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とりあえず日常に戻ってまいりました!
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「あらあらまあまあ、弥生様誘拐されてましたの?」
深紅のドレスと純白の日傘、金髪縦ロールのいつもの格好でマリアベルが目を丸くする。
確かにギルド祭の後に統括ギルドが数日バタバタしている感じだったが、まさかトップ2である弥生が誘拐されていたとは思っていなかった。
「まじで国内に直接乗り込んでかっさらってくとは思ってなくて、自分の甘さに反吐が出る」
「ウェイランドは寛容な風潮ですから意外とがばがばなのですよね。城壁も魔物の大発生……スタンビート対策ですから」
「つーわけで……あんな事になってるんだけどな」
並んで歩いているキズナとマリアベル、その二人が歩道を振り返ると奴がいた。
近衛騎士が戦争などで着る『重甲冑』を装備して、鎧のパーツをごてごてと身に着けた歴戦の勇士となったジェノサイドが背負い、その少し上をジェミニがホバリングして周囲を警戒している。
弥生さん16歳であった。
「今日は日差しが強いのですが……あの中もしかしてすごく暑いのでは?」
よく見ると鎧の隙間からぽたぽたとしずくが落ちている。
一部は白い結晶が見える水滴の後もあるので……多分汗だろう。
「暑いだろうな……一応ほら、兜の所に二つ水筒ついてて水は飲めるが……」
「…………意味ありますの?」
「ねえな」
道行く人も何事かと振り返ったり、子供がほえーっとジェノサイドの足元から見上げるけど弥生さん反応できません。だって兜のサイズが合わなくて前が見えないんだもの。
「なぜ?」
「過保護な大ボスとこの国の宰相がお仕着せを用意した。以上だ」
「私やキズナ様だと単なる的ですわね?」
「だな、洞爺の爺さんなら通りすがりざまに両断できるな」
「そういえば、トウヤ様がそろそろお戻りになられると聞いておりますが?」
くるりと回れ右して話題を変える二人、どうせ目的地に着くまでの辛抱だ。
見世物扱いはマリアベルなど10年物の年季が入ってるし、キズナも他人の視線など……など……最近気にしなくなりつつあってちょっとへこむ。
「おう、多分明日か明後日位には帰ってくる」
「どうやって連絡を取ってますの? レン様に乗ってるとしか私知らないのですが」
「ああ、俺の壊れた端末渡してあるんだよ。そんで姉貴がその信号の位置でどれくらいで来るか見当つけてる」
「便利なものですわねキズナ様たちの道具って」
「そうでもねぇよ……液晶は割れてるしネットも無きゃ単なる位置を把握する板だしな。魔法の方が俺からすりゃ便利に見える、真司なんか完全に使いこなしてるしな」
今回の誘拐事件の際、地味に大活躍だったのが真司だ。魔法の種類は指輪の数だけ増やせるし判断も悪くない。さすがに朝ごはんの支度の際に魔法を使ってかまどに火を入れているのを見た時はキズナ家にも一人ほしいと思ったほどだ。
「真司様、今度魔法士ギルドで発表会に出るらしいですわよ。可愛くて魔法も堪能なんて素敵ですわぁ」
「……お前のその舌なめずりは危険だからやめろ? な? 文香に消し飛ばされるぞ? 挙句に弥生に社会的に抹殺されるから、な?」
「ふふふ、見て愛でるだけですわ! お兄様とは違うのです!」
「まあ、いいけどな」
なんかこの兄弟は文香の問答無用砲ですら何とか出来てしまいそうな理不尽さがあるので……キズナは諦める事にした。だって無駄だもん。
「あ、見えてきましたわね」
どうでもいい世間話をしながら弥生達が向かっている場所、そこは堅牢なレンガ造りの館だった。
「あれがクロウのおっさんの家か……でけぇな」
コケ一つ生えていない綺麗に手入れされた外壁、定期的に手入れされているのがわかる新緑の芝生で覆われた庭。一般開放されているのか近所の子供を預かる保育士が子供たちを連れて散歩していた。
「ご本人の他に使用人が数多く住んでおりますもの、これくらいは大きくないと」
「防犯的には良いのかあれ」
「クロウ宰相は魔法の達人ですから知らない人物だけを退ける結界魔法を張ってますわ。真司様と気が合うかもしれませんわね」
「へえ、どれどれ」
何気なく鉄ごしらえの外門を触った時だった。
――バチバチバチバチィ!!
「みぎゃあああああああああ!?」
目に見えてキズナの髪の毛が逆立ち、電撃が流れる。
「……忘れておりましたわ。これを渡すの」
マリアベルがスカートのポケットから一枚のコインを取り出す。それは武器を携行している騎士や衛兵がクロウの館に入るための通行証代わりのコインだった。
それを事前に申請してもらっておかないと防犯機能が作動する。
そもそも武器を携行して館を訪ねる者もほとんど皆無の為、マリアベルもすっかり忘れていたのだ。
「あが、が……」
プスプスと焦げ臭い匂いを発してキズナが倒れる。
さすがに致死量の電気は流れないが無視できない威力だった。滅多に見ないその光景に庭で散歩していた子供や引率の保育士の皆さんが驚いて悲鳴を上げる。
「キズナ様、生きておりますか?」
「ぐ、あ……ものすげぇいてえ」
「館の方に伝えてまいりますので少々お待ちくださいませ、弥生様~! キズナをお願い……出来ませんわね。ジェミニ様、すみませんがお願いできますかしら?」
ぱったぱったとホバリングするジェミニにキズナを託し、優雅に庭を横切ろうとしたマリアベル。
当然のことながら防犯装置は作動しない。
ちなみに今まで一切言葉を発しない弥生、その理由はしゃべって口に含んだストローが外れると詰むからである。
「……いや、今ならキズナ様を介抱する口実であれやこれや」
犯罪です。
そんな邪な思考を読んだのか、二人目の犠牲者が庭に発生するのは数秒後の事だった。
さすがこの国の宰相なだけあって思考にまで干渉できる防犯装置だったのは、この時初めて知られることになったという。
深紅のドレスと純白の日傘、金髪縦ロールのいつもの格好でマリアベルが目を丸くする。
確かにギルド祭の後に統括ギルドが数日バタバタしている感じだったが、まさかトップ2である弥生が誘拐されていたとは思っていなかった。
「まじで国内に直接乗り込んでかっさらってくとは思ってなくて、自分の甘さに反吐が出る」
「ウェイランドは寛容な風潮ですから意外とがばがばなのですよね。城壁も魔物の大発生……スタンビート対策ですから」
「つーわけで……あんな事になってるんだけどな」
並んで歩いているキズナとマリアベル、その二人が歩道を振り返ると奴がいた。
近衛騎士が戦争などで着る『重甲冑』を装備して、鎧のパーツをごてごてと身に着けた歴戦の勇士となったジェノサイドが背負い、その少し上をジェミニがホバリングして周囲を警戒している。
弥生さん16歳であった。
「今日は日差しが強いのですが……あの中もしかしてすごく暑いのでは?」
よく見ると鎧の隙間からぽたぽたとしずくが落ちている。
一部は白い結晶が見える水滴の後もあるので……多分汗だろう。
「暑いだろうな……一応ほら、兜の所に二つ水筒ついてて水は飲めるが……」
「…………意味ありますの?」
「ねえな」
道行く人も何事かと振り返ったり、子供がほえーっとジェノサイドの足元から見上げるけど弥生さん反応できません。だって兜のサイズが合わなくて前が見えないんだもの。
「なぜ?」
「過保護な大ボスとこの国の宰相がお仕着せを用意した。以上だ」
「私やキズナ様だと単なる的ですわね?」
「だな、洞爺の爺さんなら通りすがりざまに両断できるな」
「そういえば、トウヤ様がそろそろお戻りになられると聞いておりますが?」
くるりと回れ右して話題を変える二人、どうせ目的地に着くまでの辛抱だ。
見世物扱いはマリアベルなど10年物の年季が入ってるし、キズナも他人の視線など……など……最近気にしなくなりつつあってちょっとへこむ。
「おう、多分明日か明後日位には帰ってくる」
「どうやって連絡を取ってますの? レン様に乗ってるとしか私知らないのですが」
「ああ、俺の壊れた端末渡してあるんだよ。そんで姉貴がその信号の位置でどれくらいで来るか見当つけてる」
「便利なものですわねキズナ様たちの道具って」
「そうでもねぇよ……液晶は割れてるしネットも無きゃ単なる位置を把握する板だしな。魔法の方が俺からすりゃ便利に見える、真司なんか完全に使いこなしてるしな」
今回の誘拐事件の際、地味に大活躍だったのが真司だ。魔法の種類は指輪の数だけ増やせるし判断も悪くない。さすがに朝ごはんの支度の際に魔法を使ってかまどに火を入れているのを見た時はキズナ家にも一人ほしいと思ったほどだ。
「真司様、今度魔法士ギルドで発表会に出るらしいですわよ。可愛くて魔法も堪能なんて素敵ですわぁ」
「……お前のその舌なめずりは危険だからやめろ? な? 文香に消し飛ばされるぞ? 挙句に弥生に社会的に抹殺されるから、な?」
「ふふふ、見て愛でるだけですわ! お兄様とは違うのです!」
「まあ、いいけどな」
なんかこの兄弟は文香の問答無用砲ですら何とか出来てしまいそうな理不尽さがあるので……キズナは諦める事にした。だって無駄だもん。
「あ、見えてきましたわね」
どうでもいい世間話をしながら弥生達が向かっている場所、そこは堅牢なレンガ造りの館だった。
「あれがクロウのおっさんの家か……でけぇな」
コケ一つ生えていない綺麗に手入れされた外壁、定期的に手入れされているのがわかる新緑の芝生で覆われた庭。一般開放されているのか近所の子供を預かる保育士が子供たちを連れて散歩していた。
「ご本人の他に使用人が数多く住んでおりますもの、これくらいは大きくないと」
「防犯的には良いのかあれ」
「クロウ宰相は魔法の達人ですから知らない人物だけを退ける結界魔法を張ってますわ。真司様と気が合うかもしれませんわね」
「へえ、どれどれ」
何気なく鉄ごしらえの外門を触った時だった。
――バチバチバチバチィ!!
「みぎゃあああああああああ!?」
目に見えてキズナの髪の毛が逆立ち、電撃が流れる。
「……忘れておりましたわ。これを渡すの」
マリアベルがスカートのポケットから一枚のコインを取り出す。それは武器を携行している騎士や衛兵がクロウの館に入るための通行証代わりのコインだった。
それを事前に申請してもらっておかないと防犯機能が作動する。
そもそも武器を携行して館を訪ねる者もほとんど皆無の為、マリアベルもすっかり忘れていたのだ。
「あが、が……」
プスプスと焦げ臭い匂いを発してキズナが倒れる。
さすがに致死量の電気は流れないが無視できない威力だった。滅多に見ないその光景に庭で散歩していた子供や引率の保育士の皆さんが驚いて悲鳴を上げる。
「キズナ様、生きておりますか?」
「ぐ、あ……ものすげぇいてえ」
「館の方に伝えてまいりますので少々お待ちくださいませ、弥生様~! キズナをお願い……出来ませんわね。ジェミニ様、すみませんがお願いできますかしら?」
ぱったぱったとホバリングするジェミニにキズナを託し、優雅に庭を横切ろうとしたマリアベル。
当然のことながら防犯装置は作動しない。
ちなみに今まで一切言葉を発しない弥生、その理由はしゃべって口に含んだストローが外れると詰むからである。
「……いや、今ならキズナ様を介抱する口実であれやこれや」
犯罪です。
そんな邪な思考を読んだのか、二人目の犠牲者が庭に発生するのは数秒後の事だった。
さすがこの国の宰相なだけあって思考にまで干渉できる防犯装置だったのは、この時初めて知られることになったという。
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