長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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誰が一番怖いか……わからせてあげるよ? 皆♪

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 ――真司の魔法が発動した頃――

 アークの強襲は弥生にとっても意外だった。
 しかし、まったく予想してなかったわけではない。自分の手駒を攻撃した……それだけで攻めると拡大解釈する可能性も十分考えられる。

 その場合はもう天災だと判断して……なりふり構わず国ごと放棄してとんずらする事もプランにはあった。
 あったのだが……

「……アレもぶっ壊します。いい加減あのニヤケ面も見飽きたので」

 座った眼差しで弥生が宣言する。

「文香、問答無用砲……お爺ちゃんとキズナたちに当たらない様に好きなだけ撃ちなさい」

 もはや端末は全部通話状態固定だ。
 
『わかったぁ!』
 
 指揮所の外で瞬く閃光。
 特大の一発が太く、まっすぐに戦場へと放たれる。

『あや?』

 光が静まった後、文香の戸惑う声が響く。

「防がれちゃった?」
『ぱーんって消えてまだ飛んでるー』
「じゃあそっちはお爺ちゃんと桜花さん達に任せて……手当たり次第に奥で飛んでる大きいのを的当て遊びしてて」
『はーい』

 気楽な声に乗って乱れ飛ぶ破壊の砲火が次々と戦場へ届けられていく……その有様はまるで。

「こ、この世の終わりみたいな光景ですね」

 望遠鏡で戦場の確認をしているオルトリンデの声が若干どころか完全に引いている。
 ついさっき、最後の弥生が出した『初めての命令』で指揮所が解体された。
 あれだけ準備に全力を込めていたのに丸ごと破棄してしまったのだ。

「オルちゃん」
「は、はい」
「後は任せるね? 私、あの目障りなゴミ屑を掃除して少し運動してくる」
「ど、どうぞ……」

 く、口が悪い。そう思いつつもオルトリンデさんは突っ込めない……自分だってさっき小動物相手に大人気ないところを見せてるし!!

「糸子さん、夜音ちゃん、ディーヴァが来ます。壊せますか?」
『多分オッケー』
『私の眷属全員集めてますから楽しい事になりますよ~』
「では頼みます……よし、行こうかな」

 すたすたと端末を一個掴み、元指揮所から出て弥生は歩く。
 そんな弥生の動線を邪魔しない様に行きかう人たちが壁に背を当て道を開いた。

「……(おっかねぇ!!)」
「……(誰だ監理官補佐怒らせた奴!! ここら辺全部焼け野原で済まないぞ!?)」

 恐怖、一番普段の弥生に似つかわしくないインパクトをまき散らしている。

「試作品、全部使っちゃお。どうせまた創るし」
「「「「「!?」」」」」
 
 ――終わった。
 ウェイランド、敵の手で破壊されるのではなく弥生さんの手で……物理的に終わるっぽい。

「桜花さん、聞こえます?」
『ほいほい?』
「アリスさんとクロノスさんの見立てまで後30分です。あのちょんぱ野郎の廃棄場所を固定してください」
『あいあい、じゃあ私とカタリナはお掃除組から一旦抜けるね~』
「はい、後……試作品全部使いますね。ちょっと流れ弾が行くかも、と騎士団の皆に謝っといてください」
『……全部?』
「全部」
『…………皆ぁ!! どこでもいい!! 今すぐ穴を掘って盾で塞いで籠りなさい!! 骨も残さず消えるわよ!! 戻れるなら国内に退避ぃぃぃぃ!!』

 端末の向こうで戦闘音に交じり悲鳴が上がる。
 おそらく必死でディーヴァの相手をしながらタコつぼを掘り始めたのだろう。
 あと10分、頑張って掘ってください騎士団の皆。

「さて、後は~♪ マリアベルにも頼んじゃおうかな?」

 鼻歌を歌いながら階段を下りる。
 焦る必要は無い、アレを起動させるまでの最短手順なら2分もいらない。
 そして個人的に友人関係を築いたあの貴族にも、お願いをしておこう。
 勝手に動くと言っていたがお願い位なら聞いてくれる。

「監理官補佐! キズナ護衛官と真司副ギルド長が……なんかすっごい速い乗り物でこちらへ向かってます!」
「早い乗り物? 氷雨さんと焔さんのアルマジロですか?」
「いえ、二人で乗ってる車輪が二つの乗り物です!」
「それ多分バイクって言う乗り物ですね……どこからバイク出したんだろう。まあいいや、ありがとうございます」 

 首をひねりながら階下に降りる。
 
「……と言うよりキズナってバイク乗れたんだ。じゃあ少しくらい範囲に入って巻き込まれてもちゃんと避けるよね」

 それが例え音速を超える弾丸でも。
 …………無理です。ついさっき奇跡を起こした弟さんの事など今の弥生ちゃんには記憶の隅っこです。

「ジェノサイド、居る?」

 ふと思い出して弥生の専属である大蜘蛛、ジェノサイドくんを呼ぶ。
 相変わらず小さくなって髪の毛の中にいるのがお気に入りなのか、ひょこっと顔を出して……弥生の顔を見るなり冷や汗を流しながら引っ込んだ。

「町の中に入って来たディーヴァ相手に暴れてきていいよ。私も暴れるから」

 ……はい。
 それ以外の答えは今言えない。あきらめたジェノサイドがきびきびと弥生の肩を伝い……窓際へ飛び乗って、ぼふん、といつもの大きさに戻り敵の迎撃に向かう。

「あ、そうだ」

 不意に弥生が声を上げた。
 何か追加オーダーでも? とジェノサイドが首だけ回すと……

「ジェノサイドは糸子さん組じゃなくて、秘書部だからノルマ1000ね?」
「…………(あ、これあかん)」

 聞かなかった事にして跳躍。
 
「ふんふん~♪ 悲鳴の一つも上げさせない~♪」

 不穏当な歌詞を鼻歌につけ始めた弥生が進む。
 どうしようもないとほったらかしにされているギルドの中庭にしまわれた浪漫に向かって。

「安全性なんてクソ食らえ~♪ 少しは私の悲哀も噛みしめろ~♪」

 弥生は危ないからと実践投入しなかった。
 しかし、それは安全に運用できるかできないかが分水嶺な訳であって……

「一度くらい十円ハゲ作って唖然としやがれ~♪」

 安全が確認できないからつかわない。そう決めただけだ。
 しかし、その考えを辞めた場合はその限りではない。

「じゃあ皆。死なないで敵を全滅させようね♪」

 無茶、弥生が初めて下した仲間への『命令』……それは。

 ――使えるものすべて使って、一機残らずぶっ壊してあいつらに地獄を見せろ。

 民度の高いウェイランドだからこそ成り立つ命令。
 ここから先は各自考えて命令を完遂せよ。と弥生が言っているのだと……わからせられたのだ。
 カタリナが感心するほどの練度とモチベーションが無ければただの烏合の衆だが……。

 各所で、現場で指揮を執る隊長や団長、アルベルト国王も。
 細かい指示など必要としないほど現場判断ができる……経験豊富な『大人』なのである。

「一回、好き勝手やってみたかったんだよね!」

 だから、後始末はお願いします。
 そう言って頭を下げる弥生に誰も『NO』と言えなかったのだ。
 よりによって、今この時……一番手加減とは縁遠い子に全権が渡ったのがウェランドの皆さんの運の尽きだった。

「理論上は……北海道の半分を焼け野原にできる。だったからいろいろ手を加えたんだよね♪ おっためし! おっためし!」

 理論上、で……つい数時間前に爆弾を超強化した人の安心できない言葉が木霊する。
 もはや隠す気がまるで無いので避難している民間人も数人、弥生の言葉と言うか調子はずれの歌の意味をわからされて前を急かす。

「誰が一番怖いか……わからせてあげるよ? 皆♪」

 最初に思い知るのは決まってるけどね♪ 弥生の脳裏に浮かぶのは金髪碧眼で口は悪いが一番優しくて、自分より胸が大きくなったらしい(文香がかなり控えめに教えてくれた)……こんちくしょうな親友の顔だった。


 ――うぇぇ!?
 ――どうしたの? キズナ姉。
 ――い、いや……いきなり悪寒が。

 無い無い尽くしの少女がブチ切れて始まる反撃。
 のほほんと窓から空を見上げる黒い空が早すぎる朝焼けを再現するまで、あと少しである。
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