長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
180 / 255

閑話:さあ、闘争の時間だ……前編

しおりを挟む
「何ですかこれ……?」

 弥生が中庭に鎮座する鋼鉄の何かに目を丸くする。
 事の発端は昨日、桜花が『あたしの魂が闘争を求めている!!』と訳の分からない事を言い出してレンや飛竜達の憩いの場を占拠した。

 義妹で魔族のカタリナにありったけの鉄系資源を調達させて、自前のアルティメット工作機でもあるEIMSエイムスで何かを作り始めたのだ。どうせ碌な事にならないだろうとオルトリンデや弥生はため息交じりに放置していたのだが、今朝になって仕事に来たら出来上がっている。
 
 その横では機械油にまみれ、満足そうにスパナを握る桜花が仁王立ちしてた。

「ロボットよ!」

 確かに、塗装こそされていないが表面は綺麗に磨き上げられて。
 使った鉱石の地金がそのまま渋い鈍色となり、重厚感たっぷりである。

「なんで?」

 よくよく見れば、桜花曰くロボットとのことだったがノルトの民サイズの騎士の甲冑がうずくまっているように見える。
 どう考えてもなんで必要なのか弥生にはわからない、しかも結構な資材を投入したのであろう無駄に洗練されたデザインでありつつも。無骨なシルエットは……弟である真司が大変お気に入りの装備や体のパーツを組み替えて、荒廃した世界を戦う傭兵のゲームに登場してくるものそっくりだった。

「うふふふふ、魔力炉を搭載しているから出力は折り紙付き。このアセンなら勝てる」
「何に勝つんですか……こんなのノルトの民じゃないと着れないんじゃないですか?」

 まったく、髪の毛ほども興味のない弥生からしてみれば邪魔だなぁ、とか油の匂いがきつくてこまるなぁと否定的な見方しかできない。
 そんな弥生に桜花は得意気に指を振り、語り始める。

「着るっていうより操縦するのよ。アルファワン、コックピット開放」

 ――ピッ! アルファワン、コックピットオープン。音声認識機能良好

 ピシュッ、と圧縮空気のシリンダーから漏れる空気音と共にロボットの胴体部分が開いていく。
 中にはちょうど人が一人潜り込めそうなスペースにリクライニングの椅子がはまっているような状態であった。

「おお、本格的ですね。レバーって事はマスタースレーブ方式じゃないんですね操縦」
「……今、弥生ちゃんの口からマスタースレーブって当たり前のように出てきたのがびっくりよ。私」
「え? 見たらわかるじゃないですか」
「弥生ちゃん秘書官よね? 設計とかもするの?」
「お父さんが航空機とか機械の設計師だったので、割と解る方かもしれないです」

 弥生は謙遜せず、事実を言ったつもりであるが両手の収まりそうな場所にあるレバーとコックピットの中をチラ見しただけで操作方式を把握したのは……控えめに言っても異常である。
 ちなみにマスタースレーブは主従追随と言って自分の動きを機械や映像が真似をするので感覚的に動かすことには向いている。

 反対に操縦桿や車のハンドルの様に操作する場合はコツをつかめれば繊細な操作も可能だし、体力が要らない。代わりに徹底して操作の手順などを身体に慣らさないと難しいのが常だ。

「キーボードとか実装してくれたら私は乗ってみたいです」

 弥生の提案はまさかのキーボード操作だった……。何だこの子。

「……キーボードとかで動作させるとなると……結構複雑になるんだけどやれない事は無いわよ?」

 少し悩んだ後、桜花は実装を決める。
 どうせそんなに乗る人はいない、自分の趣味だけで作っただけだし弥生がもしコレを乗りこなせるのであれば安全確保が楽にもなる。

 実益も兼ねた本格戦闘ロボットの開発は進んだ。


 ――それからいっしゅうかん


「どう? 座り心地とか」

 たった一週間で桜花は弥生の特別仕様にロボットを仕立て上げた。
 キーボードの配置もかなりこだわって、弥生の操作しやすいように分割して配置したりEIMSに指示して一丁だけこのロボットが使用できるサイズのライフルを作ってみた。

 おかげで中世の雰囲気あふれるお城の中庭には、歴戦の戦争を潜り抜けたかのような戦闘ロボットが幅を利かせていた。
 その機体の中ではシートベルトを付けた弥生があちらこちらに付箋を貼る作業に没頭している。

「キーボードの対応キー、変更とかできます?」
「できるわよ、そっちのサブモニターで設定を選んでキーコンフィグから」
「はーい、じゃあこれとこれをこうして……」

 残像でも残るのではないかと言うべき速度でキーボードを打っていく弥生。
 その手さばきは桜花のタイピング速度より早くて苦笑いしか浮かばない、しかもだ。

「うーん、ソースコードって触っても良いです?」
「良いけどどこを変えるの?」
「画面の表示項目弄りたいんです、水平線とか弾薬の残量表示とかセンサー表示枠の場所変えたいです」
「……アクセスコード上げるから好きにいじりなさい」

 これはもうどうなるか、見て見たくなった桜花がマスターコードを弥生に教える。
 それからしばらくあれこれと付き合っていたのだが、だんだん桜花ですら飽きてきた。どこまで調整と言う名の改造をするのかわからなくなって……結局。

「ほどほどにしなさいね? 私ちょっと家で寝てくるから」

 急な眠気も襲ってきたし、この機体をくみ上げるのに結構集中をしてしまったので一度眠りたくなった桜花は弥生を放置してしまった。してしまったのだ。
 どうなるかを考えもせずに……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...