長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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閑話:さあ、闘争の時間だ……後編

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 吹き荒れるバーニアの噴射炎、それは機体の咆哮……(注:これはファンタジー小説です)
 曇天の薄明りを照り返す装甲は丁寧に砂やすりで光沢を失わせ、相手からの視認性を阻害する。

 各所の関節を制限するロック機構が今か今かと解放の時を待つ。
 せわしなく頭部で動くメインカメラが前方210度をカバーし、後頭部や側面に埋め込まれているサブカメラは排気口と兼用のスリットから全方位の視界を確保していた。

 薄暗い機体の内部には機体に命を吹き込む搭乗者が何十、何百とあるチェック項目を一人で確認していた。本来であればサポートについている人間が外部から行うのだが……彼女は違う。

 自らの手足となる機体に他人の手を加えたくなかったのだ。

「メイン項目のチェックを終了、続いてサブ項目の最終確認に移るよ

 密閉されたコクピットは180度を映すメインモニターと予備的な情報を映す10インチほどのサブモニターが二つ。その灯りで照らされるのは高速でうごめくしなやかな指と搭乗者の表情だ。
 彼女は運用を補助するAIにアカシアと名付けた……特に名前に意味は無い。何となく格好良かったんだと弥生は後日告白していた。

『了解、サブ項目のチェックリストを表示します』
「ありがと、バーニアの暖機終わった?」
『現在待機モード、通常出力の7%で稼働中』
「上出来上出来。えーと……メインモニターも起動、と。アカシア、外部スピーカーも繋いで」
『了解、メインカメラ、サブカメラ共に起動……明度調整完了。メインモニターに外部映像が投影されます。外部スピーカー起動、これよりコックピット内の音声が外部に出力されます』

 モニターに電気が通い、低い駆動音と共に外の風景が映し出される。
 そこには文香たちや開発した桜花やカタリナたちが弥生を見上げていた。いつもなら皆を見上げる側の弥生が見下ろすという視点に回るのは新鮮だった。

「なんかジェミニやジェノサイドと違った視点だね~」

 桜花達から見れば今現在、弥生の乗った機体『アカシア』が頭部のメインカメラがうぃーんとゆっくり動いている所くらいしか動きが見えていない。
 バーニアの辺りも予備点火された炎がちろちろと揺らめいていたりする。
 
「? なんか文香が喋ってる?」

 弥生が片手でサブ項目のチェックリストを点検しながらモニターを見ると、文香が笑顔で何かをしゃべってる様子が見えた。
 こっちの声は届いているはずなのだが、と弥生が首を傾げるがすぐに気づく。

「あ! ごめんアカシア、外部マイク起動」
『了解、外部マイク起動します』

 すると、ようやく外界の声と音が弥生の居るアカシアのコックピットに届いた。
 届いて来た文香の声は上機嫌ですごいすごーいとはしゃいでいる声だった。

「どう? 弥生ちゃん、アカシアの起動は順調?」

 腰に手を当てて豊かな胸を揺らしながら桜花が声をかけてくる。自分一人で起動するという弥生を見守っていたのだ。

「順調です、すみません。結局だいぶ弄っちゃって」
「問題ないわ。むしろ本格的な起動プログラムを組んじゃうとは思ってなかったから、私の手間も省けたってものよ」

 そう、今弥生が行っている起動シーケンスは自分で組んだものである。
 
「そう言ってもらえると嬉しいです。でもまだ時間がかかり過ぎてる気がするので……要改良ですね」
「……そ、そう」

 ちなみに桜花の初期起動プログラムの三分の一にまで短縮されてなお、弥生は改良するという意思を見せる事に苦笑するしかない桜花だ。

『マスター、サブ項目のチェックが終了しました。全項目オールグリーン。関節のロックを解除可能です。 YES/NO』
「お……終わった。皆! アカシアを立たせるから離れて!」

 おおーっと観客から歓声が上がり、とうとう桜花作、弥生改良の搭乗型ロボットがファンタジーな中世のお城の中庭に産声を上げる事になった。

「姉ちゃん! 退避完了!! やって!!」

 文香たちも中庭の隅っこまで避難して今か今かとアカシアを見守る。
 
「アカシア、アクティブセンサー稼働、周囲の安全確認後全関節部のロックを順次解除」
『了解、アクティブセンサー稼働……周囲に動体反応無し、四肢の関節部をロック解除します。解除後は自動で起立姿勢となります』
「おっけー」
『起動シーケンスの最終工程を実行。アカシア起動します』

 ヒィィィン……と稼働し始めて桜花製の魔力炉がアカシアの全身に魔力を送る。
 ガスタービン等と違って弥生の身体に伝わる振動はとても小さくて音も静かだ……数分立たず足首から膝の部分のロックが解除され、弥生の視界がゆっくりと高くなっていく。

 滑らかな動作でエレベーターの様に……

「わぁ! 高い!!」

 高さとしてはノルトの民の成人男性と同じくらいの6メートルほどで、何ならジェミニに乗った時など何十メートルと高い所を飛んでいたのだが……

「歩ける……」

 キーボードを操作して一歩踏み出してみる。
 ゆっくりと右足がわずかに上がりぐらりと視界が上下に揺れた。

 ――ズン

「おねーちゃん! すごいすごいー!」
「本当に動いた……立った、アカシアが立った!!」

 微妙に真司が突っ込みづらいネタを持ってきたが、桜花は感慨深げにスルーした。
 まさかキーボード操作で普通に立たせるとは思ってなかったので……。

「なんでキーボードで動作の緩急つけられるの……」
「え? 動作状況に応じて八つ位に分けて同時押しと巡行、待機、偵察、強襲、戦闘、全力稼働にシステム分けて使い分けてるだけですよ?」

 律儀に桜花のつぶやきを拾った弥生がさも当然そうに答える。

「……聞いたことが無いモードが何個も増えてるんだけど!?」
「追加しました!!」

 簡単に弥生はやったみたいに聞こえるが、桜花ですら普通に動かすプログラムを組んだだけなので用途分けして組み上げるなんて普通はできない。
 ではなんでそれを可能としたのかと言うと……

「姉ちゃん!! 早く強襲モードに!! 飛ぶ所見せて!!」

 ロボットゲーム大好きマンである真司が協力したのだ。
 そのゲームで使用されている仕様を元に作ったのでかなり開発は短縮された事実がある。

「飛ぶって……まだバランサーもスタビライザーの調整もしてない……」

 ――キィィィイイン!!

「……おーけー、もうしてあるってのね。私もう驚かない」

 弥生が両手両足、背中に装備されたバーニアをふかし始めた……甲高い駆動音に混じる吸気用のタービンがどんどん推進力を炎に与える。
 オレンジ一色だった噴出炎が徐々に青くなり細く収束されていく。

「ではでは!! いっくよー! 強襲モード!!」

 ギンッ!! と一瞬メインカメラが光を放ち、アカシアがほんの数センチ足を浮かせた。
 まるでヘリコプターの離陸のような風圧が文香たちを襲うが、腕で風を避けて姉の雄姿をその瞳に焼き付けようと目を凝らす。

 そして

「あ」

 ぽふん! と全部のバーニアが灰色の煙を吹いてアカシアが落ちた。
 
「あああ!?」

 どんがらがっしゃん! と着地のバランスが崩れてお尻を突き出した『orz』の姿勢で頭を地面に突っ込む。
 軽い地響きと共に無様な着地を晒すアカシア、その原因は……

『魔力の供給量よりも出力量が多かったため安全機構を作動しました。繰り返します……』
「くっ……桜花さん、もっといいエンジン作ってくれませんか!?」

 微妙に頭に血が上りそうな姿勢で桜花にさらなる高出力エンジンを要求するが……

「試作なんだから文句言わないでよ……今度一緒に作りましょ」

 腰に手を当て、桜花が呆れたように弥生に提案する。
 それを聞いて今度こそ飛ぼうと決意する弥生だった。

 
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