長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
215 / 255

ウェイランド防衛戦! ② 起きた……

しおりを挟む
「さあ、頼むぜ禁忌武装! おおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 砂ぼこりにまみれ、いまだ耳がじくじくと痛むアルベルトだが役目を全うしようと開き始めた北門から雄たけびを上げて駆けだす。
 すでに齢60とは思えないほどその疾走は速く、前線が崩れたディーヴァの群れが再編成に戸惑う。事前の想定では爆撃ではせいぜい先頭の群れを崩して数が減るかも……と言った程度なのだが、弥生の細工により腕や頭が千切れたディーヴァがそこらかしこに散乱していた。

「……ん?」

 背後ではアルベルトの身辺を一生懸命支えてきたメイドたち、通称「陛下のお世話し隊」が一撃離脱の準備のためアルベルトを追いかけてくる。それは良い、事前に分かっていたことだ。
 しかし、アルベルトは激烈に嫌な予感を感じている。

「何だこりゃ……うんともすんとも言わんが!?」

 桜花の言う通りに手順を踏んだにもかかわらず、禁忌武装である『剣』はアルベルトから魔力も吸わないでただただ金属の光沢を返すのみだった。

「どう見ても不発……だよな?」

 とは言えとにかく一体くらいディーヴァを斬らないといけない。
 後ろでは突撃の姿勢で備えている騎士団が、すぐ横には普段から甲斐甲斐しく自分を支えてくれている美人のメイドさん達が見守ってくれているのだ。
 久しぶりに味わう『やってはいけない』のプレッシャーにアルベルトの胃がキリキリと悲鳴を上げる。

「せめてただの剣でも良いから斬れてくれ」

 機械油の匂い、漂う土と鋼の焼ける煙、迫る脅威。
 仕方なくアルベルトは気持ちを切り替えて近接戦闘に突入した。

「陛下!?」

 随伴するメイド長、鍛えすぎてもはや騎士団と同じくらい戦えちゃう人なのでアルベルトの異変にもいち早く気づいた。

「切り込む! のろしを上げろ!!」
「……かしこまりました!!」

 もはや迷う暇などない、ディーヴァはこちらを見つけて無事な個体から次々と集まりつつある。
 手信号でメイド長が隣のメイドに信号弾の打ち上げを指示するのと、アルベルトが剣を振り上げるのはほぼ同時だった。

 黒い表皮、すべての個体が成人男性と同じ程度の大きさで皆一様に同じ姿をしている。その不気味な敵に向けてアルベルトは両手で振りかぶった剣をまっすぐに振り下ろす!

「おおおおぉぉ!」

 がきん!

 …………切れなかった。

「あれ?」

 アルベルトがよくよく見ると……本来、鋭く研がれているはずの『刃』がない。
 つまり……ただただディーヴァは殴られただけで、微動だにしていないのだ。実際ディーヴァもそれに気づいており、ただただ鉄の棒で殴られた程度と脅威度が低め、しかもアルベルトが見た目初老の男性なのでディーヴァから攻撃を仕掛けられないという不思議な状況が出来上がってしまう。

「陛下! しゃがんでくださいませ!」

 メイド長が腰の剣を抜き放ち、横なぎに振り抜いた。

 ――ギリャン!!

 アルベルトがしゃがむと同時にその頭上を剣が通過、綺麗に刃筋が立った一閃はディーヴァの首を半ばまで切り裂くものの……

「くぅっ!」
 
 さすがにとっさの一撃では両断できず、刃が食い込み剣を取り落してしまった。

「メイド長! くうっ!!」

 仕方なくアルベルトはなまくらの剣をディーヴァの頭部へ突き入れる。鈍い打撃音としっかり体重を乗せた突きは見事にディーヴァの頭部へ命中し、大きくのけぞる。
 その間にアルベルトがメイド長の腰を抱く様に引き寄せ、踵を返した。

「陛下!?」
「ダメだこりゃ! 剣が全く斬れねぇ!!」

 周りのメイドも今のやり取りを認識して一斉に引き返す。
 ディーヴァもさすがに今のアルベルトの一撃とメイド長の一太刀は脅威とみなしたのか一斉にとびかかり始めた。
 その勢いやまるで砂糖菓子に群がるアリの様で、後発の騎士団も思わず背筋が凍るような光景。
 
「バステト!! すまん! 退く!! この剣使えねぇ!!」

 バステト団長も心得たもので引き返すアルベルトの経路を開けたまま戦闘に加わる。

「近衛騎士団! 止めるぞ!!」

 一斉にバステト団長を中心にして二列に広がる騎士団。
 ウェイランドの騎士、その特徴である防衛の陣形が同じようにいくつも広がっていく。

 ――あれ? 始まってる?

 騎士団の邪魔にならぬように陣形の合間を縫ってメイドと国王が逃げる中、アルベルトの腰に差してある切れない剣から声が響く。

「あ? 今誰かしゃべったか!?」
「いえ?」

 その声はアルベルトの耳にだけ、やけにクリアな声音で届いた。

 ――ごめん、寝てた……チャージ終わってるから、撃って良いよ。

 再び、まるでひだまりで寝ぼけているかのような子供の声。
 しかし、その言葉の意味が重要でアルベルトは即座に気づく。

 腰に差した剣が先ほどまでと違い、淡く光を放ち始めた。

「剣が……しゃべった?」
『おはよ……ごめん、久しぶり過ぎて臨界のさせ方忘れてた』
「臨界!? まったく意味が分からないが!?」
『工夫した。2回まで敵に向かって振るうと良いよ? 射程は40メートル』
「斬れるのか!? 刃が無いのに!!」
『あ、鞘が無いからしまってた』
「はやくだせぇぇ!!」

 勢いよく両足を踏ん張ってアルベルトは転進する。
 地面をどかどかと踏み、慌てて今度は騎士団の背後から前線へ向かうのだ。

 メイドたちは何が起きているのかわからないが一人で行かせる訳にもいかないので……とりあえず追いかける。

「陛下!? 一体何を!?」
「俺が知りたい!! なんかこの剣寝ていたとかぬかしやがる!! バステト!! どいてくれぇ!!」
『おっそいなぁ……あ、老化進んでるんだ。

 剣が言うが早いか、アルベルトの全力の踏み出しが……

 ――ズドン!!

 地面を陥没させ、その身を十メートルほどの高さに舞い上がらせる。

「あ?」

 視界の下に、剣を振るうバステト団長たちが見えた。

『アレが敵? なんだ……てっきり、大型戦車とかだと思ったのに』

 明らかに落胆した感じの声に、アルベルトがいろいろ問い詰めたいが。

「良い位置じゃねぇか!」

 ハリのある若々しいアルベルトの声に、抜剣の音が重なる。
 そう、丁度戦端が丸見えで横薙ぎするのにちょうどいいのだ。何人かの兵士が異変というかアルベルトの声に気づいて上空を仰ぐのと、抜き放たれた光り輝く剣が音を置き去りに大量のディーヴァと地面を派手に抉り抜いたのは同時だった。

「もう一撃!!」

 振り抜いた剣を勢いそのままに、今度はまっすぐに、天から地へ破壊の線を引く。
 まるでディーヴァの墓標にしようと十字の痕にするように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...