長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ウェイランド防衛戦! ④

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「行けるぞ、押し返せ!!」

 二列で横に広がった近衛騎士団は強かった。
 前の列が大盾を構えて前進、後列の騎士がタイミングを合わせて一斉に盾の隙間から覗いたディーヴァを正確に刺し貫く。
 シンプルだがそもそも耐久戦や持久戦ではいかに戦力の損失を防ぐかがポイントで、徹底的に基本を極めんとしたウェイランドの練度は場当たり的なディーヴァには効果がてきめんだった。

「陛下! 今です!」

 それに、動きを止めたディーヴァの前線を猛烈な勢いで切り刻んでいく辻斬りが戦場に発生している。

「おらおらおらおらぁ!」

 輝きを増す両刃の長剣を振るい、目に映る黒一色の人形を跳ね飛ばし、切り伏せ、刺し貫き、蹴り砕く青年が大活躍だった。
 そう、精悍な顔つきで黒髪、若々しい動きでディーヴァの大群を荒らしまくるアルベルトである。

「すげぇ……」

 盾でディーヴァの進軍を止める騎士の一人があっけにとられたように言葉をこぼした。
 何せ速度が段違いに速い、ディーヴァが跳躍してこちらを超えようとしても空中にいる間にアルベルトは叩き落すのだ。
 敵軍の合間を縫うように、なんて綺麗な戦い方ではない。

 まるで小型の台風の様に気の向くまま、騎士団が決めた戦線を片っ端から往復を繰り返していた。

「アルベルト陛下ってあんなに強かったのか」
「バステト隊長といい勝負だと思ってたら……桁違いじゃないか」

 アルベルトが通り過ぎた後は、数秒体勢を立て直す貴重な時間が作れる。
 その間に前列と後列を入れ替えたり、倒し損ねたディーヴァの止めをしっかりと刺すことができていた。自然とアルベルトの行方を把握しようとする騎士がどんどん増えていく。

「よそ見をするな!! 来るぞ!!」

 叱責して気合を入れなおす隊長格の騎士も、そうはいってもアルベルトの行動に目が離せなかった。

「はい!!」
「イエッサー!!」

 アルベルトが空けた空間にすぐさま潜り込んでくる鋼の殺人人形は物言わぬ瞳……いや、目が無かった。のっぺりとした仮面をつけているかのような頭部で不気味だが、騎士達は自分たちの攻撃が、戦法が通用すると解れば冷静に戦えている。

「もうすぐ一時間、可能な限り減らすぞ!!」

 最初から弥生の決めた時間は1時間、まずその時間を稼ぐことが近衛騎士たちの最初の仕事だ。
 猛烈なディーヴァの進軍をどれだけ食い止めるかで、ここからの戦闘の難易度がまるで変るのだから。

「左舷! 崩れます!!」

 そうはいっても相手だってもはや何の手加減もしてくれない、僅かにでも疲弊した部隊を無言で把握し群がっていくのである。今も運悪く数名が離脱して押し返すことができない左側の部隊にディーヴァが一気に集まる数が増えていった。
 本来であればそこを放棄して残りの部隊でカバーするのだが……

「いや、陛下が行った! 目の前に集中!!」

 アルベルトが即座に進路を変えて左舷のディーヴァを軒並み蹴散らす。
 その間に後方の部隊が追いつき、前線を立て直した。

 この場においてアルベルトの存在が非常に貴重となっている。
 それに、そもそも今回攻撃役が槍を選択しているのも効果的で弥生の采配と判断が十二分に生きていた。このままなら間違いなく一時間でも二時間でも、騎士団の疲労が限界を迎えない限りは維持できるだろう。

「正面!! 敵の後方部隊見えます!!」

 観測役の人員が望遠鏡を構えながら声を張り上げる。
 その部隊の隊長がその声を拾い、目を凝らして前を見ると……八本の足を動かし、二体で一つの荷物を牽く大きな蜘蛛が居た……金属の光沢を持ち、薄緑色になっていて背景に同化していて見づらいが……確かに居た。

「予想より早い……信号弾を上げろ!! フェーズ2に移るぞ!!」

 隊長が声を張り上げると、そこらかしこで同じように中型の多脚戦車を発見したのであろう。
 紅い信号弾が空へと向けて放たれた。

 それと同時に近衛騎士の防衛陣がじわりじわりと北門に向けて下がり始める。

「アルベルト陛下は……」

 本来ならとっくに下がっているはずのアルベルトを探して隊長は戦場を見渡す。
 どうせ派手に音がしていたりディーヴァが空を舞っているあたりにいるだろうと見当をつけて、先ほどまでいた左舷側に視線を向けると……

「あれ?」

 左舷側の部隊の一つが崩れていた。
 立て直して安定していたはずなのに周りの部隊に助けを求めて、バタバタと撤退していく……

「隊長! 下がりますよ!!」
「あ、ああ……」

 見たところ犠牲者もいなさそうだ、疑問はあれどまずは自分の部隊を安全に下げさせなければならないので頭を切り替えて指揮に専念する。

「左舷の部隊より通達、地面からディーヴァの強襲有り! アルベルト陛下が負傷!」

 ウェイランドの近衛騎士は強い。
 しかし、戦線を維持し続けていられたもう一つの理由は……

「地面だと!? まさか……」

 嫌な予感がする隊長が振り返ると、確保してあった自分たちと北門の間の地面から……

 ――ボコリ
――ボコリ
 ――ボコリ

 ――ボコリ    ――ボコリ

「……しまった!!」

 怒涛の様に突っ込んできていたディーヴァ、しかし、それはあくまでも氷山の一角。
 戦うために作られた機械は効率の良い攻め方を常に選んで行動する。

 正面から突っ込んでも壊せない、突破できないとなれば……迂回しかない。

「防衛陣! 変更! サイドアタックだ!! 装備を変えろ!!」

 後衛の騎士たちが一斉に振り返り、地面からはい出しつつあるディーヴァを確認した。

「周りの部隊へも共有!! 撤退は無しだ!! 我々近衛部隊はこれより殲滅戦へ移行!! 殲滅戦へ移行!! 黒の信号弾を上げろぉぉ!!」

 黒の信号弾……それは『撤退不可、救援不要』を表す。

 ――ズガァァァァァン!

 地面を割り砕いて……多脚戦車が十数機、素晴らしい奮闘を見せた近衛部隊に主砲を向けていたのだから。

「モグラじゃあるまいし……反則だろそれ」

 戦場の全ての騎士が思ったその言葉を彼は代弁した。
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