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ウェイランド防衛戦! ⑧
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「で、連れてきちゃったんですか?」
「はい、何かに使えそうだったので……」
もきゅもきゅとパンをほおばる和服美人とどこから持ってきたのか度数の高いお酒をラッパ飲みする作務衣の男性、そして……
「ほんっとうについてないわ……なんだってまた鉄火場に飛ぶわけ!? 答えなさい! 無駄にエロいリス!!」
「知らないよ!? 術式に欠陥でもあるんじゃない!? 僕は開けて繋ぐだけ!! 何度言えばわかるのさ暴力反対!!」
青いリスの尻尾と頭を力いっぱい引っ張り大騒ぎする金髪の美少女、アリスである。
「相変わらずですね、アリス・マイスター……そしてここであったが百年目、クロノスもといエロリス……覚悟は良いですね?」
ラストが一応弥生に確認と言うか許可を貰おうと指揮所に彼らを連れてきたのだが、オルトリンデが猛烈な勢いで面会するとダッシュで駆け上がってきたのだ。
「やあ、オルトリンデ……毛は生えたかい?」
「死ね」
間髪入れずオルトリンデは肩で息を吸いながら紅い刃を纏う手斧を青いリスへ振り下ろす。
「みぎゃあ!? 何さ!! いきなり斬り付けるなんて動物愛護法って知ってるかい!?」
「黙れ、今から口を開いたら同じ文字数に斬り刻む」
「な、何をそんなに怒ってるんだい!?」
「…………私の下着を銅貨1枚で町の男性に売り払いましたね? しかも洗濯前」
「お、覚えてないなぁ?」
「寝ている隙にお尻から太ももにかけて覗いてください、ノーパンです。と書きましたね? しかも魔物大発生を鎮圧した祝賀会の演説の前日に」
「伝説の演説だったね! マジで気づかないとは僕も思わなかった! 眼福だね最前列! ひゅう!!」
「遺言はそれだけですね? ではさようなら」
むんず、と青いリスをひっつかんでオルトリンデはあらん限りの力を込めて大遠投を敢行した。
周りのみんなが『あ』と声を上げる中、青いリスは風をきって遠い何処かへ消えていった。
「ふう、悪は滅びました。では弥生、引き続き頼みます」
何事も無かったかのようにオルトリンデが踵を返す。しかし、その瞬間指揮所内がざわめく……
「お、オルちゃん」
「はい?」
オルトリンデの背中には一枚の布切れが括り付けてあった。
しかもご丁寧に『本日のご褒美、今まで履いてました。まだ毛が生えないのが悩みです』……そう書いてあるメモが一緒に。
「け、結構大胆だね」
「良いんです、あのリスは百害あって一利なし。特に貴方達には絶対に関わらせたくありません」
違う、そうじゃない。と言いたいが怖くて誰も指摘できない。
「そ、そうなんだ」
「あれでしばらくは静かなはずです、戻ってきたらカタリナ。許可しますので息の根を止めなさい」
「い、イエスマム」
そのまま何事も無かったかのようにオルトリンデは避難の指揮に戻る。
数分後、絶叫と共に泣き喚くことになると全員が悟っていたが……誰も指摘できなかった。
「いやぁ、相変わらずだねあの幼女。ためらいなく僕を始末しようとしたよ」
「当たり前じゃない。きっとまた怒鳴り込んでくるわよ?」
「次はブラジャーにしようかな」
「まあいいけど、元気そうだったわねオルトリンデ……挨拶すらできなかったけど」
外に投げ出されたはずのクロノスがちょこんとアリスの頭に寝そべる。
「どうなってるんです?」
「ああ、ごめんごめん。あたし前にここで魔物の大発生があった時居合わせてるの……この青いリスが時と空間を司る神様の欠片でね。元の世界に戻ろうと思ってたんだけど……失敗して今から二か月前に飛んだの」
「で、僕らと合流したって訳。すごいね神様の欠片って時間止めてあの子のパンツ丁寧に脱がせて背中に張ったよ……うらやましい使い方だねぇ。はっはっは」
呆れた様子で弥生が二人の説明を整理する。
「訳が分からない事ばかりですけど。とりあえず無事でよかったです……詳しく説明したい所ですけど今は御覧の通りなのでここの地下通路を使って南に避難を……」
悪い人たちではなさそうだが、今はそれどころではない。
「弥生様、私は御姉様と合流して第三フェーズに編入しますが……良いですか?」
「あ、はい……連戦で申し訳ないですが」
「ご安心を、いい準備運動になりました」
カタリナは早々に弥生に対応を丸投げして、第三フェーズの準備に入る為部屋を出て行った。
逃げたともいう。
「ふわぁ! おなかいっぱいですぅ」
もくもくとパンや焼いただけのソーセージを平らげた雪菜が幸せそうに満腹を宣言する。
今までの何もかもを緩めるかのような声音に思わず指揮所も笑顔がこぼれた。
「よかったです。じゃあ早速避難を……」
「あ、私とぬらりさんは大丈夫ですよ。夜音ちゃん達に会えれば」
「その二人も下なんです。住民の避難を手伝ってくれてて」
「そっかそっか、じゃあ僕らもそれを手伝おうかな。かぜっぴきの女将さんでもあの黒い人形……ディーヴァだっけ? 凍らせるくらいはできるから」
そう、こんなにのんびり話ができる理由は雪菜の力の御蔭だった。
何せ閉じた北門を分厚い氷の壁で覆ってくれたのだ。周りの城壁も国内でありったけ集めた油を流したためディーヴァが上ろうとしても登れない。
最高の形で籠城戦……第三フェーズに移れたのだ。
「ありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいか」
「いーのいーの。袖すりあうも他生の縁だしね……良いよね雪菜ちゃん」
「はい、もちろんいいですよ!」
なんでも風邪が治りかけと言う事であんまり派手な事は出来ないらしいが、凍らせることには一級品だと豊かな胸を張る彼女に助力をしてもらえるなら弥生としても助かる。
「じゃあ、お願いします……」
この時弥生は気づけなかった。
ぬらりひょんの持つ『いて当たり前』という特性に欺かれ。
一年前、己が誰の何でどうしたのかを思い至れなかったのだ。
「はいはーい。じゃあ行くよアリスちゃん。雪菜君、そこの青いリス君もだ」
「僕また襲われると困るからアリスの服に潜っておくね」
「パンツの中はやめてよね……せめて背中とか」
「え、普通にお腹辺りに潜るよ……」
「……微妙に何言ってんの、っていう顔止めない? ついうっかり沈めたくなるわ」
そんな三人と一匹を書記官の一人に案内を任せて弥生は改めてプランを確認する。
「アルベルト陛下良かった……損失は、重傷者2名。まだ死者は無し……」
「しぶとさが近衛騎士団の特徴ですからね。次は秘書部の出番ですか?」
指揮の補佐をしてくれる一級書記官が弥生の隣に歩いてきた。
しぶとい、とは言ったものの少なからず損失と言う名の死者が出ると思ってただけに現在の状況に胸をなでおろしている。
「うん、でも……またみんなが無事とは限らないから」
「弥生監理官補佐?」
「え?」
「大丈夫ですか?」
かりり、と親指の爪を齧り始めた弥生に書記官が声をかけた。
そんな彼の視線の先に気づいて弥生は慌てて右手を下げる。知らず知らずのうちにやっていたようだ。
「ごめんなさい、大丈夫です」
「今まで実戦は……無いですもんね。無理も無いです」
「すみません……なんかさっきから胃が重たいというか」
「万が一無理だと思った時は……」
「時は?」
「私たちに任せて避難を、良いですね?」
「……でも」
「それでも、この魔物大発生は確実に鎮圧できます。あなたはそれだけの準備を私たちにしてくれてますから」
だから、安心してくれ。
弥生を中心にして指揮所の全員が笑う。
「……はい!!」
崩れてもいい、倒れようとも。
「とか言いつつ、最後までやっちゃうんだろうなあ」
「あるあるだな。俺たちの見せ場もあると良いんだが」
みんなが居る。
「聞こえてますよ! もう!! 時間が稼げた分だけ騎士団の再編成がしっかりできるんです。次は……」
弥生は端末を操作して、キズナを呼び出す。
数回のコール音のあと……キズナから即座に不満げな声が端末を通して漏れ出た。
『待たされ過ぎて昼寝しちまってた。出番か?』
スピーカーモードで共有されるその声に、全員から笑い声が上がる。
『あ? なんだ? 変なこと言ったか俺』
「ううん、そんなことないよキズナ。いつも通り過ぎて笑っちゃっただけ」
『ったく、お前らきょうだい以外はこんなの慣れっこだぜ。平気かボス』
「ちょっと、辛いかな」
素直に弱音をキズナに伝える弥生、そんなか細い声にキズナは笑い。
端末の向こうに控える洞爺に声をかける。
『聞いたか爺さん、これが、普通の、女子高生の、反応、だ』
一言づつ区切り、念を押しながら洞爺へ伝えるとバタバタ足音を響かせてだみ声が響く。
『なんじゃと!? 大丈夫か弥生の嬢ちゃん!! 今からでも遅くない、あの性悪監理官に代わって真司と文香を連れてレンに南へ送ってもらうのじゃ!!』
「あは」
まったく、なんだみんなして。とっくに自分の事などしっかり見ていてくれてるではないか。
そう思うと弥生はなんだかいろいろ馬鹿らしくなった。
『何とか言ってやってくれ弥生、嬢ちゃんなら大丈夫だとか言っててこの爺さん貧乏ゆすり続けててうっとおしいんだ』
「大丈夫、もうすぐ出番だよ皆! ノルマは一人1000体! 一番遅かった人は全員に焼肉おごりだからね!」
『そしたら姉貴のおごりで決定だな。弥生、この国で一番高い焼肉屋は?』
間髪入れず、弥生は応える。
「アルベルト陛下の晩餐会でずっとメインシェフをやってるお店」
『ちょっと聞き捨てならないよ!? 愚妹!! 弥生!? 君ら僕を破産させる気かな!?』
「金貨何枚必要か怖くて計算したことないんです」
『弥生が怖くなるような金額!! 僕の身体を物理的に売却しても足りそうにないじゃんか!?』
『その身体、売れんの? 夜中とかわきゃわきゃ動き出しそうで……あ、お化け屋敷に使えるか』
『おいこら愚妹、今からちょっと本気でおねー様と話さないか?』
「金貨6枚でした」
『『……え?』』
「金貨6枚」
『『……………………(こいつ、鑑定に出した。だと?)』』
「じゃあ皆! 張り切って行こう!! 終わったら……」
『宴会だ。派手にやろうぜ』
「それ私のセリフ!」
『しらねぇよ、そろそろお前の言う事予想がつき始めたんだ。後でな、悪友』
――プツッ
唐突に切れた通話に、弥生が唖然としつつも……
「へへ……後でね親友」
にへら、と笑みが浮かぶ弥生の顔はいつもの表情だった。
かくしてウェイランドの秘書部が満を持して、戦場に本格投入される。
「はい、何かに使えそうだったので……」
もきゅもきゅとパンをほおばる和服美人とどこから持ってきたのか度数の高いお酒をラッパ飲みする作務衣の男性、そして……
「ほんっとうについてないわ……なんだってまた鉄火場に飛ぶわけ!? 答えなさい! 無駄にエロいリス!!」
「知らないよ!? 術式に欠陥でもあるんじゃない!? 僕は開けて繋ぐだけ!! 何度言えばわかるのさ暴力反対!!」
青いリスの尻尾と頭を力いっぱい引っ張り大騒ぎする金髪の美少女、アリスである。
「相変わらずですね、アリス・マイスター……そしてここであったが百年目、クロノスもといエロリス……覚悟は良いですね?」
ラストが一応弥生に確認と言うか許可を貰おうと指揮所に彼らを連れてきたのだが、オルトリンデが猛烈な勢いで面会するとダッシュで駆け上がってきたのだ。
「やあ、オルトリンデ……毛は生えたかい?」
「死ね」
間髪入れずオルトリンデは肩で息を吸いながら紅い刃を纏う手斧を青いリスへ振り下ろす。
「みぎゃあ!? 何さ!! いきなり斬り付けるなんて動物愛護法って知ってるかい!?」
「黙れ、今から口を開いたら同じ文字数に斬り刻む」
「な、何をそんなに怒ってるんだい!?」
「…………私の下着を銅貨1枚で町の男性に売り払いましたね? しかも洗濯前」
「お、覚えてないなぁ?」
「寝ている隙にお尻から太ももにかけて覗いてください、ノーパンです。と書きましたね? しかも魔物大発生を鎮圧した祝賀会の演説の前日に」
「伝説の演説だったね! マジで気づかないとは僕も思わなかった! 眼福だね最前列! ひゅう!!」
「遺言はそれだけですね? ではさようなら」
むんず、と青いリスをひっつかんでオルトリンデはあらん限りの力を込めて大遠投を敢行した。
周りのみんなが『あ』と声を上げる中、青いリスは風をきって遠い何処かへ消えていった。
「ふう、悪は滅びました。では弥生、引き続き頼みます」
何事も無かったかのようにオルトリンデが踵を返す。しかし、その瞬間指揮所内がざわめく……
「お、オルちゃん」
「はい?」
オルトリンデの背中には一枚の布切れが括り付けてあった。
しかもご丁寧に『本日のご褒美、今まで履いてました。まだ毛が生えないのが悩みです』……そう書いてあるメモが一緒に。
「け、結構大胆だね」
「良いんです、あのリスは百害あって一利なし。特に貴方達には絶対に関わらせたくありません」
違う、そうじゃない。と言いたいが怖くて誰も指摘できない。
「そ、そうなんだ」
「あれでしばらくは静かなはずです、戻ってきたらカタリナ。許可しますので息の根を止めなさい」
「い、イエスマム」
そのまま何事も無かったかのようにオルトリンデは避難の指揮に戻る。
数分後、絶叫と共に泣き喚くことになると全員が悟っていたが……誰も指摘できなかった。
「いやぁ、相変わらずだねあの幼女。ためらいなく僕を始末しようとしたよ」
「当たり前じゃない。きっとまた怒鳴り込んでくるわよ?」
「次はブラジャーにしようかな」
「まあいいけど、元気そうだったわねオルトリンデ……挨拶すらできなかったけど」
外に投げ出されたはずのクロノスがちょこんとアリスの頭に寝そべる。
「どうなってるんです?」
「ああ、ごめんごめん。あたし前にここで魔物の大発生があった時居合わせてるの……この青いリスが時と空間を司る神様の欠片でね。元の世界に戻ろうと思ってたんだけど……失敗して今から二か月前に飛んだの」
「で、僕らと合流したって訳。すごいね神様の欠片って時間止めてあの子のパンツ丁寧に脱がせて背中に張ったよ……うらやましい使い方だねぇ。はっはっは」
呆れた様子で弥生が二人の説明を整理する。
「訳が分からない事ばかりですけど。とりあえず無事でよかったです……詳しく説明したい所ですけど今は御覧の通りなのでここの地下通路を使って南に避難を……」
悪い人たちではなさそうだが、今はそれどころではない。
「弥生様、私は御姉様と合流して第三フェーズに編入しますが……良いですか?」
「あ、はい……連戦で申し訳ないですが」
「ご安心を、いい準備運動になりました」
カタリナは早々に弥生に対応を丸投げして、第三フェーズの準備に入る為部屋を出て行った。
逃げたともいう。
「ふわぁ! おなかいっぱいですぅ」
もくもくとパンや焼いただけのソーセージを平らげた雪菜が幸せそうに満腹を宣言する。
今までの何もかもを緩めるかのような声音に思わず指揮所も笑顔がこぼれた。
「よかったです。じゃあ早速避難を……」
「あ、私とぬらりさんは大丈夫ですよ。夜音ちゃん達に会えれば」
「その二人も下なんです。住民の避難を手伝ってくれてて」
「そっかそっか、じゃあ僕らもそれを手伝おうかな。かぜっぴきの女将さんでもあの黒い人形……ディーヴァだっけ? 凍らせるくらいはできるから」
そう、こんなにのんびり話ができる理由は雪菜の力の御蔭だった。
何せ閉じた北門を分厚い氷の壁で覆ってくれたのだ。周りの城壁も国内でありったけ集めた油を流したためディーヴァが上ろうとしても登れない。
最高の形で籠城戦……第三フェーズに移れたのだ。
「ありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいか」
「いーのいーの。袖すりあうも他生の縁だしね……良いよね雪菜ちゃん」
「はい、もちろんいいですよ!」
なんでも風邪が治りかけと言う事であんまり派手な事は出来ないらしいが、凍らせることには一級品だと豊かな胸を張る彼女に助力をしてもらえるなら弥生としても助かる。
「じゃあ、お願いします……」
この時弥生は気づけなかった。
ぬらりひょんの持つ『いて当たり前』という特性に欺かれ。
一年前、己が誰の何でどうしたのかを思い至れなかったのだ。
「はいはーい。じゃあ行くよアリスちゃん。雪菜君、そこの青いリス君もだ」
「僕また襲われると困るからアリスの服に潜っておくね」
「パンツの中はやめてよね……せめて背中とか」
「え、普通にお腹辺りに潜るよ……」
「……微妙に何言ってんの、っていう顔止めない? ついうっかり沈めたくなるわ」
そんな三人と一匹を書記官の一人に案内を任せて弥生は改めてプランを確認する。
「アルベルト陛下良かった……損失は、重傷者2名。まだ死者は無し……」
「しぶとさが近衛騎士団の特徴ですからね。次は秘書部の出番ですか?」
指揮の補佐をしてくれる一級書記官が弥生の隣に歩いてきた。
しぶとい、とは言ったものの少なからず損失と言う名の死者が出ると思ってただけに現在の状況に胸をなでおろしている。
「うん、でも……またみんなが無事とは限らないから」
「弥生監理官補佐?」
「え?」
「大丈夫ですか?」
かりり、と親指の爪を齧り始めた弥生に書記官が声をかけた。
そんな彼の視線の先に気づいて弥生は慌てて右手を下げる。知らず知らずのうちにやっていたようだ。
「ごめんなさい、大丈夫です」
「今まで実戦は……無いですもんね。無理も無いです」
「すみません……なんかさっきから胃が重たいというか」
「万が一無理だと思った時は……」
「時は?」
「私たちに任せて避難を、良いですね?」
「……でも」
「それでも、この魔物大発生は確実に鎮圧できます。あなたはそれだけの準備を私たちにしてくれてますから」
だから、安心してくれ。
弥生を中心にして指揮所の全員が笑う。
「……はい!!」
崩れてもいい、倒れようとも。
「とか言いつつ、最後までやっちゃうんだろうなあ」
「あるあるだな。俺たちの見せ場もあると良いんだが」
みんなが居る。
「聞こえてますよ! もう!! 時間が稼げた分だけ騎士団の再編成がしっかりできるんです。次は……」
弥生は端末を操作して、キズナを呼び出す。
数回のコール音のあと……キズナから即座に不満げな声が端末を通して漏れ出た。
『待たされ過ぎて昼寝しちまってた。出番か?』
スピーカーモードで共有されるその声に、全員から笑い声が上がる。
『あ? なんだ? 変なこと言ったか俺』
「ううん、そんなことないよキズナ。いつも通り過ぎて笑っちゃっただけ」
『ったく、お前らきょうだい以外はこんなの慣れっこだぜ。平気かボス』
「ちょっと、辛いかな」
素直に弱音をキズナに伝える弥生、そんなか細い声にキズナは笑い。
端末の向こうに控える洞爺に声をかける。
『聞いたか爺さん、これが、普通の、女子高生の、反応、だ』
一言づつ区切り、念を押しながら洞爺へ伝えるとバタバタ足音を響かせてだみ声が響く。
『なんじゃと!? 大丈夫か弥生の嬢ちゃん!! 今からでも遅くない、あの性悪監理官に代わって真司と文香を連れてレンに南へ送ってもらうのじゃ!!』
「あは」
まったく、なんだみんなして。とっくに自分の事などしっかり見ていてくれてるではないか。
そう思うと弥生はなんだかいろいろ馬鹿らしくなった。
『何とか言ってやってくれ弥生、嬢ちゃんなら大丈夫だとか言っててこの爺さん貧乏ゆすり続けててうっとおしいんだ』
「大丈夫、もうすぐ出番だよ皆! ノルマは一人1000体! 一番遅かった人は全員に焼肉おごりだからね!」
『そしたら姉貴のおごりで決定だな。弥生、この国で一番高い焼肉屋は?』
間髪入れず、弥生は応える。
「アルベルト陛下の晩餐会でずっとメインシェフをやってるお店」
『ちょっと聞き捨てならないよ!? 愚妹!! 弥生!? 君ら僕を破産させる気かな!?』
「金貨何枚必要か怖くて計算したことないんです」
『弥生が怖くなるような金額!! 僕の身体を物理的に売却しても足りそうにないじゃんか!?』
『その身体、売れんの? 夜中とかわきゃわきゃ動き出しそうで……あ、お化け屋敷に使えるか』
『おいこら愚妹、今からちょっと本気でおねー様と話さないか?』
「金貨6枚でした」
『『……え?』』
「金貨6枚」
『『……………………(こいつ、鑑定に出した。だと?)』』
「じゃあ皆! 張り切って行こう!! 終わったら……」
『宴会だ。派手にやろうぜ』
「それ私のセリフ!」
『しらねぇよ、そろそろお前の言う事予想がつき始めたんだ。後でな、悪友』
――プツッ
唐突に切れた通話に、弥生が唖然としつつも……
「へへ……後でね親友」
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