長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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お前が一番サイコパスだよ!?

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「じゃあこのボタンを押して♪ そうしたら半分許したげるよ」

 満面の笑み、ただし瞳の光は無い。
 キズナは後悔していた……弥生の指示を無視し、飛び出して戦った事では無く……予め、相談だけはしておくべきだったと……。

「ひっ……!!」

 今まで、悲鳴を上げたことが無い訳では無い。
 苦手なトラウマ、筋肉隆々の男性を目の当たりにした時にさんざん悲鳴を上げてきた。
 しかし、戦いの時には覚えている限りなかった。

 そんなキズナの前にある、親友の弥生が差し出したボタン。
 それを押す事にか細い悲鳴を上げる。

「どうしたの? 友達なら押せるよね?」

 普段なら、キズナはまた碌な事にはならないだろうとため息をつきながらもぽちっとしただろう。
 だが、今は断固として押したくは無い。
 なぜなら……

「そ、そのボタンは何の……ボタンなんだ?」
「とってもいいボタン」

 嘘だ!!
 真司がキズナに決死のアイコンタクトを送る。
 しかし……

「どうしたの真司、すごい脂汗。大変だったわね……お姉ちゃん真司が喜ぶと思って冷たく冷やしたタオルを用意してあるの」
「あ、ありがとう……」

 姉が絶妙なタイミングでそれを阻止。
 もう逃げ場はなかった。

「お、押すぞ」

 ごくり、と喉が鳴る。
 プルプル震える人差し指、心なしか少し離れた場所に停めたファングのランプも怯える様に明滅していた。

「うんうん。ぽちっと行っちゃって♪」

 ――ぽちっ!!

「あーあ、押しちゃった♪」
「お前が押させたんだろうがっ!?」

 くるくると満面の笑顔で回る弥生にキズナが喚く。
 何が起こるのか分からず涙目になりながら周りを警戒、人型ロボット良し、真司良し、ファング良し、斜めに並べられたミサイル……

 ――パパッ…………パパッ、パパッ! バシュゥゥゥゥウ!!

 こいつが異常有り。

「うそだろ!?」

 轟! と吹き荒れるジェットの風圧で髪が暴れ、土ぼこりが舞う。
 次の瞬間、一番近くの一発が空に向かって炎の線を引いた。

「さあ次は二発目!!」
「ま、まさか……」
「うん、これ全部」

 ついさっき弥生が組んだばかりの回路だが、見事に役割を果たして二発目が着火する。
 問題なく三発目、四発目と次々と十秒ごとに同じ軌道で空の彼方に消えていった。

 そして、遠くで響き渡る悲鳴と爆発音。
 一発づつなのにまるで絨毯爆撃の様に広範囲、連続性のある危険な音である。

「お、俺の経験上。あんな音一回聞いた事がある……と、途中であのミサイル。バラバラになって雨みたいに爆弾落としたりするんじゃないか?」
「お!? お客さんお目が高いですね!! なんとあのミサイル人道的にどうよと名高いクラスターミサイルとなっております!」
「買う気はねぇよ!? 大丈夫なのか!? 前線の連中知ってるんだよな!? なぁ!?」
「さあ? 明確に通達したかと言われても?」

 可愛く首をかしげる弥生ちゃん、生き生きしていた。

「嘘よね?」

 思わず素で確認してしまうキズナちゃん17歳。

「私がサイコパスではないといつから誤認していた?」
「最初からだよ徹頭徹尾! 今までそんなそぶり一度もなかったじゃねぇか!? 姉貴なんか今のお前見たら自爆すんぞ!? 全員ドン引きだよ!!」

 すでに前線の騎士さん必死で盾を使って隠れてますが、弥生がなんかやらかしそうといつも認識してました。
 マトモだと思ってたのは秘書部(桜花を除く)だけです。

「姉ちゃん、もう許してあげたら?」

 汗をタオルで拭い、少しさっぱりした表情で真司がキズナに助け舟を出した。
 そろそろ良いだろうと。

「むう……仕方ないなぁ。今は有事だし」
「はあ、もうこりごりだ……」

 力なくぺたんと地面に胡坐をかくキズナ。
 肉なり焼くなり好きにしろ、と両手を上げる。

「反省した?」
「おう」
「本気出したらキズナより強いんだからね私」
「骨身に染みた」
「もう勝手な事しない?」
「金輪際しない。誓ってもいい」

 じーっとキズナの目を覗き込む弥生。
 鼻と鼻が触れ合う位に近い。

「おかえりなさい」

 むすっとした顔で弥生はキズナに言う、いつもの言葉を。

「ただいま」

 ばつが悪そうに、しかし……しっかりと弥生の眼を見て答える。

「忙しくなるよ?」
「もう忙しいっての……どうすんだあのちょんぱ野郎」
「もちろん今回はコテンパンにするよ」

 これでね、と弥生は片膝をついた姿勢で待機しているアカシアをポン、と叩く。

「いまさらこいつ一機で?」
「私と桜花さんで作った玩具がいっぱいあるよ」

 電磁レールガンやクラスターミサイルを玩具と言い切る弥生にキズナが笑う。
 
「じゃあ、もう一暴れするかぁ」
「うん! 今度は一緒にね!!」
「仕方ねぇ……今回限りだぞ? お前は裏方なんだからよ」
「だったらちゃんと相談してよね。馬鹿」
「へいへい、真司。お前はもう大ボスの所で休んでろ」

 憮然とした顔で弥生に手を振り、真司へ顔を向けると……なんか真司君がマントを脱いでいる。
 なんで今になって? キズナが口をぽかんと開けて見守る中、手慣れた手つきで真司は縄梯子を使ってアカシアの背中に上り、当たり前の様にコックを捻ってハッチを開けた。

「姉ちゃん、先に乗ってるよ」
「うん、すぐ行く」
「オーケー、もう驚かねぇ……」

 どうやらいつの間にか二人乗りに改造されているらしい。
 
「という訳でキズナ、地下を行くんだけど……そのバイク何?」
「しらねぇ、パパとママが拾ってきた」
「拾って来たって……犬じゃあるまいし」
「似たようなもんだ」

 そんな話題のファングさん。
 俺は犬じゃねぇよ!? と猛抗議の意味を込めてメインライトを激しく点滅させる。

「文句言いたいならまずは役に立ってくれ、ほら行くぞ」

 くいくい、と手招きするキズナに不満そうにエンジンを吹かしながら近寄ってくるファング。
 なんか本物の犬みたい。
 
「なんか本物の犬みたい」

 ……言わなければいいのに。
 弥生の一言によりしゅん、とした雰囲気で静かになる。
 
「お前、機械に対してもうちょい優しくしろよ……しょげてんぞ、こいつ」

 なんか可哀そうになってシートを撫でてあげるキズナ。
 正直どっちもどっちである。 

「なんかこう、虐めたくなるというか……」
「真司、俺……この戦い終わったら少し言動に気を付けようと思うんだ」

 明らかにキズナが影響しているという実例を目の当たりにして、何度目かわからない反省をして……キズナ弥生の元にに戻った。
 再び抜き放たれるために。
   

 
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