長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ウェイランド防衛戦準備開始! ③

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「腕が鳴るねぇ……本当にやっちまっていいんだな監理官補佐」
「もちろん……でも、本当に一日であの場所までつなげられるんですか?」
「俺を疑うのか? 舐められたもんだねぇ……やってやろうじゃないか」

 統括ギルドの受付ホール、その石畳をひっくり返すとあら不思議。きれいに広げられた円形の穴と地下へと続く緩やかな階段が現れたではないか。
 弥生がこっそりと作っていた地下道路である。

「ホリーさんの掘り進む速さは知ってますけど……崩落厳禁でお願いします」
「お、おう……今回は避難道だからな。魔法士がサポートに入ってくれるし建築ギルドも手が空く連中は皆手伝ってくれる。半日あればまずはあのトンネルまでつながるだろうぜ……後はできるだけ魔法士ギルドの通路を通過するように、だっけか? なんでだ?」
「まあそれは念のため、ですよ。じゃあ、お願いしますね」
「任せとけ、向こう側で待ってるぜ」
「はい!」

 その傍らでは弥生の内職を文字通り手伝っていた一人、糸子が笑いながら見守っていた。
 こんな大規模な地下工事を内緒で実行するのを可能にしていたのは……夜音と糸子のおかげである。

「何が役に立つかわかりませんねぇ」
「本当に……実はアカシアの移動用通路のつもりだったんですけど……」

 そう、桜花と弥生は以前ロボットを作っていた。アカシアと言う名の搭乗型戦闘ロボットを……いろいろあって街中を飛ばしたりするのは危ないと言う判断で、ギルドの中庭の一角にひっそりと格納庫を建ててしまわれていた。
 それを不憫に思った弥生が思いついたのが『空がだめなら地下で行こう!』と掘り始めたのである。

「夜音ちゃんが楽しそうでしたね~」
「妖怪ってすごいですね……目の前で立ってるのにわかんなかったり、こう……なんか近寄らせなかったり」
「あたしや糸子さんで驚いてたらウチの宿には泊まれないわよ?」

 ひょい、と神出鬼没の夜音が弥生の後ろから現れた。

「ひゃあ!? 夜音ちゃん……いつの間に?」
「最初から、護衛つけないとまたあの宰相の頭に10円ハゲできるわよ?」
「あ、あはは。気を付けます」

 ぽりぽりと頭を掻いて苦笑いを浮かべる弥生、そう。誘拐事件の後ふらふらと歩いてたら鬼の形相で泣くクロウ宰相に懇願されたのだ。その時頭に見えてしまった十円玉ほどの大きさの……それ以来気を付けてはいるが偶に忘れるので秘書部が順繰りに弥生係を決めている。

「夜音ちゃん、女将さん居ました?」
「ん、ああ……それが勘違いだったみたいで……居なかった」
「そうでしたかぁ……」
「まあ、今のこの状態で合流されたら即戦力だけどね。ゆきゆきが本気になったら大陸一つ丸ごと凍るじゃん?」
「ですねぇ」

 夜音と糸子の働く妖怪旅館は日本の東北、青森にあった。
 一般の人も泊まれるテレビにも何度か取り上げられていた老舗旅館『雪中花』、その女将が何を隠そう現役バリバリの雪女で鬼塚雪菜と言う。

「そんな人までいるんだぁ……」
「……弥生、あんたウチの旅館に泊まったことあるんじゃないの???」
「え? そうなの?」
「まあ、そんな気がしただけなんだけど……」

 その根拠は単純に初めて会った時から気になっていたその女将さん、雪菜の気配がほんの僅かに弥生から感じられた気がしたのだ……しかし。

「宮城で暮らしてましたけど、遠出して泊まりに行くことってあんまり記憶にないんですよね」
「ふぅん、ま、いいや。宮城だったらゆきゆきも遊びに行ってたりしたし……」

 もしかしたらただ単に袖すり合うも他生の縁、すれ違ったか何かしただけかもしれない。
 そう思って夜音は追及しなかった。

「それよりも夜音ちゃん、アレは使えそう?」
「問題なかった……と、思う。うん、まあ、きっと、多分……些細な問題。じゃないかもしれないけど見なかったことにする」
「……今は魔物大発生に役に立つかどうかだけ知りたいなぁ」
「役には立つわよ……前代未聞だもん」

 アルベルト国王が持ってきた剣を見て夜音は驚く。念のためにと弥生に一言入れて地下に向かったのだが……割と長い人生で初めての事態にぶち当たる。
 本音はこんな事態でなければじっくりと原因を追究したい。

「じゃあ、不問で……運用は夜音ちゃんに任せる」
「あいあいまむ……確かに機械人形相手じゃ私じゃ力不足だもんなぁ……文句はないよ」

 実は今回、夜音さんはあんまり活躍できないからと住民の避難誘導に回るつもりだったのだが……桜花の提案である事を試しに行った。

「ここはこれくらいでいいかな……糸子さん、夜音ちゃん! よろしくね!」

 そう言って詳しく聞かないまま弥生は次の現場へと向かう、ギルドの出入り口ではすでにジェミニが待機していて颯爽と弥生が飛び乗れ……ない。
 べしゃりとジェミニの翼に直撃して、慌ててジェミニが介抱しながら背中にそっと乗せる。

「……あの子、本当に運動神経ないのよね?」
「うん? 弥生ちゃんは運動音痴ですよ?」
「そうよね……」

 今までと変わらない弥生の挙動のはずなのに、なぜか夜音は違和感がぬぐえなかった。
 あれだけ体力づくりをしているのにも関わらず相変わらず文香にはかけっこで勝てない……はずだ。
 
「さて、私も久しぶりにみんなを集めてがんばりますよっ!」
 
 ふんすっ! と両手の拳を突き上げるメイド服姿が定着した糸子さん。
 これから国中の蜘蛛に大集合をかけて大仕事をするのだ。

「はあ……じゃあ私も行ってくるわ……またね糸子さん」
「はぁい」

 外は夜の帳が落ちかけて……茜色の空が青く染まり始めている。
 逢魔が時……闇に潜む怪異の時間。

 その本領を発揮できる彼女らは気楽な様子でそれぞれの闇に潜る。
 朝日を迎える準備のために……接敵まで後、24時間。
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