長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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第三フェーズ ⑤ 終わりの悪夢

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 斬って、殴って、穿ち、撃ち抜き、走り……
 
「何機……落とせた?」

 折れた右腕を小太刀の鞘で無理やり括り、髪の毛の中に潜んでいる蜘蛛に糸で固定させる。
 すでに無事な所など探す方が難しい程……切り傷をさらし、もう一匹の蜘蛛が一生懸命その傷を糸で縫い繋ぎ出血を押さえようと奮闘していた。

「さっきので……32機、レコード記録だね。ハハ……」

 エキドナもずっとキズナに並走しながらその身を盾に、矛にして……敵を屠り続けている。
 偶然、ディーヴァの装備している自動小銃がセキュリティ処理をされてない事に気づき。相手の銃を奪いなりふり構わず戦ったおかげで……何とかなった。

「ママとパパに、自慢、できるかな」
「だねぇ……」

 その代わりバチバチと火花を上げるエキドナの左腕、肘から先は……32機目の大型航空戦闘機『ベルファゴール』撃墜のお供にくれてやってしまった。

「あと、どれくらい?」
「残念、まだ一時間も経ってない」
「……ちょ、ちょっと盛っちゃったかな」

 ついさっき、ウェイランドからの支援砲火と言う名のレンと文香のレーザーブレスが放たれた。
 その威力はすさまじく……最低でも離陸状態のベルファゴールと多脚戦車を巻き込んでかなりの数が撃墜できている。そのおかげでディーヴァや多脚戦車がキズナたちを見失い、ちょうど塹壕の様に開いた穴の中で小休止中だ。

「弥生がまだ僕らを生きてると思ってくれてるから、もうひと暴れだよ」

 こちらの生存は何とか把握してくれているのか、支援砲火が絶妙なタイミングと位置で飛んできてくれている。
 それもあって二人の命が繋がっていた。
 頷くキズナはのろのろとポケットの包み紙を開くがもらったガムはとうとう空っぽ。

「ガムは……もうないや」
「おいしかったねぇ」
「ね……美味しかった」
「行けるかい?」
「当然……こうなったら。三桁潰しでパパの記録塗り替えだよ」

 たった二人で数千の大型機を数パーセント撃墜、思わずエキドナが笑い出す。

「ははっ、まるで漫画のヒーローだね。無茶苦茶だ」
「そんな出来のいいものじゃないよ……肩書きはテロリストで十分」
「違いない……おっと、休みすぎちゃったか……連中が進路を変えようとしてる。文香とレンの問答無用砲は強いねぇ」

 キズナが小太刀を杖代わりにして立ち上がった。
 
「何発撃ってる?」
「今8発目……残り7発だね」

 レンと文香の問答無用砲は威力の代わりに消耗が激しい、しかも限界値になるまで疲労が肉体に反映されないためいきなり倒れる可能性があった。
 それだけに事前に決められた安全な回数以降は緊急時のみと決められている。

「一時間で八発、次の一時間で七発……最後の一時間は支援無しかぁ」
「ぼやかないぼやかない……」

 ギギ……

 重い腰を上げるエキドナの関節部もきしみを上げてせっかく整備したばかりの身体がすでにボロボロだった。
 
「じゃあ、行こう。まだまだやれるよね? 姉さん」
「生身の妹に心配されるなんてプライドがズタズタだぜ……」

 どう考えてもキズナの方が満身創痍なのにピンピンしてるのだ、ゆゆしき事態。
 これでは姉の威厳が、と見た目だけでもと動作を最適化するというズルを……

 ――がくんっ

「あっ!」

 キズナが思わず声を上げる中、エキドナが前のめりに倒れこむ。

「はは……情けねぇの。もう……キズナより弱くなっちゃった」
「馬鹿なこと言わないでよ。その身体スペアなんだから……」
 
 常人を軽く超える瞬発力に知覚、圧倒的な質量で重い打撃も……すでに打ち止めだ。
 無事な左腕でキズナが何とかエキドナを起こして立たせるが……バランスがとりづらい。

「だからこそ、だ。ほらほら動けポンコツ。もう少し頑張っておくれ」

 ギギッ……

「うん?」

 キズナがエキドナの眼の色が変わっている事に気づく。
 青い瞳が紫に変化している。

「姉さん、その眼どうしたの?」
「うん? 眼?」

 キズナの指摘で自分の眼球のチェックを行う。
 特に変わった点はないが……一個だけ。見たことのないアイコンがあった。

 どうやら自分が万が一機能停止に陥った時、自動で起動するプログラムらしい。

「こんなのだれが……」

 一応、任意で起動することもできる。
 どうせ壊れてしまう位なら……と起動した。

『緊急修復開始』

 左目の眼球が分解され、エキドナの生体パーツを通して全身に……EIMSの修復用ナノマシンが巡る。

「おおお!?」

 あっという間に失った左腕の先が短くなり、代わりに体内の部品の代替を生成。
 ゆがんだ骨格や可動部の再研磨、動作を優先させたプログラムの緊急最適化が始まった。

『一回限り、拾った命大事にね』

 角が尖る独特な字体で表示されたサインは……
 
「粋な事してくれんじゃん……桜花」

 おかげでまた戦える。
 しっかりと動く全身の様子を確認しながら感謝するエキドナ。
 そんなエキドナに、キズナが笑う。

「お揃いだね。姉さん」

 右目を失い、右腕が折れたキズナ、左目と左腕を失ったエキドナ。
 奇しくも鏡合わせの様に……

「ったく。こんな時まで笑える妹の社会復帰が大変だよ」
「弥生、怒ってるかな?」
「僕知らないからね。ちゃんと謝りなよ?」
「……うん」

 ジャコッ!!

 残り少ない弾丸を再点検して、キズナとエキドナは再び戦場へ繰り出す。

「第二ラウンド!」

 再び、絶望的な死地へ…… 
 それでも二人は、ウェイランドの……仲間の無事を確信していた。


 ――ィィィン!!


 そんな暗い戦場に、一際大きいタービン音が轟く。
 その音の正体は……今までのベルファゴールと違い……


「は?」


 エキドナがレーダーを確認すると。
 ベルファゴールの倍くらいの大きさの飛行物体が影として現れた。

『そっちから、攻めてきたからね? 迎えに来たよ』

 一番聞きたくない。
 微妙に甲高い声に……

「キズナ!! 戻れ!!」

 こちらを向く十二門の大口径機関砲……

「出たばっかだってのに!?」

 荒れ果て、遮蔽物などとうに無くなった戦場に……

『まずは、二人……と』

 文香の問答無用砲が全力で駆け抜ける。

 ――ヷシュゥゥ……

 直撃の寸前で半透明の何かにその閃光は吹き散らされた。

『くひひ……同じ手は。食わないよ』

 ただただ破壊のための過剰な弾幕は無慈悲に姉妹の頭上に降り注ぐ。
 冷たい鋼の戦慄を奏でながら。
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