長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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エルフの国からのお見合い ②

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「最後に言い残した事はあるか?」

 じゃこん! とショットガンのポンプアクションを実行して、キズナは吊るされたクロウ宰相のおしりに銃口を突き付ける。

「は、話せばわかる」
「国のために弥生の妹を差し出そうなんざ碌な話じゃねぇよ。さあ、穴を増やす覚悟はできたか?」

 あれから傷は治ったがまだ痛々しいジェノサイドもいたくご立腹で、いつもよりちょっと大きくなってるし眼がランランと紅く光っていた。
 流石にクロウですらもジェノサイドの糸は千切れないらしく、身をよじりながらくるくると天井から吊るされている。

「お願いだから降ろして説明させてくれぇ!! よりによって統括ギルドのロビーでさらし者にされるのはいやだぁぁぁ!!」
「クスクス、なかなか貴重な光景ですわね。クロウ様」
「君だけには言われたくねぇよ!? マリアベル君……あ、ウザいから合ってるのか」
「急にスンっとするなよ……気持ちだけは分かるけど」

 まあ、怒ってはいるが……本気でクロウをどうにかする気はキズナも無い……しかし、弥生から聞いている文香にお見合いをさせるという事実がある以上は言う通り吊るすしかなかった。

「説明する前になんか家が爆発したんだ……一生懸命集めた昔の道具とか、お気に入りの本が……」
「爆発って……ああ、姉貴の手榴弾か。道理で」

 エキドナが弥生の護身用に渡した手榴弾は弥生の救出の際、キズナが壁に穴を開けた物と同じ火薬を使っていて。そのサイズがこぶし大になれば……それは家くらい吹っ飛ぶだろう。

「弥生君家に入る時持ってなかったはずだが!?」
「真司が隠ぺいするよーってアーク対策に紙に魔法陣書いて貼ってたぞ」
「真司君器用すぎないかね!?」

 まさかのアーク対策が裏目に出るクロウ宰相、苦労が絶えない立ち位置です。

「で、なんで文香がお見合い相手なんだよ? エルフの結婚適齢期って20歳とかなんだろ? 8歳児とかどんな冗談だよ……」
「見た目は相手も8歳前後だよ……単純に気が合いそうだからってだけで誰も本気で文香君を嫁がせようなんて考えてない」
「なるほど、それを説明する前に爆破されたのか。誤解を解いたらいくらくれる?」
「お金取るの!?」
「少し纏まった金が必要でな。こっちに駆り出されてなきゃ、せっかく城壁周辺の魔物狩りで稼げたんだが……」
「……わかった、ついこの間部下を吊るしたのに今は自分が吊るされるとか何の冗談なんだか」

 とにもかくにもこの目立つ場所に晒されてて恥ずかしいクロウ宰相。
 有名人であるがゆえにギルドを訪れる冒険者や一般人が遠目にクスクスと笑っていたり、ギルドの職員もいたたまれないなぁ、と生暖かい眼差しだ。

 本来なら不敬罪とでもいう状況なのだが……文香をエルフの王子様とお見合いさせるという事実に弥生がどう反応するのか、そんな事わかりきってたので後で誤解が解けるだろうと放置を決め込む。
 何よりこの国でクロウを本当の意味でどうにかできる人なんか限られている。問題があれば勝手に抜け出すだろうという信頼もあった。

「まあ弥生だっていきなり妹が勝手にお見合い相手に選出されたら混乱するだろうさ、そそっかしい所もあるしな」
「理解した。今後に活かすとするよ……」

 いくら頭が良くて聡明でも弥生は16歳の少女だ。特に真司と文香については親の立ち位置で家長を務めるしっかり者でも完ぺきではない。
 ついついそれを忘れがちになる周りの大人達だが、こういう時は素直に再認識させられる。
 クロウの家だって激昂しつつも、冷静に自分の安全を確保するために防御の魔法を発動させる魔法具もちゃんと使っていた。が、そもそも弥生はいきなり暴挙に出るほど短絡的ではない。

 クロウがちゃんと導入を考えて話してあげれば防げた事態なのだ。

「俺も最近知ったんだけど、ちゃんと話すって大事だと思うぞ?」
「ぐうの音も出ない」
「本当ですわね! じゃあ、ジェノサイド様。この間抜けにも部下と同じように蜘蛛の糸で吊るされれてしまわれました宰相様を降ろして差し上げません事?」

 相変わらず建物内では無駄な日傘をくるくるとまわして、マリアベルがジェノサイドに降ろすようお願いする。しっかりと相手の心を抉る煽りは常時発動なのである。
 しかし、ジェノサイドの反応はまだおろしていいのかなぁ? と迷う様にきょろきょろしていた。
 だって……

「おかーさん! クロウ様がつるされてるよー! 楽しそう!」
「そうねぇ、こんな光景めったに見れないですから今の内に見ておきましょうね」

 などと統括ギルド内の学校に通う子供たちなどが楽しんでいるのだ。
 別な意味でこれは吊るしていても良いんじゃないのだろうかとジェノサイドが悩んでいる。
 それを仕草から読み取ったのかマリアベルがあらあらまあまあ、と楽しそうに、実に楽しそうに笑みを深めた。

「なあキズナ君。種族差があっても仕草だけでわかり合ってる例を今、見せられてるんだが!?」
「ウザインデスの連中に常識が通じると思いません事よ。何年ウェイランドの宰相をやっておられるのです?」
「建国からずっとだが!? 嫌な予感しかしないから早く卸してくれっ!?」
「どこに出荷すりゃいい?」
「どうしてこういう言葉じゃ伝わらないニュアンスが正確に伝わるのに文香君の件が伝わらないなんて事態になるのか数年単位で研究したくなってきた―――!!」
「……肺活量すごいですわねクロウ様、キズナ様お願いしますわ」

 キズナが腰の小太刀を一閃して蜘蛛の糸を斬る。 
 しゅぱん! と気持ちいい音を立ててクロウが落下するがそこは魔法に長けたクロウ、苦労することなく床に着地。

「はあ、やっと降りれた。所で弥生君は?」
「城だ、王様にアンタの解任要請をしてる」
「ノリで解任されたらさすがの私でも王城に魔法をぶち込むと思う」
「ご安心くださいませ、拝謁の申請無しで会うにはそれが一番手っ取り早いと弥生様にご進言しましたの」
「……それはそれでなんか嫌だな。はあ、肩が凝った」

 じじっ……とクロウは腕とお腹をぐるぐる巻きにしているジェノサイドの糸を魔法で電気を流して焼き切る。

「なんだ、そんな簡単に抜け出せたのか」
「いや、結構苦労している」

 要は発熱電球のフィラメントの要領で電気を流して焼いているのだが、かなりの電流を流している。
 意外と発熱電球のフィラメントの代わりになるかもしれないな、とクロウが感心した。

「何にせよ、弥生に会いに行こうぜ。今頃王様とやらに事情を聴いて反省してるかもしれねぇけど」
「それはそれで手間は省ける……しかし、こんなのは金輪際ごめんだな」

 しっかりと縛られたせいでクロウの肩も凝り固まっていた。
 それをほぐそうと片腕づつ、ゆっくりぐるぐると回す。ごきごきと音を立てる自分の肩にクロウも年を取ったな、と自覚せざるを得ない。

「あら?」

 それまで前に出ることなく、キズナの半歩後ろで会話に加わっていたマリアベルの背筋に悪寒が走る。同時に日傘以外の要因でなんかちょっと影が差した気がした。

「どうしたマリアベル、暑いのか?」

 いやそれは冷や汗ですわ。と言うが早いか。
 クロウが自宅の時の経験があったため、統括ギルド全体をフォローする極大防御呪文を発動する。

 ――宰相どのぉぉ!! 今救出するぞぉぉ!!

 キズナとマリアベルが聞きなれた濁声に口元は引きつった。

「ぜ、全員伏せるんだっ!!」

 クロウがありったけの声量で警告するとともに、久しぶりに帰って来た邪竜族の心優しき竜とその隣人である人外認定された剣客老人が統括ギルド……まあ、彼らの職場にタックルをかましたのだった。

 原因? マリアベルですが何か?
  
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