長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ウェイランド防衛戦! ③

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「オルちゃん! お待たせっ!」

 ジェミニが直接統括ギルド三階、作戦指揮所と化した弥生の執務室の窓に横付けして弥生を送り届ける。中ではオルトリンデをはじめとする今回の作戦で連絡員を務める者、万が一の場合に備えて三名の騎士が常駐していた。

 窓を開けて中に入る弥生はさっそく部屋の中央に設置された机に向かい、オルトリンデに声をかける。オルトリンデも忙しなく手元のノートに書きこむ手を止めて弥生をねぎらった。

「前線はどうなってます?」
「それが、なんか微妙な事が起きてるっぽい。特にアルベルト陛下」
「……何をしでかしたんですか?」
「わかんない……けど、禁忌武装でディーヴァを吹っ飛ばすタイミングがちょっと遅かった」

 結果的になぜか二回、閃光と轟音が聞こえたので何とかなったっぽいが……その途中で失敗の印である信号弾が上がったりした。
 その時はさすがの弥生も焦ったが、数分立たない内に続行の信号弾も上がる。
 
「まあ、不具合の一つでも起きて当たり前の状況です。それに失敗してても止められないですからね……バステト団長も頼りになりますし、任せましょう」
「お、落ち着いてるね?」
「どうせ死ぬ時は死ぬんです。上手く行けば第二の人生を送れる実例がそこにいるじゃありませんか」
「だねぇ……」

 オルトリンデがほら、と指をさす先にはふよふよと浮かぶ獣人の女性。

「起きたら死んでたんだよ? 人生って儚いね」
「確率的には高いって聞いてましたけど……イストさん、爆速覚醒でしたね」
「普通は数年かかるのに、運が無かったですねイストは」

 今の状況で騎士の不死族が増えるのは諸手の大歓迎なので、当たり前のように作戦に組み込まれた人である。

「割と本気で十年くらい経ってるかと思ったら……ついこの間お葬式だったと言われる私、プライスレス」
「こんな状況じゃなければお祝いの一つでもできるんですが……先ずはキリキリ働きましょう! イストさん!」
「そうですよ、まずは働いて生活を安定させなければお祝いの一つもできないんです。頼みますよイスト」
「弥生ちゃんがブラック体質なのはオルトリンデ監理官がぜーーーったい! 影響してると私思うからね!?」

 うんうん、と周りの人たちもイストに同意である。
 似た者上司すぎるんだもん、言い回し変えてるだけで同じこと言ってるもん、この監理官と監理官補佐。

「「一日一業務!」」
「良いから指揮を執ってください!? もうすぐ住民の避難開始ですよ!!」
「「あ、はい!」」

 こういう時にちゃんと指摘できる部下がいる統括ギルド、とってもいいですよね。
 国ごと亡びるかの瀬戸際だけど!!

「弥生、ここから先は貴女が指揮官です。でも、周りを存分に頼りなさい……私が貴方に任せたんだから、思いっきりやりたいようにやりなさい。良いですね?」

 ギルド制服のベストを軽く手で整え、オルトリンデは笑う。

「もちろん! 後腐れ無いように終わらせるよ!」

 親指をぐっと立てて弥生も笑う。
 まだまだ不安はある。でも……

「皆! 終わったら大宴会だよ!!」

 あのころ、一年前の寒空の下で凍えていた頃には居なかった……

「おう! 酒場の酒樽を空にしようぜ!!」
「私は食べ歩きしたいです~」

 これからを共にできる仲間がいる。

「では、それぞれ責務を全うしなさい! 第二フェーズに移りますよ!」

 手を叩いてオルトリンデが締めた。

「了解!! 国内の監視網兼連絡網は構築できましたか!」
「現在9割、糸子さんが最終調整中です!」
「バステト団長さん達の様子は?」
「近衛騎士団先行部隊が防衛陣の構築に成功、戦えてます……損失無し!」
「よかった……ここから一時間、持たせます。医療班を前線に、空挺騎士団、観測チームに中型、大型の魔物の動向を監視させて随時報告を」

 この戦いのために女郎蜘蛛の糸子には国内の蜘蛛を総動員させて、弥生がギルド祭でやろうとしていた糸電話による連絡網を国を丸ごとカバーさせた。
 これの利点は糸が切れたらそこで何かがあったとすぐわかる事、連絡ポイントさえ把握していればリアルタイムで誰でも情報が得られることだった。

 デメリットとしてはこちらの情報を伝える際、一度送信側がしゃべるのを止めないと混線して何を言ってるか聞き取れなかったり、切れた糸をつなぎなおすのにやっぱり蜘蛛が居ないといけないので一斉に何か所かでトラブルが起きると機能が一気に落ちるというピーキーさだ。

「前線より通達、敵軍後方に布をかぶせられた大きな荷物を運搬中の多脚戦車を確認……2機で1機を牽引して動かしているようです」
「2機で1機……三交代で消耗を押さえるつもりだね……ジェミニ、これをお城の屋上にレンちゃんと文香に渡して」
 
 窓際で窓枠にぶら下がりながら待機しているジェミニにメモを預けて向かわせる。

「それにしても、弾で吹っ飛ばせたディーヴァってせいぜい1000程度のはず。もっと一気に来てもいいのになんか温いなぁ」

 今の所、近衛騎士団も対応できているし本番である中型、大型の敵が控えているのだが割と上手く行っている手ごたえを弥生は感じる。

「それはこれだけ準備してますから……じゃ、無いんですか?」

 弥生のつぶやきを聞いた連絡係の書記官が期待を込めて問う。

「いや、その……その通りなんだけど。私が考えすぎてるだけだから大丈夫ですよ」

 最悪のパターンをいくつも脳裏に浮かべながら指揮を執ってるので、自然と弥生は疑り深くなる。ただ単に杞憂の場合が多いのだが周りは分からない。
 それに思い至り、弥生が表情を明るくする。

「近衛騎士団の皆さんが強すぎて抑え込みが楽だったりするかもしれませんし」
「そうですね、切り札も温存してますし」
「うん、びっくりだよ……その手があったかって」
「だからこそ、ミルテアリアもベルトリアもウェイランドを挟んで喧嘩しないんですよ」
「だねぇ。あ、そういえばミルテアリアとベルトリアへの緊急連絡は届いたかな?」

 飛竜を駆る空挺騎士団の中から移動速度の速い数名を選出して、緊急連絡をそれぞれ各国に送った。可能であれば増援か避難民の受け入れ、探索者や商人と言った国を跨いで活動している団体への対応を丸投げしてある。
 
「そろそろ、ベルトリアへはついてるかもしれません。イストさ~ん、どう思います?」

 そこは空挺騎士団のイストが詳しいはずと連絡員が手持無沙汰なイストへ声をかけた。

「特急でしょ? もうとっくに着いてるはずだよ」
「「は?」」

 普通にジェミニを飛ばしても数日かかるのに、たった一日半でどうやって?
 その答えはすぐに帰ってくる。

「二匹の飛竜で空を上れるだけ上がって、向かう飛竜が落ちながら速度を上げれば倍くらいの速度で飛べるよ? あの訓練だけは騎士が乗ってると出来ないからあんまり見たことないだろうけど」

 なんで早くなるんだろうかはわかんないけど。
 イストはそう言うが、弥生ははっきりと、書記官の連絡員はなんとなくわかった。
 位置エネルギーを速度に転換、つまり高い所から落として速度を稼いでから翼で滑空しているのだ。頑丈な飛竜ならではの方法である。

「ならちゃんと避難を始めてくれてるかもしれませんね」
「うん、じゃあ安心して専念しようか!」
「ですね! 監理官補佐!」

 それから数分、とうとう糸子の奮闘と蜘蛛達の努力の結晶『監視網兼連絡網改めクラウドネット』が完成した。
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