214 / 255
ウェイランド防衛戦! ①
しおりを挟む
「これで良いのかな? 弥生監理官補佐」
北門から数十メートル先の幹線道路でノルトの民の皆さんがずらりと整列して5個の球を投げるだけの簡単なお仕事でした。
さすがに外の様子が見えない上に、城壁が衝撃と音を防ぎきっているので皆も……なんか外がすごい事になっている気がする。程度にしか思えない。
「ありがとうございます! 後は手筈通りにノルトの民の皆さんは南門へ向かってそのまま船でエルフの国へ向かってください!! 気を付けて!!」
両手を使ってメガホンの様にして弥生が声を張り上げる。
そうでもしないと一番後ろの皆さんまで声が届かないんだもん。
「了解……気を付けて」
「ありがとうございます、コストさん……」
普段の弥生なら『コスト的にもありがとうございます!』と、ネタにするだろうが今は真面目にやらなきゃいけないのでちょっとだけ考えただけだった。
「じゃあね。騎士団のみんなも頑張って!!」
ずしん、ずしんと足音を響かせてノルトの民が避難を始める。
声をかけられた騎士団たちもそれぞれ手を振ったり面当てを上げて返事を返した。
現在彼らは門の前にずらりと整列し、開門を今か今かと待ち構えている。その数3000人、全員が完全装備で尚且つぎりぎりまで鍛冶職人がそれぞれの鎧に竜鱗の補強を施していた。
「さて、と……クロウさんから連絡がないなぁ。かけてみるか」
彼らを見送って弥生は貴重な携帯端末を操作してクロウを呼び出す。
数秒ほど電子音が鳴り響いた後、回線がオンラインになってクロウとつながった……つながったのだが……。
『恨むぞ、弥生監理官補佐……』
地の底から響くような雰囲気を纏ったクロウのうめき声と何やら騒ぐアルベルトの声がスピーカーから飛び出してきた。
「……やっぱり、威力大きくなったんですね!! やったぁ!!」
『確信犯かっ!? 事前にイエェェ!!』
「で、効果は?」
『もう嫌この監理官補佐!! 無事かどうかより爆発規模の方が気になってる!!』
「時間が無いので3,2,1! はい!」
『知らねぇよ!? 土煙で何も見えねぇよ!?』
「ちっ……空挺騎士団の皆さん! おかわり所望です!! ついでに観測も!!」
『……舌打ちしやがったこの女子高校生』
弥生さん、なかったことにして家の屋根に飛竜に乗って待機している空挺騎士団、5人に手を振ってサインを送る。
空挺騎士団も心得たもので、クロウとのやり取りを無視して次々と浮上し城壁を越えてディーヴァの大群へと追加の爆薬を落としに向かう。
余剰分の材料で作れたのは十発程度、一人二個づつ追加爆撃だ。
「クロウさんとアルベルト陛下は北門内側で待機を、爆撃終わったらすぐに開門します!」
『了解、ほら陛下! 行きますよ!!』
端末の向こう側で二人が慌ててこちらへ向かう様子が感じ取れて、弥生はひとまず通信を切った。
門の前では待機している近衛騎士団も開門後の最終確認をしている。ここまでは前哨戦、直接戦うのはこれからである。
「弥生監理官補佐、後は大丈夫だ。統括ギルドで指揮を執ってくれ」
一人の隊長が弥生に声をかけた。実際弥生のここでの仕事は爆弾の投擲タイミングと空挺騎士団の爆撃まで、そこから先は近衛騎士団長バステトが現場の指揮官になる。
そろそろ紙装甲の弥生さんは後ろに下がるタイミングだった。
もちろんそれをわかっている弥生は声をかけてくれた隊長に頷く。
「お願いします。絶対に死ぬ前に撤退を……施療院と魔法士ギルドの回復魔法を使える人たちが手当の為に控えてますから」
「ああ、生きてさえいれば勝ちだと全員に伝えてる。任せてくれ」
「はい!」
そうして弥生は迷いなくジェミニに乗り、その場を離れようとする。
ゆっくりと上がる視界の先……城壁の外側では、黒煙と炎が吹き荒れて空挺騎士団が敵の密集地帯へ爆撃を続けていた。今のところ敵も対応しきれずに空挺騎士の飛竜は全員無事だが……ここから先は犠牲者が出る。
「皆……死なないで」
ぎゅっと、力強く握ったジェミニの手綱を伝わり弥生の中の葛藤がジェミニにも伝わる。
「ぎゃう……」
元々自分もあの空挺騎士団で空を飛んでいた。それだけに今の彼らの心情など察するのは簡単だ……民を守るために自分たちは居る。だから……必要であれば敵を可能なかぎり屠るためにその命を使うだろう。
「ありがとう、ジェミニ。行こう、オルちゃんが待ってる」
弥生をいたわるようなジェミニの声に、弥生の表情が少しだけ緩む。
「ぎゃう!」
そしてジェミニはぐるりと旋回し、出来るだけ低くギルドへ向かい飛翔した。
できる限り弥生に凄惨な光景を見せないために。
「開門と同時に、アルベルト陛下が全力の一撃……それからすぐ離脱して騎士団が食い止めて……」
何度も何度もそのジェミニの背で、これからの段取りを反芻する弥生。
これほどまでに胸が締め付けられる緊張と、戦う力を持たない自分への葛藤が止まらない。
「もう、始まるんだ……落ち着け私。迷うな私」
今までも、前線に出て戦ったことなどない弥生は彼らの頭脳となるべく奮闘したが……今回はその小さな両肩にこの国全員の命がかかっているのだ。
皆の前では一生懸命に普段通りのふるまいをしている。それがどこまでできるかは当の本人ですらわからないが……
――ズズ……ズゥ……ン
空挺騎士の帰還に合わせて、とうとう北門が開かれる。
「お願いします……アルベルト陛下!!」
祈る様に弥生が目をつぶりながらアルベルトの一撃限りの反則技に期待の念を込めた。
「…………………………………………あれ?」
ジェミニもさすがに遅いな、と疑問を浮かべるころになっても予想された轟音は……うんともすんとも言わない。
「ぎゃうぅ?」
思わずジェミニが軽く首を曲げ、目線で『もどるか?』と弥生に問う。
「……大丈夫、だと。思おう」
非常に気になるが、もう現場の指揮権はバステト団長にゆだねている。
今は自分のやる事をやるのだ。と自分を鼓舞して弥生は振り返らずにギルドへ向かったのだった。
北門から数十メートル先の幹線道路でノルトの民の皆さんがずらりと整列して5個の球を投げるだけの簡単なお仕事でした。
さすがに外の様子が見えない上に、城壁が衝撃と音を防ぎきっているので皆も……なんか外がすごい事になっている気がする。程度にしか思えない。
「ありがとうございます! 後は手筈通りにノルトの民の皆さんは南門へ向かってそのまま船でエルフの国へ向かってください!! 気を付けて!!」
両手を使ってメガホンの様にして弥生が声を張り上げる。
そうでもしないと一番後ろの皆さんまで声が届かないんだもん。
「了解……気を付けて」
「ありがとうございます、コストさん……」
普段の弥生なら『コスト的にもありがとうございます!』と、ネタにするだろうが今は真面目にやらなきゃいけないのでちょっとだけ考えただけだった。
「じゃあね。騎士団のみんなも頑張って!!」
ずしん、ずしんと足音を響かせてノルトの民が避難を始める。
声をかけられた騎士団たちもそれぞれ手を振ったり面当てを上げて返事を返した。
現在彼らは門の前にずらりと整列し、開門を今か今かと待ち構えている。その数3000人、全員が完全装備で尚且つぎりぎりまで鍛冶職人がそれぞれの鎧に竜鱗の補強を施していた。
「さて、と……クロウさんから連絡がないなぁ。かけてみるか」
彼らを見送って弥生は貴重な携帯端末を操作してクロウを呼び出す。
数秒ほど電子音が鳴り響いた後、回線がオンラインになってクロウとつながった……つながったのだが……。
『恨むぞ、弥生監理官補佐……』
地の底から響くような雰囲気を纏ったクロウのうめき声と何やら騒ぐアルベルトの声がスピーカーから飛び出してきた。
「……やっぱり、威力大きくなったんですね!! やったぁ!!」
『確信犯かっ!? 事前にイエェェ!!』
「で、効果は?」
『もう嫌この監理官補佐!! 無事かどうかより爆発規模の方が気になってる!!』
「時間が無いので3,2,1! はい!」
『知らねぇよ!? 土煙で何も見えねぇよ!?』
「ちっ……空挺騎士団の皆さん! おかわり所望です!! ついでに観測も!!」
『……舌打ちしやがったこの女子高校生』
弥生さん、なかったことにして家の屋根に飛竜に乗って待機している空挺騎士団、5人に手を振ってサインを送る。
空挺騎士団も心得たもので、クロウとのやり取りを無視して次々と浮上し城壁を越えてディーヴァの大群へと追加の爆薬を落としに向かう。
余剰分の材料で作れたのは十発程度、一人二個づつ追加爆撃だ。
「クロウさんとアルベルト陛下は北門内側で待機を、爆撃終わったらすぐに開門します!」
『了解、ほら陛下! 行きますよ!!』
端末の向こう側で二人が慌ててこちらへ向かう様子が感じ取れて、弥生はひとまず通信を切った。
門の前では待機している近衛騎士団も開門後の最終確認をしている。ここまでは前哨戦、直接戦うのはこれからである。
「弥生監理官補佐、後は大丈夫だ。統括ギルドで指揮を執ってくれ」
一人の隊長が弥生に声をかけた。実際弥生のここでの仕事は爆弾の投擲タイミングと空挺騎士団の爆撃まで、そこから先は近衛騎士団長バステトが現場の指揮官になる。
そろそろ紙装甲の弥生さんは後ろに下がるタイミングだった。
もちろんそれをわかっている弥生は声をかけてくれた隊長に頷く。
「お願いします。絶対に死ぬ前に撤退を……施療院と魔法士ギルドの回復魔法を使える人たちが手当の為に控えてますから」
「ああ、生きてさえいれば勝ちだと全員に伝えてる。任せてくれ」
「はい!」
そうして弥生は迷いなくジェミニに乗り、その場を離れようとする。
ゆっくりと上がる視界の先……城壁の外側では、黒煙と炎が吹き荒れて空挺騎士団が敵の密集地帯へ爆撃を続けていた。今のところ敵も対応しきれずに空挺騎士の飛竜は全員無事だが……ここから先は犠牲者が出る。
「皆……死なないで」
ぎゅっと、力強く握ったジェミニの手綱を伝わり弥生の中の葛藤がジェミニにも伝わる。
「ぎゃう……」
元々自分もあの空挺騎士団で空を飛んでいた。それだけに今の彼らの心情など察するのは簡単だ……民を守るために自分たちは居る。だから……必要であれば敵を可能なかぎり屠るためにその命を使うだろう。
「ありがとう、ジェミニ。行こう、オルちゃんが待ってる」
弥生をいたわるようなジェミニの声に、弥生の表情が少しだけ緩む。
「ぎゃう!」
そしてジェミニはぐるりと旋回し、出来るだけ低くギルドへ向かい飛翔した。
できる限り弥生に凄惨な光景を見せないために。
「開門と同時に、アルベルト陛下が全力の一撃……それからすぐ離脱して騎士団が食い止めて……」
何度も何度もそのジェミニの背で、これからの段取りを反芻する弥生。
これほどまでに胸が締め付けられる緊張と、戦う力を持たない自分への葛藤が止まらない。
「もう、始まるんだ……落ち着け私。迷うな私」
今までも、前線に出て戦ったことなどない弥生は彼らの頭脳となるべく奮闘したが……今回はその小さな両肩にこの国全員の命がかかっているのだ。
皆の前では一生懸命に普段通りのふるまいをしている。それがどこまでできるかは当の本人ですらわからないが……
――ズズ……ズゥ……ン
空挺騎士の帰還に合わせて、とうとう北門が開かれる。
「お願いします……アルベルト陛下!!」
祈る様に弥生が目をつぶりながらアルベルトの一撃限りの反則技に期待の念を込めた。
「…………………………………………あれ?」
ジェミニもさすがに遅いな、と疑問を浮かべるころになっても予想された轟音は……うんともすんとも言わない。
「ぎゃうぅ?」
思わずジェミニが軽く首を曲げ、目線で『もどるか?』と弥生に問う。
「……大丈夫、だと。思おう」
非常に気になるが、もう現場の指揮権はバステト団長にゆだねている。
今は自分のやる事をやるのだ。と自分を鼓舞して弥生は振り返らずにギルドへ向かったのだった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる