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ウェイランド防衛戦準備開始! ①
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「資料とやりかけの仕事の書類はそれぞれ自分の名前を書いた箱に入れて中庭へ! 持てるだけで構いません!! 道具や小物は一切合切放棄! 一時間しかありませんからね!!」
オルトリンデが書記官のフロアに檄を飛ばす。
万が一生き残れた際に何をどこまでやっていたかを残しておくのだ……それは本人たちが例え居なくなった後でも見つけてくれた誰かが継いでくれるかもしれないのだから。
「オルトリンデ監理官! 我々は衛兵のバックアップに向かいます! ご武運を!」
「逃げても良いんですよ? 一度死んでるんですから」
「ならもう死ぬ心配は無いですな。はっはっは!」
そう言いながら普段、ギルドや建物の夜間清掃を生業とする不死族の男性は壁を通り抜けて去っていく。メイド服姿の不死族もせわしなく行き交い、書記官の手伝いをしたり空になった机などを窓に向けて立てかけ、バリケードを作る者もいた。
「オルトリンデ監理官、三級書記官、二級書記官の区画は量が多すぎますので破棄します」
一級書記官を束ねるベテラン書記官も、忙しなく周りの書記官に指示を出しながらオルトリンデに随伴する。たった三十分でお昼時の休憩が中断された時は何事かと思ったが、オルトリンデの『魔物が大発生しました。緊急です』の一言で今年加入した新人以外は慌てず騒がず避難準備を始めたのは二人とも鼻が高かった。
「任せます、その分は一級書記官の搬出を優先。急ぎなさい……建築ギルドの親方衆が来ますよ。あの人達せっかちですからねぇ」
「ですな、しかし……本当に掘るんですか? 避難通路……」
「弥生ができると言ってるので……」
そう、これから空っぽになる統括ギルドは地上側が堅牢なシェルター。地下に国民の避難通路ができる……48時間で。その案は誰を隠そう弥生の発案で……まさかの建築ギルドの親方衆が数人、共犯者だと言う。
「オルトリンデ監理官も大概変でしたが……今度の監理官は意味が不明です」
ベテランさんの眼差しが遠くなる。オルトリンデも大概フットワークが軽すぎて付いていくのが大変なのだが……弥生はもう真逆だ。ふらふらしてるように見えて裏では何かを進めている。
見えるか見えないかだけの差なのだが、少しはついていく方の身にもなってほしい物である。
「……私って、そんなに変です?」
「ええまあ、とても」
自覚がないんだろうな、今までさんざん言ってきたけど治ってないもん。と力なくベテランさんはオルトリンデに答える。
「……あなた、もしかして監理官を私が辞めたら居なくなるから言える内に言っておこうとか思ってません?」
「ええ、こんな機会めったにありませんからな」
「私、管理官補佐で居続けますけど?」
「うそだろ……行き遅れに拍車掛けたぞ、この上司」
「来季のボーナス、覚悟してくださいね?」
オルトリンデさんは実はモテる。表向きファンクラブとなっているがこのギルドだけでも数十人がオルトリンデに求婚して爆散していた。
だってこの見た目幼女。
――おまわりさーん! このひとでーす!
と自分からネタにしてしまったんだもん。
オルトリンデ自身もまさか自分の幼女の見た目も相まって、告白されてるとは思いもしなく……相手の心を一撃即死させてきた無自覚さんだった。
「貴女の仕事さえなくなれば報われる者もいるんですよ!?」
「私の仕事の前に国が無くなるって言ってるんですよ!?」
「「「「邪魔です! どっか行っててください! 二人とも!!」」」」
「「ア、ハイ……スミマセン」」
とうとう周りの一級書記官達に怒られるベテランさんとオルトリンデ、そりゃそうである。
檄を飛ばした本人達が雑談しまくってるんだもん。
「じ、じゃあ……ここは任せます。私、学校区域の片づけに行きますから」
「ええ、こちらも終わったら手はず通りに……」
煤けた背中を見せてオルトリンデがとぼとぼと書記官フロアを出ていく。
ベテランさんもそれを見送ってフロアの書類搬出作業に加わる。
「相変わらずですね。一桁ナンバーは」
「うるさい三桁……良いんだよこれで。ほら、そっちの未処理の束さっさと詰める」
「はいはい、で。この搬出終わったらどうするんです?」
「三桁ナンバーは衛兵のバックアップ、二桁以上は王城で騎士の手伝い、一桁は……」
「一桁は?」
「オルトリンデ監理官と共に戦いに赴くのさ、当たり前だろう?」
そう、統括ギルドの中にも戦闘を得意とするものは少ないながらもいる。
このベテラン書記官も元々はオルトリンデたちと共に、建国に関わる魔物大発生へ参戦していた一人だ。
「上が総ざらいで居なくなると困るんですけどね」
「そんときゃお前たちが一番上だ、キリキリ働け」
「はーい」
そうして書記官達は手際良く職場の整理を進めていく、どさくさに紛れていい雰囲気のカップルができそうな所がちらほら見えるのは……なんかむかつ……睦ましい。
しかし、有能で知られる一級書記官の手は速い。このままなら後十分ほどで終わるだろう。
そうなると弥生達の動向が気になった三桁さん、ベテランさんに問いかける。
「ところであのにぎやかな秘書部は?」
「なんか弥生監理官補佐が糸子さんだけ残して北門に行ったぞ……」
「糸子さんってあの蜘蛛の??? 綺麗ですよね」
「じゃあな三桁、てめえは除名だ」
鉄のおきてに従いひとけたはさんけたをなきものにした。
「ひどい……一般的に綺麗じゃないですか」
「冗談だ、彼女がここの防衛の要らしい……」
「一人で? いくら十人しかいないからって……」
普通に考えれば捨て駒にも等しい配置ではないか? 三桁はそう考えたがベテランさんの意見は違う。
「一人の方が強い場合がある。適正配置だそうだ」
「まあ、秘書部ですしね」
「ああ、秘書部だからな」
そのに十分後、想定より早く建築ギルドのギルド員がなだれ込んできてあっという間に書記官は追い出されてしまった。
元から話し合っていた通り、それぞれの役割を果たすために散っていった彼らは互いの再会を信じて進む。またあの日常を取り戻すために。
オルトリンデが書記官のフロアに檄を飛ばす。
万が一生き残れた際に何をどこまでやっていたかを残しておくのだ……それは本人たちが例え居なくなった後でも見つけてくれた誰かが継いでくれるかもしれないのだから。
「オルトリンデ監理官! 我々は衛兵のバックアップに向かいます! ご武運を!」
「逃げても良いんですよ? 一度死んでるんですから」
「ならもう死ぬ心配は無いですな。はっはっは!」
そう言いながら普段、ギルドや建物の夜間清掃を生業とする不死族の男性は壁を通り抜けて去っていく。メイド服姿の不死族もせわしなく行き交い、書記官の手伝いをしたり空になった机などを窓に向けて立てかけ、バリケードを作る者もいた。
「オルトリンデ監理官、三級書記官、二級書記官の区画は量が多すぎますので破棄します」
一級書記官を束ねるベテラン書記官も、忙しなく周りの書記官に指示を出しながらオルトリンデに随伴する。たった三十分でお昼時の休憩が中断された時は何事かと思ったが、オルトリンデの『魔物が大発生しました。緊急です』の一言で今年加入した新人以外は慌てず騒がず避難準備を始めたのは二人とも鼻が高かった。
「任せます、その分は一級書記官の搬出を優先。急ぎなさい……建築ギルドの親方衆が来ますよ。あの人達せっかちですからねぇ」
「ですな、しかし……本当に掘るんですか? 避難通路……」
「弥生ができると言ってるので……」
そう、これから空っぽになる統括ギルドは地上側が堅牢なシェルター。地下に国民の避難通路ができる……48時間で。その案は誰を隠そう弥生の発案で……まさかの建築ギルドの親方衆が数人、共犯者だと言う。
「オルトリンデ監理官も大概変でしたが……今度の監理官は意味が不明です」
ベテランさんの眼差しが遠くなる。オルトリンデも大概フットワークが軽すぎて付いていくのが大変なのだが……弥生はもう真逆だ。ふらふらしてるように見えて裏では何かを進めている。
見えるか見えないかだけの差なのだが、少しはついていく方の身にもなってほしい物である。
「……私って、そんなに変です?」
「ええまあ、とても」
自覚がないんだろうな、今までさんざん言ってきたけど治ってないもん。と力なくベテランさんはオルトリンデに答える。
「……あなた、もしかして監理官を私が辞めたら居なくなるから言える内に言っておこうとか思ってません?」
「ええ、こんな機会めったにありませんからな」
「私、管理官補佐で居続けますけど?」
「うそだろ……行き遅れに拍車掛けたぞ、この上司」
「来季のボーナス、覚悟してくださいね?」
オルトリンデさんは実はモテる。表向きファンクラブとなっているがこのギルドだけでも数十人がオルトリンデに求婚して爆散していた。
だってこの見た目幼女。
――おまわりさーん! このひとでーす!
と自分からネタにしてしまったんだもん。
オルトリンデ自身もまさか自分の幼女の見た目も相まって、告白されてるとは思いもしなく……相手の心を一撃即死させてきた無自覚さんだった。
「貴女の仕事さえなくなれば報われる者もいるんですよ!?」
「私の仕事の前に国が無くなるって言ってるんですよ!?」
「「「「邪魔です! どっか行っててください! 二人とも!!」」」」
「「ア、ハイ……スミマセン」」
とうとう周りの一級書記官達に怒られるベテランさんとオルトリンデ、そりゃそうである。
檄を飛ばした本人達が雑談しまくってるんだもん。
「じ、じゃあ……ここは任せます。私、学校区域の片づけに行きますから」
「ええ、こちらも終わったら手はず通りに……」
煤けた背中を見せてオルトリンデがとぼとぼと書記官フロアを出ていく。
ベテランさんもそれを見送ってフロアの書類搬出作業に加わる。
「相変わらずですね。一桁ナンバーは」
「うるさい三桁……良いんだよこれで。ほら、そっちの未処理の束さっさと詰める」
「はいはい、で。この搬出終わったらどうするんです?」
「三桁ナンバーは衛兵のバックアップ、二桁以上は王城で騎士の手伝い、一桁は……」
「一桁は?」
「オルトリンデ監理官と共に戦いに赴くのさ、当たり前だろう?」
そう、統括ギルドの中にも戦闘を得意とするものは少ないながらもいる。
このベテラン書記官も元々はオルトリンデたちと共に、建国に関わる魔物大発生へ参戦していた一人だ。
「上が総ざらいで居なくなると困るんですけどね」
「そんときゃお前たちが一番上だ、キリキリ働け」
「はーい」
そうして書記官達は手際良く職場の整理を進めていく、どさくさに紛れていい雰囲気のカップルができそうな所がちらほら見えるのは……なんかむかつ……睦ましい。
しかし、有能で知られる一級書記官の手は速い。このままなら後十分ほどで終わるだろう。
そうなると弥生達の動向が気になった三桁さん、ベテランさんに問いかける。
「ところであのにぎやかな秘書部は?」
「なんか弥生監理官補佐が糸子さんだけ残して北門に行ったぞ……」
「糸子さんってあの蜘蛛の??? 綺麗ですよね」
「じゃあな三桁、てめえは除名だ」
鉄のおきてに従いひとけたはさんけたをなきものにした。
「ひどい……一般的に綺麗じゃないですか」
「冗談だ、彼女がここの防衛の要らしい……」
「一人で? いくら十人しかいないからって……」
普通に考えれば捨て駒にも等しい配置ではないか? 三桁はそう考えたがベテランさんの意見は違う。
「一人の方が強い場合がある。適正配置だそうだ」
「まあ、秘書部ですしね」
「ああ、秘書部だからな」
そのに十分後、想定より早く建築ギルドのギルド員がなだれ込んできてあっという間に書記官は追い出されてしまった。
元から話し合っていた通り、それぞれの役割を果たすために散っていった彼らは互いの再会を信じて進む。またあの日常を取り戻すために。
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