぞりながら焔は氷雨に確認する。
氷は明らかに普通では無く試しに拳銃で撃ってみたら弾がひしゃげた。
今度は鋼でコーティングされた徹甲弾でも表面をうっすら溶かしてきゅるるるる……と数センチ先で回転を止めてしまう。
「無理やね、どんだけ太いと思うてんの……そっちの爺さんに聞いた方がええよ」
どう見ても気泡が混ざってない密度の高い氷、その柱の太さはさっきまで戦っていたアークの乗るニルヴァーナを面で押しつぶすほどに広い。刀の長さなど比較にすらならないのだ。
「頑張れば斬れる。かもしれん……」
言外に『一太刀で』と付け足すあたりが氷雨と洞爺の技量の差なのだろう。
「ブーストアップをしてるとは言え……この時代の魔法は本当に戦闘特化ね。大したもんだわ」
「ですね……まさかここまで大きいとは。零士様に匹敵するのでは?」
「回数制限有りだけどね……」
桜花とカタリナも唖然としながら氷の柱を見上げる。
高層ビル並の高さのそれは天辺がどうなってるかわからない。
少し離れた空では並行する二筋の炎がゆっくりと旋回してこちらに向かってくるのが見える。
おそらくあれがジェミニとフィヨルギュンだろうと洞爺が気づいた。
「誰か信号弾か何か持っておらんか? 儂の分がもう無いのじゃ」
「その必要は無さそうよ」
桜花の言葉通り、向こうからはこちらがはっきり見えているらしく。
徐々に大きくなるジェミニの背で手を振る人影が露わになって来た。
「おーい!」
手をメガホンの様にして洞爺が声をかけると、ジェミニの双翼についていたジェットパックが機能を停止してそのまま空中で破棄される。
そもそも急ごしらえの使い捨て、良く持ったものだと洞爺は心の中で感心した。
ばさり、と氷の前で集合する焔たちの前にゆっくりと降りるジェミニ……その背中から褐色の肌をしたフィヨルギュンがひらりと降りる。
「ぎゃぅ……」
ぺたん、と糸が切れたようにへたり込むジェミニ。
相当疲れたのであろう……ぐでーっと地面に翼を広げた。
「お疲れ様じゃ。ジェミニ」
「ぎゃう」
いたわるように洞爺がその頭を撫でると、後は任せたと目を閉じる。
「ふう、なんか知らない顔が増えたわね?」
長い金髪を掻き上げながらミルテアリアの魔法士ギルド長、フィヨルギュンが見回した。
なんかまだら模様の服を着て、良く分からない武器を持つ男。
露出の高い民族衣装を纏う長い黒髪の女。
そして……
「あーー!! あの時の!!」
フィンの脳裏に以前ミルテアリアで探し物をしていた桜花とカタリナを捕まえようとして、閃光手榴弾で逃げられた記憶がよみがえる。
「……誰だっけ?」
「御姉様……ミルテアリアの魔法士ギルド長のフィヨルギュン様です」
「…………ああ!!」
すでに記憶の彼方に追いやっていた桜花がカタリナの言葉で引っ張り出せた。
「今度からはちゃんと事情を話しなさいよね。問答無用に捕まえる気なんて無いんだから」
「ごめんごめん、もうしないから」
苦笑いを浮かべながら頬を膨らませるフィヨルギュンに謝る桜花。
事情をオルトリンデやエキドナから聞いているからこそ、これで手打ちとなった。
それに、今はそんな場合でもない。
「まあ良いわ、この氷柱を維持しててって弥生ちゃんから頼まれてるんだけど……いったい何と戦ってるの? これくらいじゃ死なないとかそんな馬鹿なことないわよね?」
むしろ近衛騎士とかが戦っている黒い人形、ディーヴァや大型兵器の方がフィヨルギュンとしては気になる。
特に理由が無ければ自分はそっちのお手伝いとも考えていたが、洞爺が呆れたように彼女に補足説明を始めた。
「そのまさかじゃ。何度でも復活する……この氷で何分持つやら」
「……ただの魔物大発生ってわけじゃないのね」
その言葉を裏付ける様に……
――ビシリッ!!
「お、英雄様がお目覚めだ」
氷柱が嫌な音を立てて、一筋の裂け目が走る。
その光景に全員が気を引き締め直した。
「洞爺はん、次はどっち斬る?」
「儂は左じゃ」
「じゃあウチが右やね」
焔も肩に担いだショットガンを構えなおし、いつでも動けるように準備する。
「カタリナ、対戦車ライフルは?」
「もう打ち止めです。刀もありませんので殴って蹴ります」
桜花もEIMSを戦闘用の大鎌に変えて構えた。
――もういい
氷が割れる破砕音の中に地の底から響く様な低い声が混じる。
「これで何回目のガチギレだ? 坊や」
対照的に明るい口調の焔が代表して返事を返した。
崩れていく氷がじゅわぁ、と一気に蒸発していき周りに湯気が立ち込める。
「そんな言葉が言えるのも……ここまでだ」
抑揚もなく、あれだけ乱高下していた感情をどこに捨てたのか……アークがゆっくりとニルヴァーナを浮上させた。
吹き散らされる蒸気と砂ぼこり……目に入るのを防ごうと全員が顔を背け、目を細めながら睨む。
「昔さ」
桜花がそんなアークを前に、呟き始めた。
「ゲームのラスボスがやたら弱いなーって時に、必ず変身して連戦挑んでくるじゃん?」
口元を笑みに変えながら、幼い日の思い出を語る。
「そういう時って……大概変身しても弱いってオチ。知ってる?」
歪に動く大型兵器の作業用アームを回し、破損した航空兵器のジェットエンジンをあちこちに接続し……
「その減らず口、絶対この手で引き裂いてやる……時代遅れの魔王!!」
とうとう、整合性すら捨てて瞬間的な強さを求めたアークが手当たり次第に周りの機械を統合、吸収し始めた。
「やっとあの嬢ちゃんの言った第二ラウンドか……」
「そう言う事じゃな……防御を頼む。フィン殿」
「だから……呼ばれたのね」
火花が散る機体の上部に備えられた二対の砲門。
無理やり数機のエンジンと直結してエネルギー源を確保したレーザーカノンが洞爺達を狙っている。
「その指輪が壊れたらあの砲撃は障壁じゃ防げないから……最優先はあの砲身かエンジン。障壁の外であの砲火に飛び込んだら即死、オーケー?」
桜花によるEIMSでのリアルタイム解析を聞いて全員からため息が漏れた。
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