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おつとめご苦労様でした!
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「やっと、終わったのじゃ……」
「お疲れ様です。あなた」
「いい加減年を考えんといかんな……」
「謝罪行脚は自業自得です。まったく……浩太が真似したらどうするんですか」
「面目ない、おい、レン……生きとるか?」
「何とか……ぶっちゃけ今すぐ寝たい」
北の大地から戻って早々に労働に駆り出されていた二人がようやく暇ができたのはエルフの国の要人観光が終わってからだった。
統括ギルドの修繕に北門の修繕、さらに交代制とは言え要人警護でひっきりなしに働いたのだから疲れて当然。本日めでたく休日と相成ったのである。
連日のレンガ搬送や左官のお手伝いでさすがの邪竜族のレンも疲れ果てていた。
それに……
「文香が使った分は取り戻せそうか?」
「結構時間がかかりそうだけど一か月もかからない、と思う」
「いきなり倒れた時は驚いたぞ全く……」
「僕も初めてだったよ……帰ってきたら文香が僕のブレスを撃てるようになってるんだもん」
そう、久しぶりに文香と会ったレンはいきなりぶっ倒れた。
まるで何かに力を吸い取られたように意識が遠のいたのだ。
「まあ、事情が事情じゃからな……楓、明日は休みじゃったよな?」
「ええ、午後から弥生ちゃんがみんなを集めて話しておきたい事があるみたいで……それが終われば明後日までお休みですよ」
「じゃあ久々にのんびりするか……レン、将棋の相手をせい」
「いいよー。これでめでたく100勝目かな」
「ぬかせ、阻止して見せる」
のんびりとした会話も久しぶりで楓も二人のお手伝いをしながらも笑っている。
「それにしてもあやつら大丈夫かの? あんな氷一枚で漂流しとったが……」
「一応目印は渡して来たし大丈夫じゃないかな? 不運だよねあのフレアベルさんの泳いでる波にオールが流されたとか」
「まあそれもそうか、着物のお嬢さんも作務衣の男も人間らしからぬ雰囲気じゃったし……妙にふてぶてしいお嬢ちゃんも居ったしな」
北の大陸から戻る途中、一枚板の氷に乗って流されるままの一行を見つけた。
事情を聴いてみたら知り合いを探していた所、筋肉ダルマがけたたましい笑い声をあげて泳いでいて、その男の起こす波が異様に高く……舵を取るためのオールが流されたのだという。
「もしかして夜音の知り合いだったかもね。聞けば良かった」
「まあうまく岸まで着けば、二週間くらいでウェイランドか何処かへたどり着くじゃろう。食べ物も渡してあるしの」
「多めに持っていて良かったね……良く無事だったよ」
「なんじゃ気づかんかったのかレン、あの作務衣の男と着物のお嬢さん恐ろしく強いぞ」
「だから、僕は戦うのが苦手だって何回言えばいいのさ……君らと一緒にしないで? ね?」
邪竜族と言うだけで恐ろしく強いレンだが、戦うのが苦手で洞爺が手合わせと言わない限り自分から戦う事はほぼない。
「そういえばそうじゃったの……まあ、戦うのは儂らに任せておればよい。そっちの方が気楽じゃからな」
「レンちゃんは農業ギルドに入るんですよね?」
「うん、一緒に作業してたノルトの民の人が進めてくれたから南側の開墾地でも広げようかなーって」
「竜が作る農作物、なんかシュールじゃな」
まあ、北の大地ではレンが主に小麦や根菜類を育てていて食べ物に困る事は無かった。
しかもどれだけの時間創意工夫したのか漬物っぽい保存食まで作っている。今回の引っ越しで元になる物はとりあえず持ってきたし、レンだけだったらちょっと無理して行って帰ってくるだけで一週間。忘れ物を取りにも行ってきたのであった。
「レンちゃんの漬物、こっちでもいっぱい作りましょうね」
「調味料いっぱいあるから何ができるか楽しみだよ。ちょっとピリ辛なのを今度作りたいかな」
漬物を漬ける竜、漬物の種類を増やそうとする竜……洞爺も何となく慣れたがこの会話を聞いている通りすがりの職人さんが軒並み笑いをこらえてるのは何となく恥ずかしい。
「ほれ、そろそろ移動するぞ。職人方の邪魔になる」
ようやく見た目だけは直った北門だが、内装や防衛の設営は専門職の出番だ。
いつまでも真ん前でグダグダしてるわけにはいかない。
「じゃあギルドまで飛んでいこうか。中庭で僕そのままお昼寝する」
「頼む、楓はどうする?」
「私は牡丹と待ち合わせているから、お昼ご飯でも買って行こうかな……何が良いです?」
「そうじゃな……工房通りの青い屋台で売っとる肉を挟んだサンドイッチが良い。甘辛い奴じゃな」
「僕もそれ食べたい、おいしいよね」
「じゃあ二人分かな、先に行ってますね」
言うなり楓が軽く跳躍してレンの肩まで飛び上がる。そのままレンの肩を足場にさらに飛ぶ。
あっという間に北門の城壁を飛び越えてウェイランドに入って行ってしまった。
「身軽だね……」
「まだ20半ばであの動き……儂、そろそろ勝てなくなりそうじゃな」
「……まだ戦う気がある洞爺に僕は戦慄してるよ。竜だけど」
「その内別な道でも探すわい、何が良いかのう……」
洞爺もレンの背中に飛び乗り、今後の事を思案する。
アークの件はあるが何かの対策を打った後はしばらくのんびりできるだろう。
それこそ洞爺も年齢が年齢なので隠居する事も考えてもいいかもしれない、と本人が一番思っている。
「陶芸なんてどう? 洞爺がお皿を作って僕が育てたお野菜乗せて」
「ふむ……悪くないのう」
ばさり、とレンが翼を打ち鳴らし。
数千年、たった一人であの洞窟に住んでいたあの頃は浮かべる事の無かった表情と、明日は何をしようかという楽しい想像を静かに宙に浮かべながら……
「良い国だよね」
「建国三十年とは思えぬ、よほど人に恵まれたのであろう国王とやらは」
「会ってみたいよね、なんか王城の中を見学するとき会えるみたいだし」
「オルトリンデの口ぶりじゃとなんかいつも死にかけとるイメージじゃが……滋養強壮に良い物でも差し入れるか。弥生の嬢ちゃんがその原因の一旦らしいからの」
レンの巨体に似合わぬゆっくりとした上昇で北門の内側に広がるウェイランドの北区画が見える。
行きかう人々も相変わらず笑顔が絶えない。
「む?」
ほんのわずかな違和感を洞爺は覚える。次の瞬間少しだけ地鳴りのような音と共に地面が揺れたのか通行人が数名周りを見ながら立ち止まる。
「地震……かな?」
「最近多いかの? 一昨日もお主が運んだレンガの山が少し崩れてしまったし」
「洞爺の居た時代のここって地震多いんだっけ?」
「うむ、それなりに多いな……まあ大丈夫じゃろ」
住民も慣れているのかすぐに平常運転に戻っていく……そんな光景を見送りつつ、統括ギルドの党に向かってレンは滑空をはじめた。
「お疲れ様です。あなた」
「いい加減年を考えんといかんな……」
「謝罪行脚は自業自得です。まったく……浩太が真似したらどうするんですか」
「面目ない、おい、レン……生きとるか?」
「何とか……ぶっちゃけ今すぐ寝たい」
北の大地から戻って早々に労働に駆り出されていた二人がようやく暇ができたのはエルフの国の要人観光が終わってからだった。
統括ギルドの修繕に北門の修繕、さらに交代制とは言え要人警護でひっきりなしに働いたのだから疲れて当然。本日めでたく休日と相成ったのである。
連日のレンガ搬送や左官のお手伝いでさすがの邪竜族のレンも疲れ果てていた。
それに……
「文香が使った分は取り戻せそうか?」
「結構時間がかかりそうだけど一か月もかからない、と思う」
「いきなり倒れた時は驚いたぞ全く……」
「僕も初めてだったよ……帰ってきたら文香が僕のブレスを撃てるようになってるんだもん」
そう、久しぶりに文香と会ったレンはいきなりぶっ倒れた。
まるで何かに力を吸い取られたように意識が遠のいたのだ。
「まあ、事情が事情じゃからな……楓、明日は休みじゃったよな?」
「ええ、午後から弥生ちゃんがみんなを集めて話しておきたい事があるみたいで……それが終われば明後日までお休みですよ」
「じゃあ久々にのんびりするか……レン、将棋の相手をせい」
「いいよー。これでめでたく100勝目かな」
「ぬかせ、阻止して見せる」
のんびりとした会話も久しぶりで楓も二人のお手伝いをしながらも笑っている。
「それにしてもあやつら大丈夫かの? あんな氷一枚で漂流しとったが……」
「一応目印は渡して来たし大丈夫じゃないかな? 不運だよねあのフレアベルさんの泳いでる波にオールが流されたとか」
「まあそれもそうか、着物のお嬢さんも作務衣の男も人間らしからぬ雰囲気じゃったし……妙にふてぶてしいお嬢ちゃんも居ったしな」
北の大陸から戻る途中、一枚板の氷に乗って流されるままの一行を見つけた。
事情を聴いてみたら知り合いを探していた所、筋肉ダルマがけたたましい笑い声をあげて泳いでいて、その男の起こす波が異様に高く……舵を取るためのオールが流されたのだという。
「もしかして夜音の知り合いだったかもね。聞けば良かった」
「まあうまく岸まで着けば、二週間くらいでウェイランドか何処かへたどり着くじゃろう。食べ物も渡してあるしの」
「多めに持っていて良かったね……良く無事だったよ」
「なんじゃ気づかんかったのかレン、あの作務衣の男と着物のお嬢さん恐ろしく強いぞ」
「だから、僕は戦うのが苦手だって何回言えばいいのさ……君らと一緒にしないで? ね?」
邪竜族と言うだけで恐ろしく強いレンだが、戦うのが苦手で洞爺が手合わせと言わない限り自分から戦う事はほぼない。
「そういえばそうじゃったの……まあ、戦うのは儂らに任せておればよい。そっちの方が気楽じゃからな」
「レンちゃんは農業ギルドに入るんですよね?」
「うん、一緒に作業してたノルトの民の人が進めてくれたから南側の開墾地でも広げようかなーって」
「竜が作る農作物、なんかシュールじゃな」
まあ、北の大地ではレンが主に小麦や根菜類を育てていて食べ物に困る事は無かった。
しかもどれだけの時間創意工夫したのか漬物っぽい保存食まで作っている。今回の引っ越しで元になる物はとりあえず持ってきたし、レンだけだったらちょっと無理して行って帰ってくるだけで一週間。忘れ物を取りにも行ってきたのであった。
「レンちゃんの漬物、こっちでもいっぱい作りましょうね」
「調味料いっぱいあるから何ができるか楽しみだよ。ちょっとピリ辛なのを今度作りたいかな」
漬物を漬ける竜、漬物の種類を増やそうとする竜……洞爺も何となく慣れたがこの会話を聞いている通りすがりの職人さんが軒並み笑いをこらえてるのは何となく恥ずかしい。
「ほれ、そろそろ移動するぞ。職人方の邪魔になる」
ようやく見た目だけは直った北門だが、内装や防衛の設営は専門職の出番だ。
いつまでも真ん前でグダグダしてるわけにはいかない。
「じゃあギルドまで飛んでいこうか。中庭で僕そのままお昼寝する」
「頼む、楓はどうする?」
「私は牡丹と待ち合わせているから、お昼ご飯でも買って行こうかな……何が良いです?」
「そうじゃな……工房通りの青い屋台で売っとる肉を挟んだサンドイッチが良い。甘辛い奴じゃな」
「僕もそれ食べたい、おいしいよね」
「じゃあ二人分かな、先に行ってますね」
言うなり楓が軽く跳躍してレンの肩まで飛び上がる。そのままレンの肩を足場にさらに飛ぶ。
あっという間に北門の城壁を飛び越えてウェイランドに入って行ってしまった。
「身軽だね……」
「まだ20半ばであの動き……儂、そろそろ勝てなくなりそうじゃな」
「……まだ戦う気がある洞爺に僕は戦慄してるよ。竜だけど」
「その内別な道でも探すわい、何が良いかのう……」
洞爺もレンの背中に飛び乗り、今後の事を思案する。
アークの件はあるが何かの対策を打った後はしばらくのんびりできるだろう。
それこそ洞爺も年齢が年齢なので隠居する事も考えてもいいかもしれない、と本人が一番思っている。
「陶芸なんてどう? 洞爺がお皿を作って僕が育てたお野菜乗せて」
「ふむ……悪くないのう」
ばさり、とレンが翼を打ち鳴らし。
数千年、たった一人であの洞窟に住んでいたあの頃は浮かべる事の無かった表情と、明日は何をしようかという楽しい想像を静かに宙に浮かべながら……
「良い国だよね」
「建国三十年とは思えぬ、よほど人に恵まれたのであろう国王とやらは」
「会ってみたいよね、なんか王城の中を見学するとき会えるみたいだし」
「オルトリンデの口ぶりじゃとなんかいつも死にかけとるイメージじゃが……滋養強壮に良い物でも差し入れるか。弥生の嬢ちゃんがその原因の一旦らしいからの」
レンの巨体に似合わぬゆっくりとした上昇で北門の内側に広がるウェイランドの北区画が見える。
行きかう人々も相変わらず笑顔が絶えない。
「む?」
ほんのわずかな違和感を洞爺は覚える。次の瞬間少しだけ地鳴りのような音と共に地面が揺れたのか通行人が数名周りを見ながら立ち止まる。
「地震……かな?」
「最近多いかの? 一昨日もお主が運んだレンガの山が少し崩れてしまったし」
「洞爺の居た時代のここって地震多いんだっけ?」
「うむ、それなりに多いな……まあ大丈夫じゃろ」
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