長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ウェイランド防衛戦! ⑥ 大罪の終わりを名乗る者

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 前線のアクシデントを弥生は即座に把握した。
 まさかと思ったが相手は想像以上に脳筋らしい……しかもちょうどこちらが狙ったタイミングに合わせる様に仕掛けてきたのが気に入らない。

「近衛騎士団の退路を確保します。治療班はそのまま待機、アルベルト陛下が重傷です。医療魔法士は総員準備!」

 伝令用の筒を掴んで弥生は手早く指示を出す、同時に秘書部共有の端末を操作して桜花とカタリナへ通話を始めた。
 数回のコール音の後、桜花の声が端末から届く。

『見ているわ、多脚戦車が21機……こいつらが邪魔で近衛騎士団が戻れない』
「カタリナさんに多脚戦車の排除をお願いしたいです。強襲プランは破棄、退路の確保を最優先で」
『それしかないわね。新任務了解、これより聖銀の姉妹は旧任務を破棄。友軍の退路を確保する』
「了解。気を付けて」

 周りのギルド員もなかなか聞かない弥生の本気の声音、いつもは気の抜ける様な緩い弥生の言葉が今は研ぎ澄まされ……有無を言わさぬ力強さに満ちていた。

『ありがとう、カタリナが420秒寄こせって……それで十分だそうよ』
「プラスで2分、多脚戦車の制圧も可能ですか?」
『それ込みで、よ。聖銀の姉妹、90秒後に状況開始する』

 頼もしい桜花の声で通話は一方的に切れる、だが、そのほんの一瞬前。

 ――お任せを

 いつもと変わらぬ低めの声で、銀髪のメイドは届けた。
 弥生の思いに応える思いを。

「皆! 桜花さん達が退路を確保するまであきらめないでと近衛騎士団に通達! 同時に直上で観測任務中の空挺騎士全員を一時退避命令! 掠っただけで死ぬかもしれないって急がせて!」

 即座に連絡要員がそれぞれの連絡先に弥生の要請を伝える。

「ここから先は……失敗できない。がんばれ私……」

 そんな中、僅かに……ほんの僅かにではあるが……確実に心をすり減らす弥生の心の限界値は……近かった。

 

 ◆◇―――◆◇―――◆◇―――◆◇



「420秒でいいの?」

 上空10000メートル、通話を切った桜花とカタリナは北門上空をEIMSで航行していた。
 もちろん生身では不可能な高度なので、桜花はしっかり酸素マスク付きのヘルメットや防寒装備を整えてカタリナを背中に背負っている。
 すさまじい風圧と極寒の大気の中、相変わらずのメイド服と骨伝導イヤホンマイク。
 そして……

「一機当たり20秒、なかなかやりごたえがありますね。12.7ミリの対艦狙撃砲……徹甲弾で良かったです」

 がちゃり、と安全装置のロックを解除してスライドボルトを引く。
 普通であれば3から4人で運搬し、地面や床にアンカーボルトで固定して初めて発砲するような馬鹿げた兵器。それを彼女は個人で持ち出してきた。

「榴弾だったら手詰まりだったわ……信管抜いて使っても危ないし」
「ですね」
「それにしても……ずいぶん乗り気じゃない、あんた」
「ええ、乗り気ですよ御姉様……人を撃つ訳じゃありませんので引き金も軽いです」

 普段であれば、淡々と命令に従うのがカタリナだが……今回の弥生の出した任務には食い気味で乗ったのだ。
 桜花でも戦闘絡みではここまで義妹が積極的に動くようにするのは中々難しい。
 その答えをカタリナは義姉から顔が見えないのをいい事に、珍しく八重歯を覗かせてどう猛な笑みを浮かべて呟く。

「ウェイランドの兵は良き兵です。判断も早いし、何より……」
「なにより?」
「最後の一兵まで敵と戦う気概は……我々、レヴィヤタンと通じるものがありますから」

 だからこそ、カタリナは敬意を惜しまない。
 近衛騎士団は戦力差を理解しつつも戦略でカバーし、それを相手が上回ってもあきらめず。
 最後の最後まで全力を尽くそうとあがいていた。
 
「そういえば、そうね」

 桜花も懐かしむように思い出す。
 カタリナも、その仲間たちも……圧倒的物量と逆境の中でも笑いながら死地へ飛び込んだ。
 そのおかげで自分がここに居る事を思い出し、義妹の言葉を反芻する。

「誰に反旗を立てたのか、わからせてやりましょう。御姉様」
「ま、後始末みたいなもんよね。準備は良い?」
「ええ、そろそろ90秒経ちます。一時、メイドとしてお暇をいただきますね」

 カタリナはトレードマークのホワイトプリムを外して空へ遊ばせる。
 ここから先は桜花の義妹、変態奴隷メイドのカタリナをお休みだ。

「肯定、任務の復唱を……」

 桜花も、今からは彼女のサポーターとして全力を投じる時間。

「任務復唱、ウェイランド近衛騎士の退路確保。排除対象は進路上の多脚戦車21機」

 背中に備えた弾丸は一弾倉六発入りを7つ、一機相手に二発までしか許されない。
 落下速度はすぐに秒速100メートル近くなるだろう。

「任務復唱了解、投下する」
「了解、これより対魔王強襲独立部隊……レヴィヤタン隊長『ラスト』、出撃する」
 
 ぐるりと天地反転した桜花の背から、カタリナが解き放たれる。
 あっという間に上がる落下速度と身体をもてあそぶ突風、そんな中……カタリナは乱戦で入り乱れる敵と味方の間を縫って、垂直射撃を自由落下中にやり遂げなければいけない。

「さて……」

 かつて、人の身でありながら魔王に挑んだ大罪の中でも『色欲』を関する兵士。
 ラスト……しかし、その名は親しい仲間から別な意味で呼ばれた。
 風も、重力も、その身を捉えて破滅へと導く自由落下の中。
 さらなる破壊と理不尽でねじ伏せる……終わりラストという意味で。

「第一目標確認」
 
 その銃の大きさに反してあまりにも軽い引き金は引かれるのだった。
 風の通り過ぎる音で支配されたカタリナの鼓膜をさらなる轟音が叩く!

 スコープもなく……ただただ基本の装備だけで狙いをつけた口径12.7mmの弾丸は音速を超え、風に進路を歪められ、それでもなお、重力を味方にして。
 勇敢にも禁忌武装を振るい、生身で多脚戦車に挑む近衛騎士団の隊長を救うべく。
 最も装甲が固い頭のてっぺんから串刺しにして……問答無用に破壊した。

「次……」

 きっかり420秒、カタリナ……いや、ラストが地面を陥没させて着地するまでに近衛騎士団と北門の間に居た多脚戦車は全滅する。
 弾丸を21発残したまま。
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