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閑話:さあ、闘争の時間だ……前編
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「何ですかこれ……?」
弥生が中庭に鎮座する鋼鉄の何かに目を丸くする。
事の発端は昨日、桜花が『あたしの魂が闘争を求めている!!』と訳の分からない事を言い出してレンや飛竜達の憩いの場を占拠した。
義妹で魔族のカタリナにありったけの鉄系資源を調達させて、自前のアルティメット工作機でもあるEIMSで何かを作り始めたのだ。どうせ碌な事にならないだろうとオルトリンデや弥生はため息交じりに放置していたのだが、今朝になって仕事に来たら出来上がっている。
その横では機械油にまみれ、満足そうにスパナを握る桜花が仁王立ちしてた。
「ロボットよ!」
確かに、塗装こそされていないが表面は綺麗に磨き上げられて。
使った鉱石の地金がそのまま渋い鈍色となり、重厚感たっぷりである。
「なんで?」
よくよく見れば、桜花曰くロボットとのことだったがノルトの民サイズの騎士の甲冑がうずくまっているように見える。
どう考えてもなんで必要なのか弥生にはわからない、しかも結構な資材を投入したのであろう無駄に洗練されたデザインでありつつも。無骨なシルエットは……弟である真司が大変お気に入りの装備や体のパーツを組み替えて、荒廃した世界を戦う傭兵のゲームに登場してくるものそっくりだった。
「うふふふふ、魔力炉を搭載しているから出力は折り紙付き。このアセンなら勝てる」
「何に勝つんですか……こんなのノルトの民じゃないと着れないんじゃないですか?」
まったく、髪の毛ほども興味のない弥生からしてみれば邪魔だなぁ、とか油の匂いがきつくてこまるなぁと否定的な見方しかできない。
そんな弥生に桜花は得意気に指を振り、語り始める。
「着るっていうより操縦するのよ。アルファワン、コックピット開放」
――ピッ! アルファワン、コックピットオープン。音声認識機能良好
ピシュッ、と圧縮空気のシリンダーから漏れる空気音と共にロボットの胴体部分が開いていく。
中にはちょうど人が一人潜り込めそうなスペースにリクライニングの椅子がはまっているような状態であった。
「おお、本格的ですね。レバーって事はマスタースレーブ方式じゃないんですね操縦」
「……今、弥生ちゃんの口からマスタースレーブって当たり前のように出てきたのがびっくりよ。私」
「え? 見たらわかるじゃないですか」
「弥生ちゃん秘書官よね? 設計とかもするの?」
「お父さんが航空機とか機械の設計師だったので、割と解る方かもしれないです」
弥生は謙遜せず、事実を言ったつもりであるが両手の収まりそうな場所にあるレバーとコックピットの中をチラ見しただけで操作方式を把握したのは……控えめに言っても異常である。
ちなみにマスタースレーブは主従追随と言って自分の動きを機械や映像が真似をするので感覚的に動かすことには向いている。
反対に操縦桿や車のハンドルの様に操作する場合はコツをつかめれば繊細な操作も可能だし、体力が要らない。代わりに徹底して操作の手順などを身体に慣らさないと難しいのが常だ。
「キーボードとか実装してくれたら私は乗ってみたいです」
弥生の提案はまさかのキーボード操作だった……。何だこの子。
「……キーボードとかで動作させるとなると……結構複雑になるんだけどやれない事は無いわよ?」
少し悩んだ後、桜花は実装を決める。
どうせそんなに乗る人はいない、自分の趣味だけで作っただけだし弥生がもしコレを乗りこなせるのであれば安全確保が楽にもなる。
実益も兼ねた本格戦闘ロボットの開発は進んだ。
――それからいっしゅうかん
「どう? 座り心地とか」
たった一週間で桜花は弥生の特別仕様にロボットを仕立て上げた。
キーボードの配置もかなりこだわって、弥生の操作しやすいように分割して配置したりEIMSに指示して一丁だけこのロボットが使用できるサイズのライフルを作ってみた。
おかげで中世の雰囲気あふれるお城の中庭には、歴戦の戦争を潜り抜けたかのような戦闘ロボットが幅を利かせていた。
その機体の中ではシートベルトを付けた弥生があちらこちらに付箋を貼る作業に没頭している。
「キーボードの対応キー、変更とかできます?」
「できるわよ、そっちのサブモニターで設定を選んでキーコンフィグから」
「はーい、じゃあこれとこれをこうして……」
残像でも残るのではないかと言うべき速度でキーボードを打っていく弥生。
その手さばきは桜花のタイピング速度より早くて苦笑いしか浮かばない、しかもだ。
「うーん、ソースコードって触っても良いです?」
「良いけどどこを変えるの?」
「画面の表示項目弄りたいんです、水平線とか弾薬の残量表示とかセンサー表示枠の場所変えたいです」
「……アクセスコード上げるから好きにいじりなさい」
これはもうどうなるか、見て見たくなった桜花がマスターコードを弥生に教える。
それからしばらくあれこれと付き合っていたのだが、だんだん桜花ですら飽きてきた。どこまで調整と言う名の改造をするのかわからなくなって……結局。
「ほどほどにしなさいね? 私ちょっと家で寝てくるから」
急な眠気も襲ってきたし、この機体をくみ上げるのに結構集中をしてしまったので一度眠りたくなった桜花は弥生を放置してしまった。してしまったのだ。
どうなるかを考えもせずに……
弥生が中庭に鎮座する鋼鉄の何かに目を丸くする。
事の発端は昨日、桜花が『あたしの魂が闘争を求めている!!』と訳の分からない事を言い出してレンや飛竜達の憩いの場を占拠した。
義妹で魔族のカタリナにありったけの鉄系資源を調達させて、自前のアルティメット工作機でもあるEIMSで何かを作り始めたのだ。どうせ碌な事にならないだろうとオルトリンデや弥生はため息交じりに放置していたのだが、今朝になって仕事に来たら出来上がっている。
その横では機械油にまみれ、満足そうにスパナを握る桜花が仁王立ちしてた。
「ロボットよ!」
確かに、塗装こそされていないが表面は綺麗に磨き上げられて。
使った鉱石の地金がそのまま渋い鈍色となり、重厚感たっぷりである。
「なんで?」
よくよく見れば、桜花曰くロボットとのことだったがノルトの民サイズの騎士の甲冑がうずくまっているように見える。
どう考えてもなんで必要なのか弥生にはわからない、しかも結構な資材を投入したのであろう無駄に洗練されたデザインでありつつも。無骨なシルエットは……弟である真司が大変お気に入りの装備や体のパーツを組み替えて、荒廃した世界を戦う傭兵のゲームに登場してくるものそっくりだった。
「うふふふふ、魔力炉を搭載しているから出力は折り紙付き。このアセンなら勝てる」
「何に勝つんですか……こんなのノルトの民じゃないと着れないんじゃないですか?」
まったく、髪の毛ほども興味のない弥生からしてみれば邪魔だなぁ、とか油の匂いがきつくてこまるなぁと否定的な見方しかできない。
そんな弥生に桜花は得意気に指を振り、語り始める。
「着るっていうより操縦するのよ。アルファワン、コックピット開放」
――ピッ! アルファワン、コックピットオープン。音声認識機能良好
ピシュッ、と圧縮空気のシリンダーから漏れる空気音と共にロボットの胴体部分が開いていく。
中にはちょうど人が一人潜り込めそうなスペースにリクライニングの椅子がはまっているような状態であった。
「おお、本格的ですね。レバーって事はマスタースレーブ方式じゃないんですね操縦」
「……今、弥生ちゃんの口からマスタースレーブって当たり前のように出てきたのがびっくりよ。私」
「え? 見たらわかるじゃないですか」
「弥生ちゃん秘書官よね? 設計とかもするの?」
「お父さんが航空機とか機械の設計師だったので、割と解る方かもしれないです」
弥生は謙遜せず、事実を言ったつもりであるが両手の収まりそうな場所にあるレバーとコックピットの中をチラ見しただけで操作方式を把握したのは……控えめに言っても異常である。
ちなみにマスタースレーブは主従追随と言って自分の動きを機械や映像が真似をするので感覚的に動かすことには向いている。
反対に操縦桿や車のハンドルの様に操作する場合はコツをつかめれば繊細な操作も可能だし、体力が要らない。代わりに徹底して操作の手順などを身体に慣らさないと難しいのが常だ。
「キーボードとか実装してくれたら私は乗ってみたいです」
弥生の提案はまさかのキーボード操作だった……。何だこの子。
「……キーボードとかで動作させるとなると……結構複雑になるんだけどやれない事は無いわよ?」
少し悩んだ後、桜花は実装を決める。
どうせそんなに乗る人はいない、自分の趣味だけで作っただけだし弥生がもしコレを乗りこなせるのであれば安全確保が楽にもなる。
実益も兼ねた本格戦闘ロボットの開発は進んだ。
――それからいっしゅうかん
「どう? 座り心地とか」
たった一週間で桜花は弥生の特別仕様にロボットを仕立て上げた。
キーボードの配置もかなりこだわって、弥生の操作しやすいように分割して配置したりEIMSに指示して一丁だけこのロボットが使用できるサイズのライフルを作ってみた。
おかげで中世の雰囲気あふれるお城の中庭には、歴戦の戦争を潜り抜けたかのような戦闘ロボットが幅を利かせていた。
その機体の中ではシートベルトを付けた弥生があちらこちらに付箋を貼る作業に没頭している。
「キーボードの対応キー、変更とかできます?」
「できるわよ、そっちのサブモニターで設定を選んでキーコンフィグから」
「はーい、じゃあこれとこれをこうして……」
残像でも残るのではないかと言うべき速度でキーボードを打っていく弥生。
その手さばきは桜花のタイピング速度より早くて苦笑いしか浮かばない、しかもだ。
「うーん、ソースコードって触っても良いです?」
「良いけどどこを変えるの?」
「画面の表示項目弄りたいんです、水平線とか弾薬の残量表示とかセンサー表示枠の場所変えたいです」
「……アクセスコード上げるから好きにいじりなさい」
これはもうどうなるか、見て見たくなった桜花がマスターコードを弥生に教える。
それからしばらくあれこれと付き合っていたのだが、だんだん桜花ですら飽きてきた。どこまで調整と言う名の改造をするのかわからなくなって……結局。
「ほどほどにしなさいね? 私ちょっと家で寝てくるから」
急な眠気も襲ってきたし、この機体をくみ上げるのに結構集中をしてしまったので一度眠りたくなった桜花は弥生を放置してしまった。してしまったのだ。
どうなるかを考えもせずに……
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