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エルフの国からのお見合い ③
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「……そろそろリフォームが必要と確かにオルトリンデから聞いてはいたが。随分とまあ……風通しが良い物だ。ここまで我慢して使う必要ないと儂は思うが?」
ぱっくりと開いた統括ギルドの側面の穴は、一階のギルドホール、二階の事務棟、三階のオルトリンデの執務室までにまたがっていて……いかに激しい衝撃があったのかを物語っていた。
流石と言うべきは職員だろう、民間人など戦えない者を完全に守り切って、なおかつ自分たちもせいぜい擦り傷で済ませていたという報告をアルベルト国王は受けている。
「は、まあこの穴。昨日開いたからですな……建築ギルドはさすがですね、大破しても倒壊の恐れなしとは城より頑丈です」
「有事の際の要塞の役割も十分担えるというコンセプトなだけあるが……修繕にいくらかかるんだ。クロウ?」
「エルフの国へ邪竜族の鱗で出来た装備を買ってもらいましょう……もう国庫は今年度分予算使い切ってますから」
「うち、貧乏なのか」
「貧乏ですね。国民の方がよっぽど裕福です」
ひゅるりらーと枯葉が一枚、国王と宰相の前をくるりと弧を描いて舞う。
「そんなにか?」
「そんなにです」
事実国王のお小遣い、最近ちょっと少ない。
事実最近国民のちょっと贅沢頻度、最近結構多い。
「儂……来年国王の座を降りるのだが、建築ギルドで雇ってくれるか?」
「無理じゃないですかね」
「最近飲みに行くお金がちょっと少なくて……」
「普通に一緒に宰相すればいいじゃないですか」
「むう……」
老後の心配をする国王を誘うクロウ、実際建国からのノウハウを持つアルベルトが裏方に回るのは悪くない。以前も話をした時には結構乗り気だったのに今は眉根を寄せて渋っているのがわからなかった。
まあ、今は物理的にそんな場合ではない。
後数時間もすれば建築ギルドの職人勢が大挙してきて修繕に取り掛かる。それまでにアルベルトも城に帰らねばならなかった。
「ケイン第三皇子が来るまであと二週間、綺麗に直りますよ統括ギルドは……私の家ももう壁の建築に着手してるみたいですし」
「宿なし宰相」
「貧乏王」
「……あ?」
「……お?」
アルベルトがクロウをにらみ上げ、クロウはそんなアルベルトの頭をむんずとつかむ。
「40年ぶりに決着つけるか苦労性のクロウ……」
「言うじゃないか借りぐらしのアル坊」
老いたとはいえアルベルトは元々魔物の大発生を生き延びた冒険者。
今でも日課の訓練を欠かしておらず、そのせいで事務作業が溜まって精神的に追い詰められるのだが騎士団でもアルベルトにかなうものはいまだに居ない。
むしろ今でも現役のクロウに着々と迫る強さを歳と共に身に着けている。
「ほら貴方達、じゃれあってないでさっさと検分終わらせてください!! 弥生たちが出勤してきちゃうじゃないですか!」
そんな二人に手を叩いて叱るオルトリンデが割って入った。
「だってこいつが!」
「この馬鹿が!!」
ぐぬぬぬぬ、と顔を突き合わせて両手で力試しを始める二人にオルトリンデが腰に手を当ててため息をつく。
「良いからやめなさい。大の大人が朝っぱらからみっともない……パーティ組んでた時から一つも変わんないですね本当」
そういえばこんな喧嘩を毎日のように見ていた気がする。
あのころと違うのは偏屈な鍛冶屋でオルトリンデと共に前線に出ていたドワーフのボルドックが居ない事だろう。
「ボルドックが居たら……さらに喧しいんでしょうねぇ……手が空いたら墓参りにでも行きましょうか」
ちなみに当人、現在弥生の両親たちと共にここへ向かっている途中だ。
「結局貸した金貨二枚、帰ってこなかったですし」
しゅるりと腰につけた鞭を広げながら、取っ組み合いへと移行した宰相と王様を仲良く縛り上げる。
「はーなーせー」
「くる、しい!」
まんま子供のような苦情を黙殺して王城へと引きずり始めるオルトリンデ、ただでさえ仕事は山積みなのだ。統括ギルドの修繕にどこかの宰相の自宅の再建築……後始末があるのだから。
「まあ、今回のエルフの国の訪問は弥生達に任せるとしますか」
ぶっちゃけエルフの国……いい加減国名を決めてほしいのだがいつまで経っても決まらないのだ。
「そういえば、弥生たちがこの国に来てどれくらいだ?」
なんだかすっかりウェイランドの国風に染まっている弥生達だが、まだ来て何年も経っているわけではない。
話だけはアルベルトも何度も聞いているがそんなに最近来たわけではないはずだった。
「この冬が過ぎたら一年ですね……あまりにも濃い一年ですけど」
「もうそんなになるのか……なんかもう数年いるみたいな感覚だが」
「珍事件から大事件まで話題には事欠かない子たちですな」
確かに緑の月に王城見学会があり弥生は襲われ、そこから先は色々あった。今はもうすぐ白の月。
深い雪が数か月このウェイランドと周辺国を覆う時期が近づいていた。
「ま、もうそろそろ私たちもお役御免が近いという事でしょう。時が過ぎるのが早いのは年を取った証拠です……婚活の一つでも始めましょうかね」
「何だコンカツって……」
「糸子がこの間一緒にお酒を飲んでる時に言ってたんです。結婚活動を縮めた言い方だそうですよ」
そういえばそんな言葉があったなぁとクロウが感慨にふける。
とは言え国にすべてを奉げてきたこの二人の友には幸せになってほしい所、クロウはまだまだ宰相に居座るつもりなので良い話があったら斡旋しようかと心に決めた。
「じゃあ、まずは目先の仕事から片付けるか」
少し話をし過ぎてしまって不死族の職員がちらほらと夜間清掃を終えて帰宅の途についている。
入れ替わりで弥生達日勤の者も来るだろう。
「そうしましょう。さあ、アルベルト国王……仕事の時間ですよ」
「うむ……城に戻るか。クロウ、後は頼む」
「は、弥生君達と打ち合わせ後戻ります」
「わかった」
ぽっかりと空いた壁の穴から身軽に出ていくオルトリンデとアルベルト国王。
その背中を見送ってクロウは踵を返す。さっさと片付けないといけない事は地味に多いのだからと。
そんなギルド会館にいつものにぎやかな声が近づいていた。
ぱっくりと開いた統括ギルドの側面の穴は、一階のギルドホール、二階の事務棟、三階のオルトリンデの執務室までにまたがっていて……いかに激しい衝撃があったのかを物語っていた。
流石と言うべきは職員だろう、民間人など戦えない者を完全に守り切って、なおかつ自分たちもせいぜい擦り傷で済ませていたという報告をアルベルト国王は受けている。
「は、まあこの穴。昨日開いたからですな……建築ギルドはさすがですね、大破しても倒壊の恐れなしとは城より頑丈です」
「有事の際の要塞の役割も十分担えるというコンセプトなだけあるが……修繕にいくらかかるんだ。クロウ?」
「エルフの国へ邪竜族の鱗で出来た装備を買ってもらいましょう……もう国庫は今年度分予算使い切ってますから」
「うち、貧乏なのか」
「貧乏ですね。国民の方がよっぽど裕福です」
ひゅるりらーと枯葉が一枚、国王と宰相の前をくるりと弧を描いて舞う。
「そんなにか?」
「そんなにです」
事実国王のお小遣い、最近ちょっと少ない。
事実最近国民のちょっと贅沢頻度、最近結構多い。
「儂……来年国王の座を降りるのだが、建築ギルドで雇ってくれるか?」
「無理じゃないですかね」
「最近飲みに行くお金がちょっと少なくて……」
「普通に一緒に宰相すればいいじゃないですか」
「むう……」
老後の心配をする国王を誘うクロウ、実際建国からのノウハウを持つアルベルトが裏方に回るのは悪くない。以前も話をした時には結構乗り気だったのに今は眉根を寄せて渋っているのがわからなかった。
まあ、今は物理的にそんな場合ではない。
後数時間もすれば建築ギルドの職人勢が大挙してきて修繕に取り掛かる。それまでにアルベルトも城に帰らねばならなかった。
「ケイン第三皇子が来るまであと二週間、綺麗に直りますよ統括ギルドは……私の家ももう壁の建築に着手してるみたいですし」
「宿なし宰相」
「貧乏王」
「……あ?」
「……お?」
アルベルトがクロウをにらみ上げ、クロウはそんなアルベルトの頭をむんずとつかむ。
「40年ぶりに決着つけるか苦労性のクロウ……」
「言うじゃないか借りぐらしのアル坊」
老いたとはいえアルベルトは元々魔物の大発生を生き延びた冒険者。
今でも日課の訓練を欠かしておらず、そのせいで事務作業が溜まって精神的に追い詰められるのだが騎士団でもアルベルトにかなうものはいまだに居ない。
むしろ今でも現役のクロウに着々と迫る強さを歳と共に身に着けている。
「ほら貴方達、じゃれあってないでさっさと検分終わらせてください!! 弥生たちが出勤してきちゃうじゃないですか!」
そんな二人に手を叩いて叱るオルトリンデが割って入った。
「だってこいつが!」
「この馬鹿が!!」
ぐぬぬぬぬ、と顔を突き合わせて両手で力試しを始める二人にオルトリンデが腰に手を当ててため息をつく。
「良いからやめなさい。大の大人が朝っぱらからみっともない……パーティ組んでた時から一つも変わんないですね本当」
そういえばこんな喧嘩を毎日のように見ていた気がする。
あのころと違うのは偏屈な鍛冶屋でオルトリンデと共に前線に出ていたドワーフのボルドックが居ない事だろう。
「ボルドックが居たら……さらに喧しいんでしょうねぇ……手が空いたら墓参りにでも行きましょうか」
ちなみに当人、現在弥生の両親たちと共にここへ向かっている途中だ。
「結局貸した金貨二枚、帰ってこなかったですし」
しゅるりと腰につけた鞭を広げながら、取っ組み合いへと移行した宰相と王様を仲良く縛り上げる。
「はーなーせー」
「くる、しい!」
まんま子供のような苦情を黙殺して王城へと引きずり始めるオルトリンデ、ただでさえ仕事は山積みなのだ。統括ギルドの修繕にどこかの宰相の自宅の再建築……後始末があるのだから。
「まあ、今回のエルフの国の訪問は弥生達に任せるとしますか」
ぶっちゃけエルフの国……いい加減国名を決めてほしいのだがいつまで経っても決まらないのだ。
「そういえば、弥生たちがこの国に来てどれくらいだ?」
なんだかすっかりウェイランドの国風に染まっている弥生達だが、まだ来て何年も経っているわけではない。
話だけはアルベルトも何度も聞いているがそんなに最近来たわけではないはずだった。
「この冬が過ぎたら一年ですね……あまりにも濃い一年ですけど」
「もうそんなになるのか……なんかもう数年いるみたいな感覚だが」
「珍事件から大事件まで話題には事欠かない子たちですな」
確かに緑の月に王城見学会があり弥生は襲われ、そこから先は色々あった。今はもうすぐ白の月。
深い雪が数か月このウェイランドと周辺国を覆う時期が近づいていた。
「ま、もうそろそろ私たちもお役御免が近いという事でしょう。時が過ぎるのが早いのは年を取った証拠です……婚活の一つでも始めましょうかね」
「何だコンカツって……」
「糸子がこの間一緒にお酒を飲んでる時に言ってたんです。結婚活動を縮めた言い方だそうですよ」
そういえばそんな言葉があったなぁとクロウが感慨にふける。
とは言え国にすべてを奉げてきたこの二人の友には幸せになってほしい所、クロウはまだまだ宰相に居座るつもりなので良い話があったら斡旋しようかと心に決めた。
「じゃあ、まずは目先の仕事から片付けるか」
少し話をし過ぎてしまって不死族の職員がちらほらと夜間清掃を終えて帰宅の途についている。
入れ替わりで弥生達日勤の者も来るだろう。
「そうしましょう。さあ、アルベルト国王……仕事の時間ですよ」
「うむ……城に戻るか。クロウ、後は頼む」
「は、弥生君達と打ち合わせ後戻ります」
「わかった」
ぽっかりと空いた壁の穴から身軽に出ていくオルトリンデとアルベルト国王。
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