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何だってこんな時にっ!!
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どうしたらいいのだろう。
姉として、兄として、弥生と真司は末の妹である文香の惨状を目の当たりにして戦慄していた。
「……ちっ、しけてやがるぜ」
包み紙の中の飴玉の数をひーふーみーと数えて乱暴なしぐさでポケットへ突っ込む文香。
「まだ持ってんだろ? ほらジャンプしてみろよ」
怯える同級生はぴょんぴょん跳ねるが当然持ってない、さっき文香に献上したので全部だった。
「も、もう無いよ。文香ちゃん」
「あああ? 文香……様だろう? ああん!?」
もはや単なるヤンキーである。
茶色に染められてざっくりと後ろに漉かれた髪を振り乱し、こすれるほど長い……多分弥生の予備のスカートをはいて、どこから手に入れたのか建築ギルドの若い衆が来ているような黒の長そでを肩に引っ掛け、その背中にはカタカナで『ヨロツク』と……おそらくヨロシクと書きたかったんだろう。
今まで見たことのない文香がそこにいた。
「ね、姉ちゃんが文香のおやつ勝手に半分食べたからグレたんだ……」
「し、真司が文香のソーセージ勝手につまみ食いして帳尻合わせに自分のも食卓に出す前に食べたのがバレたからグレたんだ……」
いっそすがすがしい程に互いの罪を暴露する姉弟がそこにいた。
「何をやっておるのじゃおぬしら……早く支度をせんか」
本日の護衛役、神楽洞爺が呆れたように促すも三人は相変わらずの謎コントを繰り広げている。
「洞爺おじいちゃん。文香がグレたんですよ!? なんでそんなに冷静なんですか!!」
「ありゃあただ単に飴玉を独り占めしようとした子の飴を取り返して、皆に再分配しとるだけじゃろう」
朝一番に統括ギルドの中にある職員の子供向けの学校へ登校した文香、そこまではいつもの文香だったのだが。そろそろケイン第三王子の観光案内のために文香を連れて行こうと弥生と真司が迎えに来た時には……すでにこんな有様でしたとさ。
「そんなの分かってるよ!? 爺ちゃん!! よく見て、その老眼進んで細かい字が見づらそうな眼で! しっかりと!!」
「真司、お主言うようになったの……言われんでも遠くはよう見えるわい。確かにワイルドじゃのう」
「感想それだけ!? 認知まで衰えたの!?」
「……お主の方が酷いと気づけ、な?」
散々な言われようの洞爺が諦めて文香にもうお出かけだよ、と声をかける。
するとやっぱり単なるノリでやっていた文香が大人しく準備を始めた。飴を独り占めしていた子達もばれちゃったー、とはしゃぎながら文香にまたねーと教室に戻っていく。
「あああ! お帰り文香!!」
「うんうん、いつもの文香だ」
「兄と姉がしばらく見ぬ間にポンコツになっとるの。大変じゃな文香」
「この間までシリアスターンだったのー」
「そうかそうか、じゃあ暫くこのノリは続くんじゃな? 儂、耐えられるかのう?」
ただでさえ妻にこっぴどく叱られた挙句にのんびりする間もなく警護メンバーに加えられて働き通しの洞爺さんである。まあ、引っ越しの荷解きやその他もろもろの家事が苦手な彼からしたら……ちょうどいい暇つぶしともなるので悪い事ばかりでは無かった。
「おじーちゃん、浩太くんは?」
くいくい、と洞爺の着物の袖を引っ張りながら文香が問いかける。
年齢が同じなのであっという間に仲良くなり、ほとんど毎日遊んでいた。
「あの子は楓と観光中じゃよ。まだ服とか買い揃えきれてないのでのぅ」
「そっかぁ、明日は遊べる?」
「ケイン王子とやらが帰ったら遊べるのぅ」
今日からケイン王子の滞在が終わる4日後までは文香は一応、国賓のお見合い相手なのだ。
今朝だって割と乗り気じゃなかったのか学校に寄ってから~と大騒ぎだったのを、何とか宥めて今に至る。
「はーい」
髪の毛の色も余所行きの格好に合わせるためにほんのりと染めたのも文香の機嫌を損ねる要因となっていた。
「ちゃんとお勤めが終わったらな、ところでその服どうしたのじゃ?」
「キズナおねーちゃんに悪い人風になりたいって言ったら用意してくれたのー」
「……さよか。あんまり似合っておらぬから今度からは別なのにしような?」
「文香もなんか違うなって思った」
でも、キズナが用意してくれたのだからと演技指導込みでちゃんと一回はやってみたという所らしい。
「そうじゃの、今度儂がちゃんと悪人とは何かを教えてあげよう」
「………………わかった!」
なんかほんの一瞬だけ文香の表情が陰った気がしたが、気のせいだろう。
「ほら文香、着替え着替え」
「じーちゃん、これ楓姉から預かってるから羽織って」
いつの間にやらキャリーバックを引っ張ってきていた真司と弥生が洞爺と文香を急かす。
勝手知ったる統括ギルドの一室のドアに『使用中』の札を下げて臨時の着替え室にしちゃった。
「文香動きづらい服嫌だなぁ……」
「かたじけない……真司、儂の眼がおかしく無ければこれは新選組の……」
文香はひらひらの服が嫌で洞爺は歴史のある偉人と同じような羽織に気後れする。
とは言え時間もあんまりない。今日は移動が多い日なのだからと諦めて着替えに移った。
「楓姉が治安を守るならこれでしょ! って得意気だったよ?」
「……まあ良い、では弥生、文香。着替えの間は見張り番をする。終わったら呼ぶと良い」
「「はーい」」
もちろん弥生も昨日の余所行き弥生さんにバージョンアップする。
「今日は何も起きないといいなぁ」
「真司、旗を立てるな……自分で回収せねばならなくなるぞ?」
「そんないつもいつも問題ばかり起きるわけがないって……心配性だなぁ、爺ちゃんは」
「本当に儂が居ない間に何があったのじゃ!? クワイエットの奴もおらんし誰に聞いても答えんし!? 何、あ奴は死んだのか!?」
いえ、洞爺の反応が面白くて周りが自然とそんなことをしているだけです。
本人? どっかのタイミングで明かされる……かもしれない。
「なんかこんな雰囲気久しぶりだよね~」
「ただで終わる気がせんの!?」
姉として、兄として、弥生と真司は末の妹である文香の惨状を目の当たりにして戦慄していた。
「……ちっ、しけてやがるぜ」
包み紙の中の飴玉の数をひーふーみーと数えて乱暴なしぐさでポケットへ突っ込む文香。
「まだ持ってんだろ? ほらジャンプしてみろよ」
怯える同級生はぴょんぴょん跳ねるが当然持ってない、さっき文香に献上したので全部だった。
「も、もう無いよ。文香ちゃん」
「あああ? 文香……様だろう? ああん!?」
もはや単なるヤンキーである。
茶色に染められてざっくりと後ろに漉かれた髪を振り乱し、こすれるほど長い……多分弥生の予備のスカートをはいて、どこから手に入れたのか建築ギルドの若い衆が来ているような黒の長そでを肩に引っ掛け、その背中にはカタカナで『ヨロツク』と……おそらくヨロシクと書きたかったんだろう。
今まで見たことのない文香がそこにいた。
「ね、姉ちゃんが文香のおやつ勝手に半分食べたからグレたんだ……」
「し、真司が文香のソーセージ勝手につまみ食いして帳尻合わせに自分のも食卓に出す前に食べたのがバレたからグレたんだ……」
いっそすがすがしい程に互いの罪を暴露する姉弟がそこにいた。
「何をやっておるのじゃおぬしら……早く支度をせんか」
本日の護衛役、神楽洞爺が呆れたように促すも三人は相変わらずの謎コントを繰り広げている。
「洞爺おじいちゃん。文香がグレたんですよ!? なんでそんなに冷静なんですか!!」
「ありゃあただ単に飴玉を独り占めしようとした子の飴を取り返して、皆に再分配しとるだけじゃろう」
朝一番に統括ギルドの中にある職員の子供向けの学校へ登校した文香、そこまではいつもの文香だったのだが。そろそろケイン第三王子の観光案内のために文香を連れて行こうと弥生と真司が迎えに来た時には……すでにこんな有様でしたとさ。
「そんなの分かってるよ!? 爺ちゃん!! よく見て、その老眼進んで細かい字が見づらそうな眼で! しっかりと!!」
「真司、お主言うようになったの……言われんでも遠くはよう見えるわい。確かにワイルドじゃのう」
「感想それだけ!? 認知まで衰えたの!?」
「……お主の方が酷いと気づけ、な?」
散々な言われようの洞爺が諦めて文香にもうお出かけだよ、と声をかける。
するとやっぱり単なるノリでやっていた文香が大人しく準備を始めた。飴を独り占めしていた子達もばれちゃったー、とはしゃぎながら文香にまたねーと教室に戻っていく。
「あああ! お帰り文香!!」
「うんうん、いつもの文香だ」
「兄と姉がしばらく見ぬ間にポンコツになっとるの。大変じゃな文香」
「この間までシリアスターンだったのー」
「そうかそうか、じゃあ暫くこのノリは続くんじゃな? 儂、耐えられるかのう?」
ただでさえ妻にこっぴどく叱られた挙句にのんびりする間もなく警護メンバーに加えられて働き通しの洞爺さんである。まあ、引っ越しの荷解きやその他もろもろの家事が苦手な彼からしたら……ちょうどいい暇つぶしともなるので悪い事ばかりでは無かった。
「おじーちゃん、浩太くんは?」
くいくい、と洞爺の着物の袖を引っ張りながら文香が問いかける。
年齢が同じなのであっという間に仲良くなり、ほとんど毎日遊んでいた。
「あの子は楓と観光中じゃよ。まだ服とか買い揃えきれてないのでのぅ」
「そっかぁ、明日は遊べる?」
「ケイン王子とやらが帰ったら遊べるのぅ」
今日からケイン王子の滞在が終わる4日後までは文香は一応、国賓のお見合い相手なのだ。
今朝だって割と乗り気じゃなかったのか学校に寄ってから~と大騒ぎだったのを、何とか宥めて今に至る。
「はーい」
髪の毛の色も余所行きの格好に合わせるためにほんのりと染めたのも文香の機嫌を損ねる要因となっていた。
「ちゃんとお勤めが終わったらな、ところでその服どうしたのじゃ?」
「キズナおねーちゃんに悪い人風になりたいって言ったら用意してくれたのー」
「……さよか。あんまり似合っておらぬから今度からは別なのにしような?」
「文香もなんか違うなって思った」
でも、キズナが用意してくれたのだからと演技指導込みでちゃんと一回はやってみたという所らしい。
「そうじゃの、今度儂がちゃんと悪人とは何かを教えてあげよう」
「………………わかった!」
なんかほんの一瞬だけ文香の表情が陰った気がしたが、気のせいだろう。
「ほら文香、着替え着替え」
「じーちゃん、これ楓姉から預かってるから羽織って」
いつの間にやらキャリーバックを引っ張ってきていた真司と弥生が洞爺と文香を急かす。
勝手知ったる統括ギルドの一室のドアに『使用中』の札を下げて臨時の着替え室にしちゃった。
「文香動きづらい服嫌だなぁ……」
「かたじけない……真司、儂の眼がおかしく無ければこれは新選組の……」
文香はひらひらの服が嫌で洞爺は歴史のある偉人と同じような羽織に気後れする。
とは言え時間もあんまりない。今日は移動が多い日なのだからと諦めて着替えに移った。
「楓姉が治安を守るならこれでしょ! って得意気だったよ?」
「……まあ良い、では弥生、文香。着替えの間は見張り番をする。終わったら呼ぶと良い」
「「はーい」」
もちろん弥生も昨日の余所行き弥生さんにバージョンアップする。
「今日は何も起きないといいなぁ」
「真司、旗を立てるな……自分で回収せねばならなくなるぞ?」
「そんないつもいつも問題ばかり起きるわけがないって……心配性だなぁ、爺ちゃんは」
「本当に儂が居ない間に何があったのじゃ!? クワイエットの奴もおらんし誰に聞いても答えんし!? 何、あ奴は死んだのか!?」
いえ、洞爺の反応が面白くて周りが自然とそんなことをしているだけです。
本人? どっかのタイミングで明かされる……かもしれない。
「なんかこんな雰囲気久しぶりだよね~」
「ただで終わる気がせんの!?」
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